私たちは、緊急性の高い時代を生きています。自殺は世界的に主要な死因の一つであり、毎年80万人もの命が失われています。
自殺は高所得国にも低所得国にも及ぶ問題です。最も大きな負担を負っているのは低・中所得国で(全自殺者の80%)、高所得国でも依然として深刻な問題となっています。
近年、世界保健機関(WHO)と国連は、メンタルヘルスと自殺予防に重点を置いた行動計画を採択し、自殺率を段階的に引き下げる目標を掲げています。WHOは2020年までに10%、国連の持続可能な開発目標は2030年までに33%の削減を目指しています。現在、40か国が自殺予防の国家戦略を策定しており、そのうちいくつかは効果を上げています。中国、デンマーク、イングランド、スイス、フィリピン、韓国など、多くの国で自殺率が低下しています。世界の自殺者数そのものは増加し続けていますが、人口増加を考慮した最近の研究によると、世界の自殺率は過去27年間で32.7%低下しました。
米国では、メンタルヘルスや自殺予防に対する意識が変化する一方で、国の自殺率は過去20年間で33%上昇し、社会的損失は年間700億ドルに上ります。自殺、アルコール、オピオイド、肝疾患による、いわゆる「絶望死」の結果、全体の死亡率は、とりわけ中年層で上昇しています。米国の成人の94%が、メンタルヘルスは身体の健康と同じくらい重要だと考えていますが、深刻なリスクを示すメンタルヘルスの変化をどう見極め、どう対応すればよいのかを知らない人が大半です。

米国では1999年という早い時期に、外科医総監が自殺を公衆衛生上の危機と宣言しました。関係する要因は多岐にわたります。孤立、苦闘、喪失、満たされない期待といった人間の経験、メンタルヘルスに関する知識の不足、そしてメンタルヘルスや物質使用障害のある人が治療を受けにくい、分断され不平等なケア体制などです。
自殺予防の分野はまだ比較的新しいものの、研究の蓄積は希望があること、そして自殺は実際に一般人口を対象として予防できることを示しています。しかし、米国で現在10番目に多い死因となっている自殺の増加に歯止めをかけるには、自殺予防の科学を発展させ、効果的な解決策へと結び付ける必要があります。その解決策を実践に移し、全米各地の地域社会で広く展開していかなければなりません。
地域と国の両レベルで自殺に立ち向かう
まず、自殺予防の科学に、その死亡者数に見合う規模の投資を行うことが極めて重要です(下図参照)。
自殺は複雑な問題ですが、健康に関連する他の主要な死因と同様、複数のリスク要因が重なり、死亡率を高めることが分かっています。遺伝的素因、脳の神経生理機能、過去と現在の環境要因、社会的決定要因、ストレス反応が認知に及ぼす生物学的な違い、衝動性や攻撃性などの問題、致死性の高い手段へのアクセスなどが含まれます。幸い、腫瘍学の分野ががんの原因、予防、治療に関する重要な問いに答えてきたように、自殺予防の研究者たちは、これらのリスク要因に対応する科学的根拠に基づいた集団レベルの解決策について合意に達しています。
こうした解決策は再現性が確認されており、内容も明確です。メンタルヘルスと自殺に関する啓発、リスクが高まる時期に致死性の高い手段へのアクセスを減らすなどの地域社会での取り組み、自殺リスクを効果的に対象とする臨床的介入が含まれます。
地域に根差した取り組みを通じたこれらの戦略の実施はまだ始まったばかりであり、医療制度、教育現場、職場を通じた集中的な全国的取り組みも、まだ始動していません。そこで、死亡率の低下とケアへのアクセス向上に効果が実証されている具体的な戦略について、政策立案者に周知する必要があります。根本的な点として、2008年メンタルヘルス・依存症平等法(連邦平等法)を全面的に施行しなければなりません。この法律は、保険会社に対し、糖尿病やがんなどの身体疾患の治療よりも厳しい条件を課すことなく、メンタルヘルスや物質使用障害の治療を補償するよう義務付けています。これにより、必要な支援を誰もが受けられるようにします。

これらをはじめとする取り組みは、メンタルヘルスと自殺予防に対する高まる国民の要望に応え、連邦および州レベルの政策による解決策への道を開きます。
地域社会全体でメンタルヘルスと自殺予防への理解と認識を深めることは、その地域の自殺率を下げると実証されています。神経可塑性やエピジェネティクスに関する基本的な理解が、作り話ではなく事実として広く共有され、それが小中高の教育や職場のウェルビーイングに、より思いやりがありトラウマに配慮したアプローチをもたらす社会を想像してみてください。精神疾患の予防は早期に始められ、自殺予防をすべての学校や小児科診療所に組み込むことができます。また、子どもも大人も、大脳皮質の発達を守り促す方法を学べます。
同様に、次のような社会を思い描いてみてください。
• 第一線で対応する人々(例:緊急対応要員、教員、医療従事者、法律・金融アドバイザー、保護観察・矯正職員、依存症カウンセラー)が、メンタルヘルスの基本的な応急対応と自殺予防の研修を受けている
• 心理的苦痛、自殺未遂、自殺による喪失に伴うことのある恥の意識を乗り越えている
• オピオイド使用障害の治療のゴールドスタンダードとして薬物療法を併用する治療(MAT)が受け入れられ、全米各州で容易に利用できる
• 自殺のバイオマーカーと予測分析がさらに洗練され、全国規模に拡大されている。これにより、プライマリケアを受けるすべての患者が、心血管疾患、がん、感染症など他の主要な死因の場合と同じように、メンタルヘルスのスクリーニングと自殺予防の介入を受けられる
• 医療制度が、自殺リスクをより低減できるケア体制になっている
希望はあります。自殺リスクの早期発見と低減につながる臨床ケアの改善に向け、新たな推奨ケア基準が最近発表されました。米国自殺予防財団では、研究への資金提供、地域社会への啓発、自殺未遂を経験した人や自殺で大切な人を亡くした人への支援が、文化を変える推進力となっています。また、AFSP(米国自殺予防財団)のプロジェクト2025などの取り組みを通じて、自殺率の低下が示されています。この取り組みは、動的システムモデルを用いて目標達成に必要なエビデンスに基づく行動を特定し、2025年までに米国の年間自殺率を20%下げるという意欲的な目標を掲げています。
変化の兆しは世界各地に見え始めており、この公衆衛生上の課題への認識の広がりを土台に、希望ある基盤が築かれています。WHOによる、自殺予防に地域社会を巻き込むためのツールキットなど、新たな資料も公開されています。メンタルヘルス・ファーストエイドのように、偏見を減らすための教育は、インドからアイルランドまで世界各地で行われています。米国では、メンタルヘルスの向上と自殺予防に有効な戦略を受け入れる機運がかつてないほど高まっています。また、自殺に関する科学的研究は、国として、そして全米各地の地域社会で自殺率を下げるために何ができるかを示せるまでに進展しました。時間を無駄にする余裕はありません。医療制度、ビジネス、労働、農業、法執行、メディア、教育、政策など、さまざまな分野のパートナーと協力し、この増加に歯止めをかける効果的な自殺予防計画を実行しなければなりません。
自殺予防は複雑な課題ですが、私たちは揺るぎません。効果的な解決策の拡大を加速させ、各国で自殺率を下げるために協力し、命を救うために必要な希望をさらに広げましょう。
地域社会で自殺を防ぐ5つの方法
• 第一線で対応する人々や医療従事者を対象に、メンタルヘルス・ファーストエイドや「トーク・セーブズ・ライブズ™」などの研修を開催する。
• 地元のAFSP支部に自殺予防と致死性の高い手段に関する啓発活動を依頼する。特に銃の保有率が高い地域社会で実施する。
• 地元メディアに安全な報道の方法に関する指針を提供し、希望、支援を求めること、回復力を促すメッセージを発信するよう求める。
• メンタルヘルスケアと自殺予防の実践をプライマリケアに組み込み、セーフティプランニングとセーフサイド・プライマリケア研修を地域の医療制度に導入する。
• 自殺リスクを低減する治療法(特に高リスクの人々を対象とするもの)を専門とする地域のメンタルヘルス提供者について周知する。具体的には、自殺念慮のある人のための認知行動療法(CBT-SP)、自殺リスクが高い成人や青年のための弁証法的行動療法(DBT)、愛着に基づく家族療法(ABFT)、自殺念慮の協働的評価・管理(CAMS)がある。


