気候目標に沿った海外直接投資(FDI)は、開発途上国の気候変動への適応および緩和の取り組みを支援するうえで重要です。
しかし、気候関連のFDIの流れは依然として潜在力を下回っているため、世界経済フォーラムは、こうした投資の促進を支援するガイドブックを作成しました。
本稿では、この分野の有識者に、気候関連のFDIがなぜこれほど重要であり、地球温暖化の影響への対応においてどのように極めて有益たりうるのかを尋ねました。
気候変動対策のための多額の資金が緊急に必要であることは周知の事実です。昨年の国連気候会議(COP27)において、各国政府は、4兆~6兆ドルの投資が、低炭素経済への世界的な転換のために毎年必要であることを認識しました。
一方、開発途上国は、約5.8兆~5.9兆ドルを、2030年以前に掲げた気候変動対策の目標を実施するために必要としています。また、多くの国々は現在、気候変動の影響の拡大にも直面しており、適応のための資金を調達しなければなりません。
海外直接投資(FDI)は、これらのニーズへの対応において役割を果たすことができます。これを「気候関連FDI」、すなわち気候目標に沿い、それを支える投資と呼んでいます。
しかし、多くの開発途上経済国では、気候関連FDIの流れは現在も潜在力を下回っています。その理由は多岐にわたり、気候とは無関係な投資家の懸念に起因する場合もあれば、資本集約的であったり投資収益の回収までの期間が長かったりするといった、分野特有の事情による場合もあります。さらに、FDIが必ずしも気候面やその他の面で利益をもたらすとは限らないため、特定の政策や措置が必要となる場合もあります。
気候関連の海外直接投資を促進するためのガイドブック
これらの課題に対処するため、私たちは12か月にわたり幅広いコミュニティと協議を行い、投資当局向けに気候関連FDIの促進に関するガイドブックを作成しました。こうした投資は、受入国のニーズに適合し、気候目標の達成に寄与するとともに、地域の社会的、環境的、経済的な懸念にも等しく配慮したものでなければなりません。
気候関連FDIの促進に関するガイドブックでは、官民協力を通じて実施可能な4つの措置の分類が提案されています。これには、投資当局の戦略を気候変動対策と整合させ、適切なリスク軽減ツールを確保すること、投資家が検索できる持続可能性の観点を含む国内サプライヤーのデータベースを整備すること、国内で適用される多国籍企業の気候変動対策へのコミットメントと投資可能なプロジェクトとのマッチングを行うこと、そして気候関連FDIの促進に向けた法的規定を前進させることが含まれます。
次の段階として、ブラジルおよびナミビアの投資当局と連携し、複数の措置を展開するとともに、この経験から学ぶ取り組みが進行中です。今後、適宜、他の国々との取り組みも拡大していきたいと考えています。
この新たな取り組みの段階を開始するにあたり、私たちは、現在、気候関連FDIがなぜこれほど重要なのかについての見解を共有するよう、コミュニティの複数の有識者に依頼しました。
「気候関連FDIは、気候変動との闘いの最前線に立っている」
イスマイル・エルサヒン、専務理事兼CEO、世界投資促進機関協会(WAIPA)
気候関連の海外直接投資は、気候変動との闘いの最前線に立っています。気候関連FDIの潜在力を認識し、受け入れるスピードが速いほど、低炭素の世界への移行に必要な数兆ドル規模の資金ギャップにより速やかに対処できるようになります。
三重の地球規模の危機は現実であり、差し迫ったものであり、広範な貧困によってさらに深刻化しています。気候関連FDIがFDIの分野で台頭し、中心的な地位を占めつつある中、今後、それはすべての人々、経済、そして地球にとっての双方に利益をもたらす成果を達成するうえで重要な役割を果たすでしょう。
投資促進機関(IPA)は、政府と投資家の双方と継続的に協力しており、各国や地域の投資戦略への助言と支援において重要な役割を果たし、緑の繁栄と持続可能性の遺産を育んでいます。さらに、投資家との直接的な関わりを通じて、気候関連FDIの将来の展望を形作るうえでの中心的な地位を確固たるものにしています。
「気候関連FDIは、産業が新たな技術を開発する助けになりうる」
A・ブルク・ダールオール、トルコ共和国大統領府投資事務局長官
トルコは、パリ協定への責任ある署名国として、経済のグリーン移行を加速させるための野心的な取り組みを進めており、2030年までに排出量を41%削減し、2053年までにカーボンニュートラルを達成することを目指しています。気候変動がもたらす悪影響と闘ううえで最も重要な手段の一つがFDIです。
トルコには、自動車、機械、化学、航空、医薬品などの中高技術および高技術製造部門において、低炭素経済への移行の恩恵を受けるのに適した強力な産業があります。気候関連FDIは、これらの産業が、より環境に配慮したものとなるような新たな技術やプロセスを開発する助けとなりえます。
その戦略的な立地、成長する経済、手厚いインセンティブ・パッケージ、そして熟練した労働力を踏まえると、トルコは気候関連FDIにとって最良の投資先の一つであり、国際投資家に広範な投資機会を提供しています。
トルコへの投資を通じて、国際投資家はこれらの機会を活用し、この地域における自社の存在感を強化することができます。トルコ投資事務局として、私たちは、国際投資家の投資の前、投資中、そして投資後のいずれの段階においても、常に寄り添っています。
「アフリカにおける適応策を支援するため、気候関連FDIの可能性をさらに探究する必要がある」
サリーム・ファキル、専務理事、アフリカ気候財団
アフリカ大陸の国々は既に気候変動の影響を受けていることから、アフリカにおける大きな気候資金のギャップを埋めるうえで、FDIは重大かつ緊急の役割を果たすことができます。
アフリカ諸国が気候変動に関連する物理的リスクへの曝露を効果的に管理し、新たなグリーン技術を導入できるよう、今こそ先を見越した投資が必要です。これにより、将来における高い移行コストや座礁資産のリスクを防ぐことができます。
気候関連FDIは、資金だけでなく、専門知識、運営のノウハウ、気候リスクへの認識ももたらすことができます。これにより、国内企業が競争力を維持するために緩和策および適応策を検討せざるをえない環境が生まれ、部門全体に波及効果をもたらす可能性があります。
しかしながら、こうした恩恵を実現するためには、(現在は主に緩和プロジェクトに重点が置かれていることを踏まえ)アフリカにおける適応策を支援するための気候関連FDIの可能性をさらに探究し、また、気候関連FDIの拡大につながる政策や取り組みの策定に向けた官民の関与を促進する必要があります。
「資金ギャップの解消には、民間の収益追求型資本の誘致が不可欠である」
アンメイ・ディットマン、シニア投資家兼ポートフォリオ・マネージャー、ブラックロック社
低炭素経済への移行は世界経済を変革し、資本の大規模な再配分を促すでしょう。ブラックロックは、これが電力、輸送、産業を含む様々な分野において、歴史的な投資機会をもたらすと考えています。
今後数十年間で世界の電力需要は大幅に増加すると見込まれており、その大部分は、急速な人口増加、所得の上昇、急速な都市化を経験している新興市場から生じると予想されています。
つまり、低炭素経済への秩序ある公正な移行を実現するには、これら多くの新興市場が、再生可能エネルギーの発電能力を大幅に拡大することで、増大するエネルギー需要に応える必要があります。
現在、利用可能な資金調達には大きなギャップがあり、これは新興市場が電力需要や世界の気候目標を満たすうえでの大きな障壁となりえます。
各国政府だけでは資金需要を満たすことができないため、資金ギャップを解消するには、民間の収益追求型資本の誘致が不可欠です。これらの市場において必要な投資を推進するには、革新的な解決策、官民パートナーシップ、そして大幅なリスク軽減が求められます。
「気候変動をめぐる南北格差の是正は喫緊の課題である」
ラミ・ラフィ、マネージング・ディレクター兼パートナー、ボストン コンサルティング グループ(BCG)
気候変動の適応と緩和に必要な数兆ドルの資金を動員するには、多くの複雑な問題があります。開発途上国は地球温暖化への寄与が最も小さいにもかかわらず、その影響を最も深刻に受けています。
このニーズに応えるには、革新的な仕組みと、公的資本と、その大部分を占める民間資本を含む複数の種類の資本が必要であり、気候変動の影響を受ける、または影響を与えるさまざまな分野への海外直接投資も含まれます。
先進国では、気候関連またはグリーンFDIの大きな流れが、移行の資金調達において国内の豊富な資本を補完してきました。しかし、大きな割合を得ている開発途上国はほとんどありません。この南北格差を是正することは喫緊の課題です。この種の資本が新興市場へより強く流入するよう促す戦略は、その格差の解消に役立つでしょう。
「世界は、気候関連FDIにおける実証済みかつ有望な道筋を緊急に見出す必要がある」
ラディカ・タッカル、副社長、企業渉外担当、サンキング社
新興市場およびフロンティア市場には世界人口の67%が暮らしていますが、世界のクリーンエネルギー投資に占める割合はわずか16%にすぎません。こうした市場が引き続き見過ごされるならば、各地で目覚ましい気候変動対策の取り組みが行われているにもかかわらず、世界はCO2排出削減において十分な進展を遂げることに苦労するでしょう。
気候変動対策に注力する主要投資家でさえ、新興市場およびフロンティア市場における気候変動対策に適合した機会へ市場主導の投資を行うための専門知識、データ、ツールを欠いていることが多いのです。
世界は、気候関連FDIにおける実証済みかつ有望な道筋を緊急に見出す必要があります。例えば、サンキングとその投資パートナーは、投資家がアフリカのオフグリッド太陽光発電分野に投資できるよう、新たな金融ツールを開発してきました。
サンキングの最近の持続可能な証券化取引を例に挙げましょう。これは先進市場では一般的な手法ですが、新興市場の文脈で導入されたのはごく最近のことです。この種の仕組みはアメリカやヨーロッパでは一般的ですが、新興市場では十分に活用されておらず、グリーンエネルギー分野においても最近になって利用され始めたばかりです。
気候関連FDIが、既知の先進市場の機会に集中し続け、新興市場における実証済みで収益性が高く、影響力の大きいグリーン事業への投資を怠るならば、世界は気候変動に関する目標の達成に後れを取るでしょう。
収益と影響力をもたらす実証済みの投資ツールを明らかにし、情報の非対称性を解消することで、気候危機が求める規模とスピードで、新興市場における気候関連の投資を動員することができます。
「気候関連FDIの誘致は、クリーンテクノロジーを推進するうえで極めて重要である」
ヘンリー・ローエンダール、fDiインテリジェンス担当シニアコンサルタント、フィナンシャル・タイムズ・リミテッド
フィナンシャル・タイムズのfDiマーケッツのデータによると、再生可能エネルギーおよび関連プロジェクトは、2019年にグリーンフィールドFDIにおける世界の主要産業となりました。2023年第1四半期には、世界のグリーンフィールドFDIの3分の1超がクリーンテクノロジー関連分野に向けられました。電気自動車および関連サプライチェーンの成長により、2023年には世界のグリーンフィールドFDIの40%が気候関連となる可能性があります。
クリーンテクノロジーを推進するうえでFDIの誘致は極めて重要であり、投資は主に国内投資ではなく、FDIによるものとなるでしょう。したがって、各国政府およびそのIPAは、投資誘致プログラムを強化するとともに、投資の出所をどこにすべきかについて、世界規模で検討する必要があります。
私たちは、クリーンテクノロジーと新たな高度情報技術に基づく新たな産業革命に突入しつつあります。これは、世界各地の立地にとって、FDIを誘致し経済発展を推進する大きな可能性をもたらすと同時に、気候変動との闘いも進めるものです。
「気候関連FDIは、開発途上国が再生可能エネルギーへの投資を拡大する助けとなりうる」
マーティン・ディートリッヒ・ブラウフ、主任研究員、コロンビア持続可能投資センター
UNCTADによると、開発途上国は2022年に再生可能エネルギー分野で5,440億ドルのFDIを受け入れました。しかし、これは開発途上国が年間に必要とする1兆7,000億ドルの再生可能エネルギー投資には遠く及びません。適切な統治のもとであれば、気候関連FDIは、開発途上国が再生可能エネルギーへの投資を拡大するのを支援し、手頃な価格で再生可能エネルギーを利用できる機会を広げ、化石燃料への依存を回避し、温室効果ガス排出削減に向けた世界的な取り組みに貢献することができます。
気候関連FDIは、開発途上国が気候変動に強いインフラを構築し、気候変動の影響に適応することも支援できます。
国際投資保護および仲裁制度を見直し、気候変動に適合した持続可能な投資の促進を目的とした国際的なガバナンスの仕組みへと移行させることは、気候関連FDIがもたらす潜在的な恩恵を開発途上国にとって実現するうえで不可欠となるでしょう。