メンタルヘルスの専門家は、診断と治療の精度を高めるために人工知能(AI)を活用している。
セラピストは、過重な業務への対応にAIを取り入れている。
心理学者の84%が、不安症の治療需要の増加を実感している。
この技術は、治療の品質管理やセラピストの研修に役立っている。
世界的なパンデミックによって大きく揺さぶられた医療分野は、迅速かつ安全に適応する新たな方法を見いだしつつある。多くの場合、その鍵となったのはテクノロジーだ。
メンタルヘルスの分野では、不安障害を治療する心理学者の84%が、米国心理学会の調査で、パンデミックの開始以降、治療の需要が増加したと回答した。1年前の74%から上昇している。
すでに多くの業界で活用されているAIは、メンタルヘルスサービスにおいても、より効果的で個別化された治療計画を提供するうえで大きな変革をもたらす可能性が明らかになりつつある。この技術は患者のニーズへの理解を深めるだけでなく、セラピストの技法や研修の向上にも役立つ。
AIがメンタルヘルス治療を改善してきた4つの方法を紹介する。
1. 品質管理で治療水準を高く保つ
サービスへの需要が高まり、業務量も増えるなか、一部のメンタルヘルスクリニックでは、セラピストの品質管理を自動化する方法を検討している。
メンタルヘルスクリニックのIesoはAIを活用し、自然言語処理(NLP)を通じて治療セッションで使われる言葉を分析している。これは、機械が記録を書き起こしたテキストを処理する手法だ。同クリニックは、ケアの高い水準を確実に提供し、研修中のセラピストの向上を支援するため、セラピストが自らの業務をより深く理解できるようにすることを目指している。
テクノロジー企業もこの動向に注目し、セラピストとクライアントの会話をより深く理解するためのツールをクリニックに提供している。英国と米国では、ソフトウェア企業のLyssnが、クリニックや大学に、品質管理の向上を目的とした技術と研修を提供している。
2. 診断を精緻化し、適切なセラピストにつなぐ
AIは、医師が精神疾患を早期に発見し、より的確な治療計画を選択するのに役立っている。
研究者は、治療セッションの成功につながるデータからの知見を活用し、治療を検討している人を適切なセラピストと結びつけたり、その人に最も効果的な治療の種類を見極めたりできると考えている。
「どの症状の組み合わせに、どの治療技法が最も効果的なのか、ようやく多くの答えが得られると思います」と、オックスフォード大学の臨床心理学者ジェニファー・ワイルド氏は、MITテクノロジーレビューに語った。
さらに、AI研究によって患者の診断を異なる病状のサブグループに分類し、医師が治療を個別化できるよう支援できる。
セラピストはAI技術を用いて大量のデータを調べ、家族歴、患者の行動、過去の治療への反応を特定することで、より正確な診断を行い、治療やセラピストの選択について、より的確な判断を下せる。
アルゴリズムを使って判断を行うAIの一種である機械学習も、退役軍人における心的外傷後ストレス障害(PTSD)の類型の特定に活用されている。
3. 患者の経過を把握し、必要に応じて治療を変更する
セラピストが決まった後は、患者の経過を観察し、改善を追跡する必要がある。AIは、治療の変更が必要な時期や、別のセラピストに替えるべき時期の特定に役立つ。
例えば、Lyssnはアルゴリズムを使ってセラピストとクライアントの発話を分析し、セッション中に建設的な治療に費やされた時間と、一般的な雑談に費やされた時間を明らかにして、改善につなげている。
Iesoのチームもセッション中の発話を調べており、セラピストではなく患者の発話に焦点を当てている。最近の論文では、チームは「変化についての積極的な発言」と呼ばれる反応を特定した。クライアントが口にする「もうこんなふうに生きたくない」といった言葉や、前に進み変化を起こす方法についてクライアントが振り返る「変化についての探索的な発言」などだ。
チームは、治療期間中にこうした発言が聞かれない場合、治療がうまくいっていない兆候となると指摘した。AIによる文字起こしは、クライアントにこうした発言を促す優れたセラピストの言葉遣いを調べ、他のセラピストの研修に活用する機会にもつながる。
4. 薬物療法に代わる認知行動療法(CBT)の有効性を裏付ける
うつ病などのメンタルヘルスの問題に対する治療として、薬物の使用が増加している。NHSによると、イングランドで抗うつ薬を処方された患者数は、2020~2021年度第3四半期に、2015~2016年度の同じ四半期と比べて23%増加した。
しかし、英国国立医療技術評価機構(NICE)は、最近、ガイドラインを改訂し、軽度のうつ病では薬物療法より先にCBTを用いるよう推奨した。
Iesoの研究者によると、AIは治療法としてのCBTの有効性を裏付けるのに役立つ。JAMA Psychiatryに掲載された論文で、研究者たちはAIを使い、セラピストと患者の会話で使われる表現を識別した。
CBTは、否定的な思考パターンを特定し、それを断ち切る方法を見つけることを目指す。そのため、セラピストは変化の方法や今後の計画について話し合う発言を用いる。研究者たちは、セッション中の一般的な会話に比べてCBTに関する会話の割合が高いことが、回復率の向上と相関していると結論づけた。
クリニックの外での改善
AIがメンタルヘルス治療を改善しているもう一つの分野は、ウェアラブル技術だ。
クリニック内でのセッションと併せて、セラピストは、治療を改善する方法を見つけるため、Fitbitのような技術を利用している。例えば、メンタルヘルスケアの提供者は、患者の正確な報告に頼らずに、Fitbitで睡眠パターンを観察できる。
メンタルヘルス治療におけるAIの長期的な有効性は、まだ十分に検証されていないが、初期の結果は有望に見える。
メンタルヘルスのエコシステムでAIを使うことは、システム改善の機会をもたらす一方、誤用や不適切な扱いにつながる可能性もある。このリスクを防ぐため、世界経済フォーラムはツールキットを公開し、政府、規制当局、独立した保証機関が、メンタルヘルスにおける破壊的技術の利用に関する倫理的懸念に対処する基準や政策を策定・採用するための手段を提供している。
「メンタルヘルスにおける信頼とは、非倫理的で悪意ある利用のリスクを軽減するだけでなく、地域社会と協力して責任ある行動を取ることです」と、デロイトのステファニー・アレン氏と、フォーラムのグローバル・ヘルス&ヘルスケア部門責任者アルノー・ベルナール氏は報告書に記した。「これは容易ではない道のりの始まりにすぎませんが、より良い取り組みを進めることは、医療面、道徳面、経済面で明確な責務です。」


