きれいな空気は経済にも大きな効果を生む
空気の質が改善すると、経済的・社会的利益と健康増進をもたらします Image: Michael Schwarzenberger on Pixabay
- 新たな研究によると、空気をきれいにすることで、イギリス経済に年間16億ポンド(22億ドル)の効果をもたらすことが明らかになりました。
- さらに、従業員の欠勤によって失われた300万日分の労働日数を取り戻し、毎年約17,000人に上る労働者の早期死亡を防ぐことができます。
- この研究結果は、国や地方自治体が大気汚染対策を重視したグリーン・リカバリー(緑の回復)プランを立てる新たな動機になります。
新型コロナウイルスの感染拡大によるロックダウン措置が、世界中の都市で空気の質に影響を与えたというニュースは、この数か月ですっかりお馴染みになりました。
スモッグが消えた都市の写真、ロックダウン中にきれいになった空気を喜ぶ人たちの話。そして、人々が仕事に戻るにつれて、再び空気の汚染レベルが上昇しているというニュースを相次いで見るようになりました。
私たちの生活や仕事にこれほど大きな変化が起きることは、誰も望まなかったでしょうが、大気汚染の影響について、意識が高まったことは間違いありません。クリーンエア・ファンドの委託でYouGovが行った最近の調査によると、調査したすべての国(ブルガリア、インド、ナイジェリア、ポーランド、イギリス)で、大気汚染が現在の公衆衛生上の懸念事項の上位3位以内に入っています。
大気汚染がこれほど問題視されるのも当然のことで、世界保健機関(WHO)によると、環境大気汚染に関連する早期死亡者は世界全体で推定420万人で、心血管系疾患による死亡の19%、肺がんによる死亡の29%は、大気汚染が原因だとされています。このような健康への影響は、公衆衛生サービスのコストを上げるだけでなく、膨大な経済的コストも発生させます。世界銀行の推定では、2013年には、大気汚染の問題だけで世界経済に2,250億ドルに上る労働所得の損失をもたらしたとされています。
ただし、これは新型コロナウイルス感染拡大以前のこと。パンデミック(世界的大流行)による悲劇のひとつは、大気汚染に最も脆弱な地域が、新型コロナウイルス感染拡大の影響を最も受けている地域でもあるということです。つまり、大気汚染に対抗する力が不十分な地域が、影響を受けるのです。
それでも、希望はあります。ロックダウンの間に目にしたように、大気汚染はほぼ一夜のうちに改善することが可能で、汚染を改善することによって、人間の健康に与えると期待される効果は十分に証明されています。つまり、空気をきれいにすることによってもたらされる利益に目を向ける方が、現時点でより有益な考え方と言えるでしょう。
大気汚染対策の経済的利益の数値化
きれいな空気がもたらす健康への効果は、多くの研究で証明されていますが、経済への効果にはこれまであまり注意が向けられていませんでした。そのため、クリーンエア・ファンドはCBIエコノミクスに委託し、イギリスでの大気汚染減少による経済的可能性に関して、初の分析を行いました。
この分析により、健康には値段は付けられませんが、きれいな空気には値段が付けられるということに、私たちは気づきました。
CBIエコノミクスは、もしWHOが定める「安全な」空気質ガイドラインを達成すれば、イギリスだけで、毎年16億ポンド(22億ドル)もの経済効果が生まれると分析しました。これは、国民健康保健サービスや、ソーシャルケアによる健康ケアのコストを抜いた額です。
分析は、大気汚染に関連した病気による死亡率と罹患率を下げることで、死亡者の減少、欠勤の減少、さらには病気を抱えて働く日数の減少にもつながると指摘しています。個人だけでなく、その友人や家族、地域がこの恩恵を受けるのに加え、健康な国は、こうした人々のスキルや経験をつなぎとめ、活用することによって、多大な経済的利益を生むことができます。
このように、健康状態の改善による連鎖的効果は非常に大きなものです。
大気汚染が原因となっている死亡率や病気を減らすことで、毎年、労働人口にして約17,000人の早期死亡を防ぐことが可能です。
これらの人々がより長く生きて働くことで、イギリスは生産年齢人口を約40,000人確保できます。体調不良が原因で早期退職する人が減少すれば、1年目で10億ポンド(13億5,000万ドル)、将来的にはさらに大きな経済効果をもたらすと推定されます。
また、大気汚染を減らすことで、病欠、子供の看病のための休み、そして、病気によりベストな状態で仕事ができない日の日数が減少します。これは、毎年300万日分の労働日数がプラスされるのに相当します。その結果として、イギリス経済に約6億ポンド(8億800万ドル)の効果があると推定されます。
これは、イギリス経済だけではなく、労働者個人にも利益をもたらします。早期死亡や大気汚染に関連する病気が減少することで、イギリスの収入は毎年9億ポンド(12億ドル)増加するとみられています。
コール・フォー・アクション
2018年時点で、イギリスは、国が定める空気質の目標のいくつかを達成できず、WHOが推奨する「安全な」空気に関するガイドライン9分野のうち8分野で目標ペースに届いていません。
活動家たちは、2030年までのWHO空気質ガイドライン達成をイギリス政府に強く要請していますが、CBIエコノミクスの調査結果はこれを後押しするものとなっています。
調査の意義は、イギリスだけにとどまりません。ここで明らかになった事柄は、世界中の国の政府や地方自治体に対する警鐘と捉えるべきであり、すべての国民や市民の健康と福祉、そして環境を支えつつ経済を再生させるには、きれいな空気が絶対に欠かせないものであると考えなければなりません。
同様に、企業が受け取るべきメッセージもあります。大気汚染対策に取り組む行動は、従業員の健康だけでなく、収益にも良い効果をもたらします。大気汚染は国中の企業のバランスシートに打撃を与えているということが、分析から明らかになりました。これが、あらゆる業界で企業が持続可能で環境に優しい未来の実現を支持している理由であり、イギリスが2050年までにゼロエミッションの目標達成に向け、あらゆる努力を約束している理由です。
大気汚染軽減の必要性を顕著に示す、こうした経済的根拠を踏まえると、WHOの空気質ガイドライン達成がグリーン・リカバリー(緑の回復)の重要な要素であることは明らかと言えるでしょう。
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