「拡張型リーン」とは、効率的で能力を高められた労働力を実現するため、テクノロジーのインターフェースが従業員の内発的な意欲や熱意、自律性を高める必要性を示す概念です。
拡張型リーンを実践する組織には、リーダーシップと従業員がテクノロジーを介して連携し、会社の働き方を変える、新たな形の創発的ガバナンスが求められます。
その重要な5つの側面の例を紹介します いずれも協働のプロセスを通じて生まれたものです。
製造業の多くの企業にとって、デジタル変革の成功は究極の目標ですが、簡単に実現できるとは限りません。失敗率が高いのは、企業が従業員のニーズではなく、効率化をうたう複雑なテクノロジーから着手しがちなためです。この重点を逆転させれば、成功を実現できます。
これが拡張型リーンの本質です。効率化への投資から変革をもたらす効果を得るには、テクノロジーのインターフェースが従業員の内発的な意欲や熱意、自律性を高めなければならないという考え方です。労働力には、リーン(効率的)であると同時に、拡張(能力向上)されていることが求められます。しかし、過去30年間、産業テクノロジーがもたらしてきたのは正反対の結果でした。労働力を早々に自動化で置き換えようとした誤った試みによって、意欲の低下や不満、自律性の喪失を招いたのです。
新たな技術革命を目前にして
第4次産業革命は、人類が速度、範囲、システムへの影響において際立った新たな技術革命を目前にしていることを認識する必要性を示しています。世界経済フォーラムのグローバル・ライトハウス・ネットワークは、世界有数の工場のベストプラクティス事例を通じて、こうした教訓を取り入れる大規模な産業工場の卓越性を強調しています。
しかし、小規模工場がこれを実現するのは容易ではありません。今必要なのは、すべてのステークホルダーが産業テクノロジーの恩恵を最大限に得られるよう支援する経営の枠組みです。
拡張型リーンの枠組みを導入する
そのために、産業界のリーダーはまず、少なくとも4つの方法で自社をデジタル変革できることを理解する必要があります。俊敏な展開と段階的な展開のどちらかを選び、詳細を計画するか、変化の創発に委ねるかを決める方法です。ただし、唯一の最善策があるわけではありません。
拡張型リーンを実践する組織は、従業員に全面的な関与を求めます。この枠組みの導入には、リーダーシップと従業員がテクノロジーを介して連携し、会社の機能の仕方を変える、新たな形の創発的ガバナンスを受け入れることが必要です。
そのために組織は、一定の制約のもとで変化に開かれた姿勢を重視する原則を定める必要があります。具体的には、学ぶ、創発する、拡張する、分権化する、自律性を与える、尊重する、工夫する、統治する、という8つの原則です。トップダウンとボトムアップのアプローチを組み合わせたこれらの原則は、小規模な組織にも有効です。
俊敏かつ創発的な変革
その枠組みを実践した明確な例が、米国カリフォルニア州サンノゼに本社を置く上場医療機器メーカー、アウトセット・メディカルがメキシコに新設した工場(OMM)の変革です。俊敏であると同時に創発的な取り組みでした。おそらく最もリスクの高い戦略ですが、成果が最も目に見えるアプローチでもあります。
これは、大企業と比べて利用できるリソースが少ない中小企業は、イノベーション、成長、デジタル変革を同時に進める際、大きな課題に直面するという通説に反するものです。秘訣はシンプルで、従業員を深く巻き込むこと、焦点を絞った第4次産業革命のロードマップを作成・実行すること、そしてTulipの現場向けアプリを導入することでした。
アウトセットの製品の中核をなすコンソールは、メキシコのゼロから建設された施設で製造されています。アウトセットは9カ月で施設を設計、建設、拡張し、生産規模を拡大しました。6カ月の時点ですでに生産能力を6倍に引き上げていました。変革に必要なデジタルアプリはすべて、現地の6人のチームが社内で開発しました。
機械の効率よりも従業員の自律性向上を優先する拡張型リーン生産は、組織が民主化を徹底的に追求するチームの取り組みとして最も効果を発揮します。まず、実際に運用を始めます。その後、学びながら、選任された従業員がガバナンス、研修、アジャイルなプロジェクト憲章を作成し、18カ月のロードマップに沿ってスプリントで進めます。基盤が整うと、アウトセットとTulipは、アプリ開発の文書化手法の監査に加え、現場のIoT接続状況を毎月監査し始めました。
拡張型リーンを実践するには
アウトセットが採用した拡張型リーンのプロセスには、5つの重要な側面があり、いずれも従業員との協働を通じて生まれました。
1. 自律性の付与
自律性の付与は目標に掲げるのは簡単ですが、実践するのは困難です。しかし、スキル向上と専門能力開発を通じて、アウトセットの直接労働者の60%が高校卒業資格を取得しています(業界平均は23%)。
2. 持続可能性
持続可能性は重要です。センサーを接続した節水システムにより、完成品の試験で使用した水の50%超を施設内で再利用できます。超高効率の空調システムには、チームが涼しく快適な環境で働けるようにするために必要なエネルギーの3分の1だけを使うよう設計されたテクノロジーが活用されています。
3. 接続性
全社レベルの接続性により、ERPの処理業務は週当たり4万件超削減されました。
4. 製造の俊敏性
100を超えるスマート・ワークステーションによって製造の俊敏性が高まり、対話形式の面接から研修、実際の業務に至るまで、オペレーターにシームレスな体験を提供し、研修時間を60%短縮しました。
5. 能力
出発点にかかわらず、能力は体系的に継続して開発しなければなりません。そうすることで、積層造形やビジョンシステム開発の分野における将来の成長機会を特定し、実行に移すことができました。
アウトセットは、現場業務向けプラットフォームと連携して大きな成果を上げました。初日から、アウトセットの産業エンジニアがプラットフォームの全責任を担いました。その結果、従業員のニーズに合わせて設定でき、適応を求められる固定的なソリューションとして提供されることはありませんでした。
企業のニーズに合わせて拡張プロセスを調整する
小規模企業が拡張型リーン経営の理念を常に念頭に置き、純粋な自動化による効率向上よりも従業員の能力拡張を重視すれば、デジタル変革に向けた取り組みで機敏さと拡張性を保つことができます。初期導入を優先する考え方と、最終的に軽量ながら強固なガバナンス体制を導入するプロセスとのバランスが鍵となります。
製造業のデジタル変革を目指す企業には、同じ拡張型リーンの原則を取り入れつつ、自社の業界、背景、文化、状況に合わせてアプローチを調整することを勧めます。最も重要なのは、最高水準をうたうITソリューションに合わせるためだけに、重要な企業原則を手放さないことです。拡張型リーンを実践している企業としては、性格の異なるスタンレー・ブラック・アンド・デッカー、DMG MORI、J&Jなどが挙げられます。
各社はそれぞれ独自の拡張プロセスを設計し、一定の牽制と均衡を確認したうえで規模を拡大しました。中でも重要だったのは、産業エンジニアの賛同です。私たちの見解では、組織やテクノロジーの変革を実際に推進するのは、常に社内の人材でなければならず、コンサルタントやサービス提供者ではありません。少し努力すれば、小規模な組織でも、状況に応じて学び、創発し、拡張し、分権化し、自律性を与え、尊重し、工夫し、統治することができます。こうした点を踏まえると、関連する変数が有機的に拡大するため、企業規模はもはやプロセス変革を大きく制限する要因ではありません。


