最近行われた死因審問では、ゴマが入っていると知らずにPret A Mangerのバゲットを食べ、アナフィラキシーで死亡したナターシャ・エドナン=ラペルーズさんの死が取り上げられ、これを受けて食品表示法が改正される可能性がある。実際、最近の調査では、サンプルとして採取された食品の4分の1に、表示されていないアレルゲンが含まれていたことが分かった。しかし、もっと根本的な問題に取り組む必要がある。なぜ、これまでにないほど多くの人が重度の食物アレルギーを経験しているのだろうか。
私の著書『Another Person’s Poison: A History of Food Allergy(他人の毒:食物アレルギーの歴史)』で説明しているように、食べ物に対する奇妙な反応は、古くから知られていた。古代ギリシャの医師ヒポクラテス(紀元前460年頃~同370年頃)は、チーズを含むさまざまな食品による反応を記述している。イチゴを食べたリチャード3世にはじんましんが出た。彼はかつてこっそり「イチゴをひと皿」食べた後、その反応は政敵の一人が仕組んだ魔術のせいだと非難し、その相手は即座に斬首されたという。オーストリアの医師クレメンス・フォン・ピルケが「アレルギー」という言葉を1906年に作った頃には、食べ物が皮膚疾患や喘息、胃腸の不調、さらには精神障害まで引き起こすと、多くの人が考えていた。
1930年代、食物アレルギーはアレルギーの明確な下位分類として登場した。しかし、その存在をめぐる論争も激しかった。エドナン=ラペルーズさんの命を奪ったようなアナフィラキシー反応では、原因となる食品を特定するのは容易だったものの、こうした急激な反応はまれだった。食物アレルギーの専門家はむしろ、原因と疑われる食品を食べてから最大48時間後に反応が現れる患者に注目する傾向があった。そのため、診断ははるかに難しかった。こうした反応には、湿疹、下痢、喘息、片頭痛、うつ病や多動症などの精神的な問題が典型的な症状として見られた。
しかし、多くの医師は、診断されていない慢性疾患の多くは食物アレルギーが原因だという、食物アレルギー専門家の主張に疑いを持っていた。実際、慢性的な食物アレルギーを訴える患者の症状は心身症だと考え、精神科医に紹介するほど確信を持てない医師もいた。戦後、食物アレルギーの有病率をめぐって激しい議論が起こり、研究者の注意はこの病気の根本原因の解明からそれてしまった。
ピーナッツの登場
1980年代初頭、食物アレルギーは医学の分野で周縁化されたテーマになっていた。そこへ、医師に真剣に取り組ませる新たな現象が現れた。ピーナッツアレルギーである。1988年、カナダ医師会雑誌に、ピーナッツ油を含むビスケットを食べた後に死亡した24歳の女性の症例が掲載された。それ以前にも、同様の事例が新聞で1、2件報じられていたが、医学雑誌に報告されたのはこれが初めてだった。そして、最後ではなかった。
1990年代までには、ピーナッツアレルギーによる死亡例は珍しくなくなっていた。米国の慈善団体である食物アレルギー研究・教育機関(FARE)によると、米国の子どもでは、ピーナッツおよび木の実のアレルギーの割合が3倍に増加した(1997年から2008年にかけて)。その結果、食物アレルギーは、食物アレルギー専門家がそれまで注目していた慢性的なものではなく、重篤で命に関わる可能性のあるアレルギーと結びつけられるようになった。
FAREなどのアレルギー支援団体は、食品表示の改善、ピーナッツを持ち込まない場所(たとえば学校)の拡大、そして命を救うエピペンの入手を求めるロビー活動に成功した。エピペンは、アナフィラキシー反応を起こした人にエピネフリン(血管を収縮させ、肺の気道を広げる化学物質)を投与する。
しかし、こうしたアレルギーがなぜ急速に増えているのか、詳細な調査を行うよう科学者を説得することはできなかった。一方で、科学者たちの消極姿勢には理解できる面もあった。重度の食物アレルギーに苦しむ人が増えるなか、新たな治療法と支援を提供することが急務だったからだ。他方で科学者たちは、長らく一時的な流行と見なされてきた症状の調査に慎重だった。患者の証言に過度に依存した、疑わしく意見の分かれる診断だと考えられていたためである。
研究では引き続き治療法の可能性が探られているが、根本原因の解明に向けた取り組みは十分ではない。その空白を埋めるように、科学的研究にあまり基づいていないものも含め、論争を呼ぶ説明が数多く現れている。
考えられる説明
一つの説に、衛生仮説がある。この説では、子どもたちが過度に清潔な環境で育つため、体が有害な病原体と、ピーナッツなどに含まれる無害なタンパク質とを区別しにくくなると考える。調理法を指摘する見方もある。ピーナッツをゆでる国より、ローストする国のほうがピーナッツアレルギーは多いという。
乳児への食べ物の与え方も関係するとされている。最近の助言では、家族にアレルギーの既往歴がある母親は、早い時期に子どもにピーナッツを食べさせるべきだという。大豆の使用増加(ピーナッツの近縁種)も、食品生産での利用が増えたことが原因として挙げられている。しかし、どの説明も完全に説得力があるとは言えず、さらに論争を呼ぶ仮説が現れるに至っている。
実際のところ、ピーナッツアレルギーの流行や食物アレルギーの増加を引き起こしているものは、まだ分かっていない。その大きな理由の一つは、アレルギーの原因をめぐる、偏見のない研究が不足していることだ。そうした研究から導かれる説明が、食物アレルギーは現代的な生活様式や新しい食生活、あるいは人々と環境との関わり方の変化による副産物だと示すなら、受け入れにくい人もいるだろう。食物アレルギーの原因を究明するのは容易ではない。それでも、医学がエドナン=ラペルーズさんのような若者の悲劇を防ぐには、その解明が欠かせない。


