貿易、関税、政治:米国、EU、中国の事例から得られる証拠

Imported automobiles are collected in a lot at the port of Newark New Jersey, U.S., February 19, 2019. REUTERS/Eduardo Munoz - RC1E7E5F48B0
The Trump administration has announced tariffs on products from countries all over the world.Image: REUTERS/Eduardo Munoz
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貿易戦争は、貿易政策および外交政策の手段として、ドナルド・トランプ大統領の就任とともに主流政治に再び登場した。トランプ政権が誕生した場合の米国の貿易政策の変更は、大統領選挙期間中にすでに示唆されていた。しかし、さまざまな燻っていた紛争が本格的な貿易対立へとエスカレートしたのは、2018年3月になってからだった。なかでも中国、カナダ、メキシコ、EU、インド、トルコが大きく関与した。アルミニウムと鉄鋼への関税に加え、中国からの輸入品への関税が発表された後、トランプ大統領は「貿易戦争は良いもので、勝つのも簡単だ」と述べた。1

経済学者の間では、関税は一部の産業を助けることはできるものの、貿易相手国に損害を与えるだけでなく、自国にも害を及ぼす行為だという見方が広く共有されている(Bown 2004、Breuss 2004)。2 関税が直ちにもたらす負の影響に加えて、対象となった国々はWTOの規則に従って報復措置を取る可能性がある。私たちの新しい論文(Fetzer and Schwarz 2019)では、特にEU、中国、メキシコ、カナダによる報復措置を詳しく研究している。

報復措置の目的

欧州委員会は、貿易紛争において達成を目指す目的を明確に示している。2014年に公表されたEU規則654号は、貿易紛争における通商政策措置の目的を3つ定めている。

「通商政策措置は、入手可能な情報および連合の一般的利益を踏まえ、以下の基準に基づいて決定されるものとする。

a.第三国が国際貿易規則を遵守するよう促すうえでの措置の有効性;

b.第三国の措置によって影響を受けた連合内の経済事業者に、措置が救済をもたらす可能性;

c.下流産業、契約当局もしくは事業体、または連合内の最終消費者への負の影響を回避または最小化するため、対象となる商品またはサービスについて代替供給源が利用可能であること」

言い換えれば、貿易政策は、自国経済への損害を最小限に抑えながら、相手国の貿易政策を変えることを目指すべきである。トランプ政権の貿易戦争の場合、米国の貿易政策に影響を与える方法として、共和党に政治的コストを負わせることが考えられる。

報復措置を選択する際のこの政治的側面は、近年の歴史に前例がないことから、これまで経済学者によって研究されてこなかった。報復を行った国や貿易圏が、関税の対象をどの程度政治的に絞り込み、その対象化が政治的な結果に影響を与えるうえで有効だったかを検証することで、私たちはこの空白を埋める。

報復措置が政治的動機に基づいていることは、経験的にも広く認識されている。貿易紛争に関与したほとんどの国による報復措置は、米国の輸出品を標的とした。たとえば、上院多数党院内総務ミッチ・マコーネルの地元ケンタッキー州で生産されるバーボンウイスキーが対象となった。中国(およびメキシコ)は豚肉と大豆を標的にした。大豆は中国向けの米国農産物輸出のなかでも特に重要な品目の一つであり、共和党の影響力ある上院農業委員会委員、チャールズ・E・グラスリー上院議員の地元アイオワ州に、特に大きな影響を与えた。

関税への曝露と共和党の選挙結果:郡レベルの分析

郡レベルの関税曝露指標を作成し、関税の対象が政治的にどのように選ばれたかを正式に検証した。この指標を用いた結果、報復措置は共和党支持層を体系的に標的としていたようだ。図1は、2016年大統領選挙における郡ごとの共和党得票率に応じて、関税の影響を受けた郡の輸出割合を示している。共和党得票率の高い郡ほど、報復関税の対象となる度合いも大きかったことは明らかである。これは、関税が実際に共和党支持層を標的としていたことを示す初期の証拠である。

図1共和党得票率と関税への曝露

図1:共和党得票率と関税への曝露Image: Vox

体系的な回帰分析の結果からも、関税の対象は、2016年大統領選挙でドナルド・トランプ支持へと票が移った郡(2012年の共和党大統領候補の成績との比較)に大きな影響を及ぼしていたことがわかる。興味深いことに、政治的な標的化の度合いは、2016年にトランプ支持へと票が移った地域(2012年との比較)とは関連していたが、同年に実施された下院選挙や上院選挙など、より広く共和党候補の支持へと票が移った地域とは関連していなかった。これは、報復措置がトランプ支持へ大きく票が移った地域に狙いを定めていたことを示している。また、報復措置の設計に一定の洗練さがあったこともうかがえる。しかし、政治的な標的化の度合いという点で、報復措置の選択が最適だったかどうかは、依然として重要な未解決の問いである。

標的化の程度を評価するための代替関税のシミュレーション

各国が有効な圧力をかけるには、米国から輸入する商品に関税障壁を設ける必要がある。先の分析結果に関する懸念の一つは、観察された標的化が、各国の米国からの輸入品目構成によって機械的に生じた可能性である。たとえば、米国産大豆を大量に輸入する中国を考えてみよう。大豆は共和党支持の強い郡で栽培されているため、大豆を含む報復措置はどのようなものであれ、共和党を政治的に標的にしているように見える。

この可能性を評価するため、実際に選ばれた商品構成を、各国が選択し得た反実仮想のシミュレーション商品構成と比較する。理想的には、報復措置のあらゆる組み合わせをシミュレーションできる。しかし、実質的には部分和問題である全ての解を導き出すことは、計算上実行不可能である。そこで論文では、サンプリング法を用いて代替的な報復商品構成をシミュレーションする。この方法では、サンプルの商品構成が実際の構成の主要な特性に合致する必要がある。選択された異なる商品の数が同程度であり、影響を受ける米国の輸出総額も同程度でなければならない。

このサンプリング手順により、シミュレーションした代替商品構成と比べた政治的標的化の度合いを評価できる。先に述べたEU規則654号を踏まえ、報復対象の品目を選ぶ際に自国経済への潜在的な負の影響も考慮されているかどうかを検証できる。そのために、各報復商品構成について、米国から輸入した商品の割合を測る指標を作成する。国内経済への損害を抑えるには、米国が支配的な供給国である商品を報復対象から除外すべきだと考えられる。

図2政治的標的化と米国からの輸入への依存のトレードオフ

図2:政治的標的化と米国からの輸入への依存のトレードオフImage: Vox

図2は、シミュレーションした代替的な報復商品構成について、横軸に政治的標的化の度合いを示す指標、縦軸に影響を受ける輸入品に占める米国の平均市場シェアを示す指標をとり、両者の同時分布を示している。「最適な」報復商品構成は右下に位置し、政治的標的化の度合いが高く、自国経済に生じる可能性のある損害が小さいことを示す。縦線と横線は、実際に選ばれた報復商品構成の値を示す。等高線は、シミュレーションした個々の報復商品構成の値の分布を表し、選択可能だったと考えられる範囲を知る手がかりとなる。図からは、中国が高い政治的標的化を達成した一方、米国が主要供給国である農産品を対象にしたため、自国経済に損害を与えた可能性がうかがえる。一方、EUはトレードオフへの対処により成功したようだ。政治的標的化をある程度実現しながら、米国が供給に占める割合の小さい商品を報復対象としたためである。

報復関税は有効か

最後に、報復関税が政治的および経済的な結果に影響を与えるうえで有効だったかを検証する。経済面では、報復関税の対象となった輸出が、関税対象外の輸出に比べて大幅に減少したことを示す。図3は、差の差分析によるこの結果を視覚化している。全体として、報復関税の結果、米国の輸出は毎月25億5,000万ドル相当が失われるか、別の仕向地へ振り向けられたと示唆される。さらに、貿易戦争が米国産品の輸出価格にも負の影響を与えたことを示す。これらの結果を総合すると、報復関税は対象となった郡の地域経済に負の影響を及ぼした可能性が高い。

さらに重要なのは、関税が政治的手段として有効だったかを理解するため、報復関税が2018年中間選挙における共和党の選挙結果に打撃を与えたかどうかを検証したことである。報復措置への曝露が最も大きかった郡では、共和党候補の成績が1.4~2.7パーセントポイント悪化したことを示唆する証拠が得られた。

図3米国の輸出に対する関税の影響

図3 米国の輸出に対する関税の影響Image: Vox
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