最近の商標出願や製品発表から、AI企業がウェアラブルやロボットによって物理世界を目指していることがわかる。
空間コンピューティングへの移行には、大量の高度なデータが必要となる。
空間コンピューティングを通じて物理世界とデジタル世界が近づく、新たなAIのフロンティアが現れつつある。
人工知能(AI)の次なる大きな飛躍は、ハードウェアによってもたらされる。デジタル世界と物理世界が融合するなか、空間コンピューティング、拡張現実(XR)、AI搭載ウェアラブルなどの最先端技術が、新たなコンピューティングのパラダイムを切り開いている。
ChatGPTを開発したOpenAIによるヒューマノイドロボット、拡張現実(AR)グラス、VRヘッドセット、スマートウォッチ、スマートジュエリーの最近の商標出願は、この変化を反映している。MetaによるAI搭載スマートグラスへの投資も同様だ。
この進化は、AIの活用範囲を広げるだけではない。AIが画面を越えて物理世界に進出することを意味する。AIが周囲の環境をリアルタイムで解釈し、そこに働きかけるには、新たなハードウェア、センサー、インターフェースが必要だ。
高まる空間コンピューティングの存在感
新たに登場した3D中心のコンピューティングモデルである空間コンピューティングは、AI、コンピュータービジョン、センサー技術を融合し、物理世界とデジタル世界をつなぐ流動的なインターフェースを生み出す。人々が画面に合わせる必要のある従来のモデルとは異なり、空間コンピューティングでは、機械が空間認識を通じて人間の環境や意図を理解できる。
このインターフェースを誰がどう制御するかは極めて重要だ。AIネイティブのハードウェアが日常生活に浸透するなか、知的システムとの人々の関わり方を形づくることが、その没入感や有用性を左右する。AIとハードウェアの統合を主導する企業が、商取引、コミュニケーション、日々の交流のあり方を方向づけるだろう。
ここでXRとウェアラブルが大きな役割を果たす。AIが可能性を最大限に発揮するには、物理空間を認識する空間知能が必要だ。ARグラス、AI搭載ヘッドセット、スマートリングやスマートウォッチによって、AIはジェスチャー、動き、周囲の環境をより自然に解釈できる。
BCGでXR・空間コンピューティング部門のグローバルリードを務めるクリスティ・ウールジー氏は、次のように端的に述べた。「AIによって、AIとの協働を画面の外へ、現実世界へと持ち出せる新しいデバイスを探す動きが始まっています。それを実現するのがハンズフリーのXRデバイスです。AIはデータも大量に必要とします。XRデバイスのカメラ、位置センサー、音声入力は、その需要を満たすデータを提供できます」
こうしたハードウェアの変化によって、AIはより身近になり、日常生活に溶け込む。画面上のツールにとどまらず、現実世界で人に寄り添う存在となる。
AIエージェントとフィジカルAI
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは最近、生成AIからエージェント型AIへの移行が、フィジカルAIへの転換点となると強調した。リアルタイムで自律的に行動できるシステムであるAIエージェントは、機能するために空間対応ハードウェアに依存する。スマートグラス、ヒューマノイドロボット、ウェアラブルのいずれに組み込まれていても、これらのエージェントは周囲を観察し、適応し、協働する。
ベンチャーキャピタリストのヴィノッド・コースラ氏はブルームバーグのインタビューで、ヒューマノイドロボット市場は最終的に自動車業界を上回る規模になる可能性があると予測した。その構想を実現する基盤は、すでに今日のAI統合デバイスに築かれつつある。
ハードウェアの革新、空間コンピューティングの進歩、AIエージェントの台頭が相まって、機械や情報との関わり方を支える新たな基盤が生まれている。
AIハードウェアの拡大を促す3つの要因
AIがクラウドを離れて物理的な空間に進出するにつれ、その姿は環境にどう溶け込むかによって形づくられる。この新たな段階で必要なのは、アルゴリズムだけではない。周囲を感知し、処理し、応答するハードウェアが求められる。
1. 現実世界のデータと大規模なAI学習
AIの有効性は、学習に使うデータの質と量に左右される。これからのAIシステムには、奥行き、動き、物体認識、環境マッピングといった空間データが必要になる。
ウェアラブル、ARデバイス、ロボットは、こうしたデータをリアルタイムで収集するために欠かせない。従来のデータパイプラインとは異なり、これらのデバイスを通じてAIは周囲の世界と直接やり取りしながら学習できるため、現実世界の状況や予測不能な事態への対応力が高まる。
2. AIを第一に考えたインターフェースで画面を越える
次世代のコンピューティングプラットフォームは、没入型でマルチモーダル、かつAIネイティブなものになる。スマートフォンやタブレットのような画面を離れ、自分自身の自然な延長のように感じられるインターフェースへと移行しつつある。
MetaのRay-Banスマートグラスはその一例だ。ユーザーは画面を見ることなく、AIに質問したり、瞬間を記録したり、状況に応じたサポートを受けたりできる。OpenAIがARグラスに関心を示していることは、AIアシスタントがアプリの中に閉じ込められない未来を示唆している。AIアシスタントは顔に、耳に、手首に宿る。
こうしたウェアラブルによって、AIはより自然に周囲に溶け込み、直感的で、いつでも使えるものになる。仕事と私生活の双方にシームレスに統合される。
3. フィジカルAIと自律型エージェントの台頭
AIは受動的なツールから、主体的に協働する存在へと進化している。こうした自律システムは、環境のなかで見たり感じたりしたことに基づいて行動し、判断し、関わることができる。
ウェアラブルに組み込まれたAIエージェントは、行動を案内したり、視覚的な合図に応じたり、行動パターンや状況に基づいてニーズを先読みしたりする可能性がある。
例えば、スマートリングはジェスチャーを捉え、没入感のある操作のために触覚フィードバックを提供できる。AIグラスは、道順、翻訳、タスクの支援をリアルタイムで表示する可能性がある。スマートウォッチは生体情報をモニタリングし、予防的な健康アドバイスを提供できる。
こうした革新は、遠くから情報を伝えるだけでなく、世界のなかで行動する新しいタイプのAIの台頭を示している。
マルチモーダル、マルチエージェントの未来
ソフトウェアだけに依存するAIの時代は終わりを迎えつつある。次の時代を担うのは、人の周囲の世界とやり取りし、それに応答する知的システムを備えたフィジカルコンピューティングだ。
ハードウェアは、AIが存在する媒体になりつつある。XR、空間コンピューティング、AI搭載デバイスが融合し、次の産業革命を支えるインフラを形づくっている。
もはや重要なのは、AIが物理世界と統合するかどうかではない。どれほど速く、どこまで深く統合するかだ。この融合は、没入型で知的、あらゆる場所に広がる新たなコンピューティング時代の幕開けを告げている。

