ジョナ・バーガー教授は、自分の「面接用の靴」に特別な価値を感じた理由を考えたことをきっかけに、人々が使わない物を手元に置き続ける傾向について研究した。
バーガーは「特別さのスパイラル」について述べている。使わずにいる期間が長くなるほど、物はより特別なものになっていく。
この感情の概念を理解すれば、マーケターは自社の製品やサービスの価値を引き出せる。
家の中をさっと見回せば、おそらくこの1年に買ったものの、まだ使っていない品が見つかるだろう。ちょうどよい機会のために取ってある靴や、特別な夕食のためのワイン、あるいは宿泊客が来るときだけ出す上等なタオルかもしれない。今まで使っていないのなら、ペンシルベニア大学ウォートン校のマーケティング教授であるジョナ・バーガーは、今後も使う可能性はかなり低いと言う。彼は、買ったのに使わない物を人々がなぜ手に入れ、物が積み重なって散らかった状態になるのかを調べた最近の研究の共著者だ。散らかりには心理的な側面がある一方、消費者に製品を買ってもらうだけでなく、使ってもらい、できれば再び購入してもらいたいマーケターにとっても示唆がある。論文の題名は「非消費はいかにしてありふれた品を価値ある宝物に変えるのか」で、共著者はジャクリーン・リフキンミズーリ大学カンザスシティ校ヘンリー・W・ブロック経営学部のマーケティング助教である。
Knowledge@Wharton:この研究の概要と、このテーマに注目したきっかけを教えてください。
ジョナ・バーガー:多くの研究の着想と同じく、これも何気ない観察から始まりました。きっかけは一足の靴でした。ウォートンに来る前、何年か前に就職活動をしていたとき、面接用の靴を買いました。面接では履きましたが、その後は一度も履きませんでした。気に入らなかったからではありません。むしろ逆です。とても気に入っていたので、ふさわしい機会のために取っておこうと、いつも履くのを見送っていました。やがて流行遅れになり、処分しました。
生活のさまざまな場面で、同じようなことに気づきました。新しい靴下を何足か買うことがあります。言っておきますが、靴下はとびきり特別なものではありません。それなのに、「新しい靴下を今日おろそうかな。明日にしたほうがいいかな。もう一日待とうかな」と考えていました。一度使わずにいることで、ある意味、それがいっそう特別なものになったように感じました。使わないことで、製品の見方が変わったのです。
「なぜありふれた品が宝物になるのでしょうか?もともとそうした結びつきがなかった物を、なぜ手元に置き続けるのでしょうか?」—ジョナ・バーガー
私たちは、「これは私だけの変わった癖なのだろうか。それとも、消費者行動について何かを教えてくれて、マーケターが消費者の実情により合った対応をする助けにもなる、もっと興味深い何かがあるのだろうか」と考え始めました。
Knowledge@Wharton:共著者と6つの実験を行い、どの実験でも一貫した結果が得られたそうですね。そのうち一つを例に、説明していただけますか。
バーガー:参加者には、12ドルのピノ・ノワールを1本持っていると想像してもらいました。高級なシャンパンではなく、ごく普通のワインです。参加者の半数には、「ある晩、夕食のときにこのワインを飲もうと思ったものの、やめることにした場面を想像してください」と伝えました。
次に、全員にワインを飲む機会を提示しました。「近々、機会があります。そのとき、このワインを飲む可能性はどのくらいですか。また、このワインを飲むのに理想的な機会はどんなときですか」と尋ねました。
非常に興味深い結果が得られました。「一度使うのを見送ったと想像してください」と伝えただけで、その後、もう一度使う機会が与えられたとき、参加者は再び使わないことを選びやすくなりました。ありふれた機会に一度使うのを見送ったことで、後の機会にも使わなくなったのです。また、使うのに理想的な機会を尋ねると、より特別で、珍しく、唯一無二の機会が挙げられました。「火曜か水曜の夜に開ける」と言う代わりに、「特別な日のために取っておく」「配偶者とのデートの夜のために取っておく」「この機会にしか使わない」といった答えになりました。
もともとは、ただのワインでした。特別なものではありませんでした。しかし一度使うのを見送ると、人々はこれが特別なのかもしれないと考え始めました。使わなかったという事実が特別さを意味するのかもしれないと思い、その結果、将来使う可能性が低くなったのです。
Knowledge@Wharton:ここで、論文の中で共著者とともに示した「特別さのスパイラル」という概念につながります。説明していただけますか。
バーガー:誰にとっても、人生にはそれ自体が特別なものがあるという感覚があります。親から受け継いだ家宝の陶磁器や、結婚式で着た特別なスーツなどです。こうした品は明らかに特別です。では、12ドルのワインや、ありふれた靴下が特別になるのはなぜでしょうか。なぜありふれた品が宝物になるのでしょうか?もともとそうした結びつきがなかった物を、なぜ手元に置き続けるのでしょうか?
これを私たちは「特別さのスパイラル」と呼んでいます。ありふれた品を一度使わずにおく。すると、それを少し特別なものと見るようになります。ところが、少し特別なものだと思うようになると、次に使う機会が来ても「まあ、これでは機会として十分ではないかもしれない」と考え、使うのを見送ります。すると、少し特別さが増します。次の機会はさらにふさわしいものでなければならず、その分使われにくくなり、ますます特別なものになります。こうして特別さのスパイラルが段階的に高まっていきます。ごくありふれた品が、使わないことを繰り返すうちに、とても特別なものになり、やがて宝物のように見られるのです。
「使っていないことに気づけるようにすると、人々は意思決定における自分自身の弱点をより理解できるようになります。」—ジョナ・バーガー
Knowledge@Wharton:靴下について話がありましたが、どんな製品にも起こり得るのでしょうか。
バーガー:もちろんです。この論文は靴下やワインについてのものではありませんし、散らかりのすべてがこれによって生じると言いたいわけでもありません。散らかる理由はほかにも確かにあります。ただ、最初はごくありふれていたものが、やがて並外れたものになる場合には、その理由の一つとしてこの現象が考えられます。
Knowledge@Wharton:マーケターへの示唆について伺います。企業が製品を限定品や特別なものとして売り込むのは、常に望ましいとされてきました。しかし、この研究によれば、必ずしもよい考えではないかもしれません。価値ある宝物だと思われた結果、使われなくなるという影響を和らげるため、マーケターには何ができるでしょうか。
バーガー:特別であることがよい、というご指摘はそのとおりです。製品を限定品や特別なものとして売り込みたいマーケターは多く、さまざまな分野でそうした表現がよく使われています。ただ、マーケターは価値を高めるためにそうしているのだと思いますが、その品がまったく使われなくなるなら、マイナス面もあります。買った服やシャツ、靴下、ワインを結局使わなければ、その後ほかの物を使うことにも影響し、ブランドから再び買う可能性も実際に低くなりかねません。「あのブランドの靴を一度も履かなかった。今後は買わないほうがいいかもしれない」と考えることもあるでしょう。
マーケターはいくつかの対策を検討できるでしょう。たとえば、商品を特定の使用機会と結びつける方法があります。ドレスを華やかなドレスとして、ワインを単なる赤ワインとして売り込む代わりに、「新年のドレス」や「ステーキディナーに合わせるワイン」と表現します。特定の機会としっかり結びつければ、「ああ、これはあの機会のためのものだ。今こそ使うときだ」と思ってもらえます。
また、ブランドは購入後できるだけ早く商品を使うよう、消費者に促すことも検討できます。食料品や生鮮品ではよく見られます。バナナを大切に取っておくことはないでしょう。待ちすぎればカウンターの上で茶色くなり、コバエが寄ってくると分かっているからです。ヨーグルトには「賞味期限」が表示されていますが、日持ちする製品も含め、ほかの商品にも同じような表示を設け、まだ使っていないことに気づいてもらう方法が考えられます。これは、散らかりなどに詳しい専門家がよく語る方法です。「クローゼットのハンガーをすべて一定の向きにそろえ、何かを使ったら反対向きにする」と言います。そうすれば、ずっと掛けたままで一度も着ていないシャツがあるかどうかが分かります。
「何かを買っても使わなければ、その品がもたらしてくれる価値を引き出せていません。」—ジョナ・バーガー
使っていないことに気づけるようにすると、人々は意思決定における自分自身の弱点をより理解できるようになります。思い込みから抜け出せるようになり、マーケターもより成果を上げられます。
Knowledge@Wharton:今の時代、マーケターにとってこれは売り込みにくい考えでしょうか。「消費を減らし、より豊かに暮らす」という風潮があり、近藤麻理恵さんの「ときめき」もあります。マーケターはそうした流れから距離を置けるでしょうか。
バーガー:そういう見方もできると思います。一方で、人々が環境を守り、より社会に貢献し、物を無駄にしないことに関心を持っている点にも注目できます。何かを買っても使わなければ、その品がもたらしてくれる価値を引き出せていません。家宝の陶磁器を、陶磁器としてはほとんど使わず、思い出を呼び起こすために時折眺めるものとして使うのは別です。しかし、ナイキの靴下までそうする必要はありません。このことを理解すれば、マーケターは消費者が自社の製品やサービスの価値を引き出す手助けができるでしょう。
Knowledge@Wharton:この研究をさらに進めるとしたら、どのような方向性が考えられますか。
バーガー:この論文の筆頭著者であるジャクリーンを通じて、何が特別さを生み出すのかに関心を持つようになりました。なぜ一部の製品やサービス、経験、そして人生のさまざまな側面が特別なものになるのでしょうか。家宝など、明らかな経路はいくつかあると思います。では、製品やサービスはどのようにして付加価値を得るのでしょうか。そして、マーケターはそれをどう活用できるのでしょうか。
マーケターは、人々が使う製品を売りたいだけでなく、体験をつくりたいとも考えています。製品やサービスが身近な人を思い出させるなら、より特別なものになります。人生のさまざまな側面とのつながりを感じさせてくれる場合も、より特別なものになり得ます。ありふれた物を宝物に変えるにはどうすればよいかという問いは、消費者にとってだけでなく、マーケターにとっても興味深いものだと思います。



