4人に1人は、生涯に少なくとも一度、精神疾患を経験する。
エンゲージメントの高い従業員は、メンタルヘルスの問題に悩む可能性が低い。
チームワーク、職場文化、予防が重要となる。
4人に1人の世界の人々が生涯に少なくとも一度、精神疾患を経験する。欧州連合だけでも、約5,000万人が影響を受けていると推定される。うつ病や不安症などの精神疾患は、本人と家族に大きな苦痛をもたらすだけでなく、経済に生産性の損失により、世界全体で年間およそ1兆米ドルの損失をもたらす。しかし、精神疾患が広く見られ、個人、社会、経済に甚大な負担をもたらしているにもかかわらず、メンタルヘルスの問題はいまだに偏見の対象となり、タブー視されることが多い。企業にとって、従業員のメンタルヘルスを積極的に支援することは重要だ。経済的な理由だけでなく、職場で包摂と予防を実現するためでもある。特に、精神疾患の引き金となる要因が職場にある場合も少なくない。
世界保健機関(WHO)は、精神疾患を業務関連疾患のリストに含めている。実際、仕事は身体だけでなく、精神にも問題を引き起こすことがある。例えば、日々の仕事で慢性的なストレスにさらされている人は、うつ病や不安症の症状が現れるリスクが大幅に高い。また、こうした症状は、絶えず身体的または精神的なストレスを受ける人だけでなく、仕事に慢性的なやりがいや刺激を感じられない人にも見られる。
職場での慢性的なストレスや過度の負担に加え、慢性的な刺激不足、リーダーシップの欠如、意思決定への関与不足も、メンタルヘルスに深刻な影響を及ぼす可能性がある。職場で否定的な経験が繰り返されると、社会的に孤立し、自分の仕事から疎外されていると感じるようになり、健康とウェルビーイングへの悪影響がさらに強まる。悪循環はすぐに始まりかねない。しかし、このパターンから抜け出すこともできる。仕事は精神疾患のリスク要因になり得る一方、精神的な強さの源となり、心の健康とウェルビーイング全般に良い影響を与えることも証明されている。優れたリーダーシップと支援的な職場環境があれば、仕事は「健康資源」として機能し、精神疾患の予防や発症頻度の低下に役立つ。
この実現に向け、ドイツポストDHLグループでは、次の3つの基本原則に基づく包括的で包摂的なアプローチを採用している。
1. 健康と予防に関わるすべてのステークホルダーが参加できるようにする。具体的には、経営陣、労働組合、従業員代表委員会、外部の健康専門家が集まり、協力して取り組む。健康と予防のプログラムの策定・実施にあたっては、研究機関、保健・労働・社会政策機関に加え、健康保険提供者などの外部パートナーとも連携する。
2. グループ全体で育み、推進するリーダーシップ文化には、優れたリーダーシップがメンタルヘルスに及ぼす影響を考慮している。管理職を導くための取り組みの一環として、管理職の行動やリーダーシップの指針となる具体的なリーダーシップ特性を定めている。これらの特性は、「頭、心、そして度胸」で導くという原則に基づく。つまり、目的意識と目標達成を重視するマネジメントに、情熱、思いやり、勇気を組み合わせたリーダーシップである。管理職が従業員の意欲を高め、チーム内に相互信頼の関係を築き、スタッフに自分の仕事には意義があると感じてもらえるよう支援する。これらはすべて、健全な職場環境に欠かせない。管理職には定期的かつ包括的な研修も実施している。例えば「リーダーシップとメンタルヘルス」のカリキュラムでは、管理職自身の健康と、リーダーシップのスタイルがチームの健康に及ぼす影響に焦点を当てている。メンタルヘルスの促進は、グループの健康・安全・ウェルビーイング戦略の中核要素でもある。
3. 予防に重点を置き、世界各地で働く約55万人の従業員に、ヨガ、マインドフルネス、瞑想、ストレス管理研修など、健康とウェルビーイングを促進する機会を提供する。
精神疾患のもう一つのリスク要因は、仕事に意義を感じられないことである。科学的研究では、意義のない仕事だと感じることと、疲労や睡眠障害などの症状との間に強い相関関係があることが示されている。反対に、企業の使命と社内での自分の役割の両方について、仕事に目的と意義を感じることは、心身の健康に大きく寄与する。ドイツポストDHLグループの根本的な目的は、人々をつなぎ、暮らしをより良くすることだ。暮らしをより良くする取り組みの一環として、持続可能性目標を含む企業の社会的責任にも取り組んでいる。グループ全体の環境保護プログラムであるGoGreenもその一例であり、物流に関連するすべての炭素排出量を2050年までにゼロにするという気候目標もその一つだ。従業員はさまざまな形でこれらのプログラムや施策に関わり、認定GoGreenエキスパートになったり、自らボランティアプロジェクトを立ち上げたりする機会がある。

企業の使命と持続可能性目標は、従業員に目的と意義を感じさせるとともに、個人としても職業人としても成長する機会をもたらす。これらはすべて、健全で前向き、かつ意欲を高める職場環境に大きく寄与する。3,200の異なるチームに所属する従業員11万人の疾病休業率を社内で分析したところ、従業員のエンゲージメントを高め、意思決定に参加していると感じられるようにすることが、疾病休業率を最も効果的に下げると分かった。さらに、従業員の業績や顧客満足度が向上し、個人の変化への意欲も高まる。
職場のメンタルヘルスは、私たちが取り組むべき重要な課題である。精神疾患は欠勤の大きな要因であり、生産性に直接影響するため、企業の収益面でも取り組む意義がある。しかし、企業や社会に対する強い責任感も、もう一つの動機となっている。職場そのものが精神疾患の一因となることがあまりにも多いためだ。ドイツポストDHLグループの中核目標の一つは、選ばれる雇用主になることである。その実現に向け、精神疾患を偏見の対象とせず、率直かつ建設的に取り上げる企業文化を育んでいる。最終的には、従業員、管理職、ステークホルダー、そして社会全体が恩恵を受ける。
結論:メンタルヘルスに取り組んだ約10年から得られた重要な教訓:
1. 偏見が生まれるのを防ぐため、課題や困難について、いつでも、あらゆる管理職層で率直に話し合う。
2. メンタルヘルスをリーダーの役割と位置づけ、継続的な研修を通じて管理職を支援し、適切に課題に対処できるようにする。
3. メンタルヘルスの促進を職場の健康・ウェルビーイングプログラムに不可欠な要素として組み込み、組織全体に浸透させる。


