社会のオペレーティングシステムをアップグレードする必要があります。これまで使ってきたモデルでは、第四次産業革命の課題に到底対応できません。
新たな時代が猛烈な速さで幕を開けています。食料安全保障から大都市の混雑緩和、エネルギー効率の向上、最も治療困難な病気の治療法開発の加速に至るまで、世界が抱える最重要課題のいくつかに取り組む大きな可能性を秘めています。しかし同時に、対処が必要な社会問題やガバナンス上の課題も数多く生じています。
変化の速度と規模に対し、それに対処するガバナンスモデルを定めるプロセスの進み方は遅く、こうした問いへの現在の解決策は急速に時代遅れになっています。私たちは結局、「手遅れゾーン」で行動することになります。
私たちは迅速に考え、行動する必要があります。世界経済フォーラムの第四次産業革命センターでは、さまざまなステークホルダーの権利と責任の境界を明確にする、新たなグローバルな「オペレーティングシステム(OS)」の基盤を築いています。
これらはすべて、この文明の新たな段階が人間中心となり、特権を持つ一部の人々だけでなく社会全体に恩恵をもたらし、技術開発の要請に突き動かされるのではなく、社会全体に資するものとなるようにする取り組みの一環です。膨大なデータ収集をもとに動くアルゴリズムの信頼性を確保し、人工知能や機械学習が高い知能を備えると同時に倫理的であるようにし、データの所有権を明確にしなければなりません。こうした問いは数多くあり、答えをまとめるよりも速いペースで私たちに迫っています。
このような複雑な問いに対処できるオペレーティングシステムの構成要素とは何でしょうか。
人間中心のデータ活用
第四次産業革命の可能性を最大限に引き出しながら、その悪影響を最小限に抑えるには、「人間中心の設計」の原則を採用する必要があります。この原則を用いれば、特定の技術が社会に及ぼすプラスまたはマイナスの影響を将来にわたって予測し、そこから逆算して、今日正しい方向へ進むために必要なガバナンスの手順を特定できます。
データは重要な役割を果たします。どこから来るのか、誰が所有するのか、何に使えるのか、そして誰が恩恵を受けるのか。
そのためには、階層的なガバナンスのアプローチが必要です。
レイヤー1:ブロックチェーン――基盤
ブロックチェーンのピアツーピア型セキュリティアーキテクチャ、透明性、スマートコントラクトやトークンなど急速に進化する機能により、正確で人間中心のプロトコル体系を構築する理想的なプラットフォームとなります。
レイヤー2:モノのインターネット――データはどこから来るのか?
すでに、インターネットに接続されたIoT機器の数は人の数を上回っています。2020年までに、IoT機器は200億台を超えると予想されています。これは、最も解決困難な問題に取り組むためにデータを収集・活用する大きな機会となります。しかし、データの潜在的な不正利用から私たちを守り、健全で安全かつ公平なデータ経済の基盤を築くには、次の3つの重要なIoTプロトコルが必要です。
認証
OSには、データが信頼できる情報源から来たことを確認する仕組みが必要です。そうでなければ、システムに「偽データ」が流し込まれ、データをもとにしたアルゴリズムが偏るおそれがあります。この認証は高度に安全で、業界横断的であり、単一の政府の管理下に置かれないものでなければなりません。ブロックチェーンを活用する絶好の機会です。
倫理スイッチ
データをもとにしたアルゴリズムが、車やバスに人混みへ突っ込むよう指示したらどうなるでしょうか。変圧器に住民への電力供給を止めるよう指示したら?高速列車に駅の近くで速度を上げて衝突するよう指示したら?医療機器が機能を停止し、使用者を死なせたら?ドローンが送電線に飛び込んだら?現時点では、こうしたデータ由来のアルゴリズムがどのようなものかを知る方法も、その設計原則に影響を与える手段もありません。
では、アルゴリズムが社会に害を及ぼすのをどう防げばよいのでしょうか。人間中心の価値観をOSに組み込み、日々直面する無数の実際の状況に応じて適用できるようにしなければなりません。OSの倫理スイッチによって、該当する管轄区域(市、州、国、地域)の法的枠組みに基づく倫理規則を導入できるようにする必要があります。
管轄区域が定めるこれらの規則は、誰も改ざんできず、次のプロトコルを使ってダウンロードや更新ができるよう、ブロックチェーンのスマートコントラクトを用いて設計できます。理想的には、こうした倫理規則は世界共通の合意に基づくべきです。しかし、早急な行動が求められています。共通の規則が定義され、更新された後に、倫理スイッチの枠組みを活用することもできます。
OTA(無線)アップグレード
機器がハッキングされたり、法的枠組みが変わったりした場合、物理的に交換しなくてもソフトウェアとセキュリティを更新できる必要があります。そのため、現在スマートフォンで使われているようなOTAアップグレードが必要です。
これらのプロトコルを導入すれば、データが信頼できる情報源から来たことを確認でき、異なる領域の膨大なデータを組み合わせてデータセットの「偏りを取り除き」、より優れたアルゴリズムを生み出すことができます。
レイヤー3:データの所有権――誰が所有し、何に使え、誰が恩恵を受けるのか?
政府と市民にとって重要な懸念事項は、データのプライバシーです。他に管理手段がない場合、政府は国境を越えたデータの移動を禁止したり、データが国境を越えて移転される場合に、データが収集された管轄区域の法律を適用したりする傾向があります。これによってデータの不正利用が減る可能性はありますが、農業、環境、交通、エネルギー、健康などの重要分野でイノベーションを加速させるため、世界各地のデータセットを組み合わせる妨げにもなります。また、多国籍企業がグローバルな事業を支えるためにデータセットを統合することも阻害されます。
分離型アーキテクチャであれば、懸念に対処しながら可能性を最大化できます。次の要素で構成されます。
所有権
関係機関は、データの正当な所有者(個人、農家、企業、国家など)を特定できる必要があります。
利用権
データの所有者は、データを利用できる目的と期間を指定できる必要があります(例えば、ブロックチェーンのスマートコントラクトを利用)。これらのコントラクトをデータセットに付与し、データへのアクセス時に許可された利用であることを確認する門番として機能させます。
対価
利用権に対する補償が必要かどうかは、所有者が決めます。このような報酬制度は、今日広く利用されているポイントプログラムと同様に、官民の組織が発行するブロックチェーン・トークンを基盤とすることができます。
例えば、利用者である私が、自分の遺伝子データを補償なしで2年間がん研究に利用できると指定できます。一方、製薬会社がそのデータへのアクセスを希望する場合は、利用期間を6カ月に制限し、例えば製薬会社が発行するトークンで補償を求めることができます。スマートコントラクトの条件が満了すると、OSによってデータへのアクセスが自動的に停止されます。
トークンの価値はどのように決めるのでしょうか。コーヒー1杯や炭素排出量の価値を決めるのと同じように、商品取引所で行ってきたように、国内、地域、あるいは世界規模で設置する「トークン取引所」を通じて決めます。
大容量のデータストレージと長時間のバッテリー駆動を備えた、より高性能な機器を特徴とする「エッジコンピューティング」アーキテクチャが急速に台頭しており、膨大なデータを処理するための計算基盤となります。データは「収集地点」の近くに保存され、上記のプロトコルに従い、「利用時点」の近くで利用可能になります。
このプロトコルにより、戦争や自然災害などの緊急時にも、国際機関の規制のもと、柔軟かつ安全にデータを利用できます。その場合、衛星ネットワークの所有者は、許可された目的以外にはデータが使われないと分かったうえで、データを共有できます。
レイヤー4:国境を越えるデータの流通
これらのプロトコルが持つ世界的な可能性を実現するには、新たなオペレーティングシステムのアーキテクチャにおいて、各国・地域間で相互運用可能な(必ずしも同一ではない)国境を越えるデータ流通プロトコルが必要です。
例えば、「精密農業」分野で事業を展開するスタートアップのCEOから、アフリカのある国で農地に計測機器を設置し、収量を大幅に(2倍、3倍に)増やそうとしていると聞きました。しかし、そのためには偏りのあるデータセットにならないよう、その国のデータを他国のデータと組み合わせる必要がありました。既存のデータ保護プロトコルではデータを国外に持ち出せなかったため、これは困難でした。
税制、知的財産、法制度、保険
この新たなオペレーティングシステムの文脈では、税制、知的財産権、保険についても検討する必要があります。
例えば、製品を3Dプリントできれば、物理的な国境を越えていなくても、実質的にはその製品を輸入したことになります。手数料を支払う必要があるのでしょうか。設計仕様の真正性をどう確保するのでしょうか。製品の製作者はどのように報酬を受け取るのでしょうか。
複数の情報源から得たデータをもとにアルゴリズムが作られ、「人間の創意工夫」が関与していない場合、それは特許の対象となるのでしょうか。なるとすれば、誰が特許を取得するのでしょうか。
最後に保険について、アルゴリズムが下した決定の結果に害が生じた場合、誰に責任があるのでしょうか。
可能性に満ちた世界
上記のプロトコルは、ドローン、自動運転車、精密医療、3Dプリンティング、ロボット工学、地球資源の管理など、第四次産業革命の特徴となる多くの分野に適用できます。
こうした進歩は、パラダイムを一変させる可能性があります。次の例を考えてみましょう。
最近インドを訪問した際、政府関係者から、公立病院では市民12,000人に対して医師が1人しかいないと聞きました。特に人口が増え続けるなか、需要を満たすだけの病院を建設し、十分な数の医師を養成するのは不可能です。
週に一度、ナノ粒子を飲み込むか鼻から吸入し、それが後に体外へ排出される過程で、細胞データやバイタルサインを収集し、世界最大の科学知識ベースに安全にアップロードできるとしたらどうでしょうか。AIの支援を受ける医師の診察後、患者一人ひとりに合わせた薬の処方データを本人のモバイル端末にダウンロードし、キオスクで3Dプリントできます。このSFのような(しかし十分実現可能な)モデルを使えば、病院の建設や医師の養成を必要とせず、富裕層にも貧困層にも、何億人もの人々に個別化医療を届けられるでしょう。
都市の交通渋滞は、ストレス、生産性の低下、環境悪化の主な原因です。また、郊外からの通勤が過度な負担になるため、人々が都心の職場で働くことを妨げます。都心で認められるのが自動運転のタクシーとバスだけだとしたらどうでしょうか。駐車スペースを減らし、より暮らしやすい都市にできます。公共交通はより速く、安全で、安価になり、高齢者や若者がバス待ちの列に並んだり、駅から自宅まで歩いたりする必要もなくなります。緊急サービスの効果も高まります。労働者は都心の職場まで、より短時間で通勤できるようになります。
しかし、バスやタクシーの運転手などの雇用が失われることにもなるため、市民には職業訓練のやり直しと社会的保護が必要です。また、駐車違反や交通違反の罰金が減れば都市の歳入も減少します。そのため、時間帯、使用車両、場所に応じた従量制の料金を車両の利用に課すことが考えられます。
特にマグロ漁などの違法漁業は、一部の国にとって大きな収入損失の原因であると同時に、生態系を乱す要因でもあります。漁師が摘発されるころには魚はすでに死んでいるため、制裁はほとんど役に立ちません。低軌道衛星からデータを収集し、機械学習アルゴリズムで違法行為を検知したうえで、ドローンを展開して違法漁業を防げるとしたらどうでしょうか。
小規模農家は、特に新興市場において重要な収入源であり、食料安全保障に関わる重要な存在です。農業にモノのインターネット(IoT)を導入し、日照、降水量、土壌の状態に関するデータを収集して、適切な種類と量の肥料をドローンで届けられるとしたらどうでしょうか。農業資材の使用量を減らし、収量を増やせるでしょう。
既存の規制の枠組みやガバナンスモデルが、こうした進歩の妨げになっています。フォーラムが最近サンパウロで開催したラテンアメリカ会合で、ある国のイノベーション機関の長が、米国で腫瘍医を務める娘の話を共有しました。娘は、従来の方法よりはるかに早い段階で膵臓がんを検出する血液検査を考案しました。検査を検証するために近隣の病院のデータが必要になった際、既存のプライバシー法によって病院はデータを共有できませんでした。こうした法律は、そのようなイノベーションが可能になるとは考えられていなかった時代に制定されたものです。
数カ月前に当センターを訪れた北欧諸国の代表団は、共有する意思のある環境データを大量に保有しているものの、そのための仕組みが見つからないと話しました。
第四次産業革命センターでは、グローバルネットワークを通じて、政府、企業、学術界、市民社会と協力し、この新たなオペレーティングシステムを共同で設計しています。このシステムは透明性と説明責任をもたらし、新たな技術革命がもたらす複雑な課題を解決する革新的な方法を提供します。大きな構想を持ち、迅速に行動し、より公正で、技術を基盤とするグローバル社会の土台を築く必要があります。




