先月、オランダは「サイバースペースに関するグローバル会議2015」を開催し、政府関係者、学識経験者、業界代表者など約2,000人が集まりました。私は、マイクロソフトの副社長と2人の外相が参加した、サイバー平和と安全保障に関するパネルの議長を務めました。この「マルチステークホルダー」会議は、サイバー紛争を避けるための行動規範を確立しようとする一連の取り組みの最新のものでした。
インターネットを使って損害を与える能力があることは、いまや広く知られています。多くの観察者は、イランの核施設にある遠心分離機を破壊した過去の攻撃の背後に、米国政府とイスラエル政府がいたと考えています。イラン政府による攻撃でサウジアラムコのコンピューター数千台が破壊されたという見方もあります。エストニアとジョージアへのサービス拒否攻撃は、ロシアの仕業だとされています。そして昨年12月には、米国のバラク・オバマ大統領が、ソニー・ピクチャーズへの攻撃は北朝鮮政府によるものだと非難しました。
最近まで、サイバーセキュリティは主として、少数のコンピューター専門家からなるコミュニティーの領域でした。1970年代にインターネットが作られたとき、彼らは仮想の村を形成していました。互いを知り、協力してオープンなシステムを設計しましたが、セキュリティにはほとんど注意を払いませんでした。
その後、1990年代初頭にワールド・ワイド・ウェブが登場し、当時数百万人だった利用者は、現在では30億人を超えるまでに増えました。わずか一世代余りの間に、インターネットは世界経済と世界各地の統治を支える基盤となりました。今後10年間には、さらに数十億人の利用者に加え、サーモスタットから産業制御システムまで、数百億台の機器(「モノのインターネット」)が加わるでしょう。
こうした相互依存の急速な拡大は、政府や非政府主体が悪用できる脆弱性を生みます。同時に、私たちはその国家安全保障上の意味を理解し始めたばかりです。サイバー領域の戦略研究は、1950年代の核戦略に似ています。攻撃、防御、抑止、エスカレーション、規範、軍備管理が何を意味するのか、分析者たちはいまだ明確に把握できていません。
「サイバー戦争」という言葉は、単純な探査、ウェブサイトの改ざん、サービス拒否から、スパイ活動や破壊に至る幅広い行為を指して、非常に緩い意味で使われています。この点で、これは「危険または悪いとみなされるものを止める、または打ち負かす」ための組織的な取り組み(例えば「麻薬戦争」)を含む、「戦争」の辞書的な定義を反映しています。
より有用なサイバー戦争の定義は、重大な物理的暴力を増幅する、あるいはその効果に相当する、サイバースペースでの敵対的行為です。ある行為がこの基準を満たすかどうかを判断できるのは、その国の政治指導者だけです。
国家安全保障に対するサイバー脅威には、主に国家と結び付くサイバー戦争と経済スパイ活動、そして主に非国家主体と結び付くサイバー犯罪とサイバーテロという、4つの主要なカテゴリーがあります。それぞれ時間軸が異なり、原則として解決策も異なります。現時点で最も大きな損失をもたらしているのはスパイ活動と犯罪ですが、今後10年間で、残る2つが現在より大きな脅威になる可能性があります。さらに、同盟関係や戦術が変化するにつれ、これらのカテゴリーはますます重なり合うかもしれません。
冷戦期には、イデオロギー上の競争が米ソの協力を制限していましたが、核兵器の破壊力に対する双方の認識から、軍事衝突を避けるための粗削りな行動規範が作られました。こうした基本的な慎重さのルールには、直接戦闘を行わないこと、核兵器を先制使用しないこと、そしてモスクワ・ワシントン間のホットラインや「海上における事故防止措置および事件に関する協定」のような危機時の意思疎通が含まれていました。
最初の正式な軍備管理協定は1963年の部分的核実験禁止条約で、主に環境条約とみなすことができます。2つ目の主要な協定は1968年の核不拡散条約で、核兵器の拡散を制限することを目的としていました。米国とソ連は、自然環境または第三者が関わることから、両協定を双方に利益のある取り決めと捉えました。
同様に、サイバースペースの安全確保に向けた初期の国際協力で最も有望なのは、犯罪者やテロリストなど第三者がもたらす問題です。ロシアと中国は、インターネットに対する国連の広範な監督を定める条約を求めてきました。両国が描く「情報セキュリティ」の構想は、権威主義政府による検閲を正当化しかねず、民主主義国には受け入れられません。しかし、どこでも違法となる行為を特定し、対象とすることは可能かもしれません。あらゆる侵入を制限するのは不可能ですが、サイバー犯罪とサイバーテロから始めることはできます。主要国には、鑑識と規制について協力することで被害を抑える利害があります。
もちろん、歴史上の類推は完全ではありません。とりわけ、非政府主体がはるかに容易に悪用できることから、サイバー技術は核技術とは明らかに大きく異なります。
それでも、正式・非正式を問わず、インターネットの基本的な機能をすでに統治している制度がいくつかあります。米国は、非政府組織であるインターネット・コーポレーション・フォー・アサインド・ネームズ・アンド・ナンバーズ(ICANN)にインターネットの「アドレス帳」を監督させることで、同組織を強化する計画を賢明にも進めています。また、欧州評議会の2001年サイバー犯罪条約があり、インターポールとユーロポールが各国の警察機関の協力を促進しています。さらに、国連政府専門家グループは、国際法がサイバーセキュリティにどう関係するかを分析してきました。
スパイ活動や戦場の準備などを目的とするサイバー侵入のような、意見が分かれる問題について合意に至るには、さらに時間がかかりそうです。それでも、包括的なサイバー軍備管理協定を構想できないからといって、いま個別の問題で前進できないわけではありません。国際規範の形成には時間がかかるものです。核技術の場合は20年を要しました。先日のオランダ会議の最も重要なメッセージは、甚大なサイバー脆弱性が、いままさにその段階に近づいているということでした。
この記事は、 プロジェクト・シンジケートとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味するものではありません。
アジェンダの最新情報を得るには、 週刊ニュースレターにご登録ください。
著者:ジョセフ・S・ナイ・ジュニアは、元米国国防次官補、元米国国家情報会議議長で、ハーバード大学の大学教授、ならびに世界経済フォーラムの「政府の未来に関するグローバル・アジェンダ・カウンシル」のメンバーです。
画像:2013年6月24日、ワルシャワのオフィスで、ノートパソコンを持つ男性に二進コードを投影したイラスト写真。ロイター/カツペル・ペンペル。


