ダイエットをしたことや禁煙を試みたことのある人なら誰でも、個人的な目標を達成するのがどれほど難しいか知っている。チョコチップクッキーをひと口かじったり、タバコをひと吸いしたりするだけで、失敗したように感じ、すべてを諦めたくなることもある。しかし、ウォートン校のマーケティング学教授であるマリッサ・シャリフは、すべてか無かという戦略よりも優れた方法を提案している。シャリフは最近、Knowledge@Whartonの取材に応じ、本人が「緊急予備枠」と呼ぶ「チートデー」を取り入れることで、人々が目標に向けて取り組み続けやすくなると説明した。彼女の研究結果は、顧客とのつながりを強めたい企業にも示唆を与える。
Knowledge@Wharton:これまでに共同執筆された研究では、緊急予備枠の利点を扱っています。その内容と、研究の背景について教えてください。
マリッサ・シャリフ:大きな視点で言えば、減量や貯蓄といった目標を消費者が達成するにはどうすればよいかを考えています。これらの論文では、「緊急予備枠」と呼ぶ柔軟性の仕組みを目標に組み込むことで、人々の意欲を高められるかを検証しています。
たとえば、ある研究では、参加者にスマートフォンで歩数を記録するアプリをダウンロードしてもらい、3種類の目標のうち1つを設定しました。1つ目は、週7日、たとえば7,000歩または10,000歩を達成するという目標です。別のグループには、週5日、7,000歩または10,000歩を達成する目標を設定しました。最後のグループには、週7日歩数目標を達成する目標を与えましたが、必要な場合に使える「緊急スキップ日」を2日分設けました。私はこの緊急スキップ日を「緊急予備枠」と呼んでいます。ほかにも、ダイエット中に1日だけ決まりを守らなくてよい緊急スキップ日や、ジムに行かない日を想像できるでしょう。あるいは、予算の中に緊急用の予算枠を設け、たとえば20ドルを好きなことに使えるようにすることも考えられます。
その結果、緊急予備枠のある人は、ほかの人より歩数目標を達成する可能性が高いことがわかりました。また、平均歩数も多くなります。つまり、目標に緊急予備枠を組み込むと、より良い成果につながるようです。
Knowledge@Wharton:主なポイントは何でしょうか。緊急予備枠があると心理的に楽になるだけですか。それとも、ほかの要因も働いているのでしょうか。
シャリフ:緊急予備枠のある人の成果が向上する理由は、2つあると思います。1つ目は、緊急予備枠を使わずに済ませようとすることです。使わずに取っておこうとします。後でもっと適切な機会や、より緊急性の高い状況が訪れるのを待っているのです。そのため、緊急事態でないのに使うと、少し後ろめたく感じます。
2つ目は、何らかの理由である日にジムへ行けなかったり、歩数目標を達成できなかったりしても、緊急予備枠を使えば、失敗したという気持ちが和らぐことです。失敗の度合いが小さく感じられるため、目標への決意が強まり、より継続しやすくなります。ここでの一般的な結論は、緊急予備枠を組み込むと成果が向上するということです。より広く言えば、目標に柔軟性を持たせることで、長期的に成果が上がる場合があります。
Knowledge@Wharton:多くの企業が、従業員に健康目標を達成するよう促しています。ブランド各社は目標達成を支援するアプリを作り、一部の店舗も顧客が特定の目標を達成できるよう取り組んでいます。そうした取り組みに緊急予備枠の考え方を取り入れるべきでしょうか。
シャリフ:はい、もちろんです。最も直接的に活用できるのは、減量プログラムやトレーナーなど、消費者が自分自身の目標を達成するのを支援する企業だと思います。先ほどお話しした明らかな利点は、緊急予備枠を組み込むことで成果を高められることです。しかし、もう1つわかった利点は、人々が緊急予備枠をとても好むことです。減量や体力づくりといった大きな目標を持つ人は、緊急予備枠のない目標よりも、ある目標を好むことがわかりました。つまり企業は、目標に緊急予備枠を組み込んで消費者の成果を高められるだけでなく、プログラムに緊急予備枠を設けることで、当初の申し込みを促すこともできます。

Knowledge@Wharton:緊急予備枠があると、目標達成の過程が人間らしくなり、より現実的になるようですね。
シャリフ:そのとおりです。ここには大きく2つの側面があると思います。1つは、融通の余地がまったくない厳しい目標よりも、達成可能だと感じられることです。もう1つは、緊急予備枠を使わないよう毎日努力する意欲が湧くことです。その結果、簡単な目標の場合よりも良い成果を出せると感じられます。
Knowledge@Wharton:この研究の次の段階は何でしょうか。
シャリフ:緊急予備枠に関する研究の次の段階では、最適な予備枠の量を調べたいと思います。限界条件はあるのでしょうか。緊急予備枠を多く与えすぎると、逆効果になるのでしょうか。たとえば、週7日歩数目標を達成する目標を設定し、緊急予備枠を4日分与えた場合、同じように機能するのか、それとも逆効果になるのか。さらに広く言えば、人々が目標に向けてより継続できるようにするほかの要因も調べています。


