世界は、主に農村部での暮らしから、大部分が都市部での暮らしへと、前例のない移行を経験している。
インドも例外ではなく、都市人口は2014年の4億1000万人から 2050年までに8億1400万人へ増加すると予測されている。これは今後35年間にわたり、毎年デリー1つ分に相当する都市人口の増加が続くことを意味する。
インドが都市環境を適切に計画・開発すれば、都市化は人々が効率的に暮らす手段となり、インフラやサービスの提供で規模の経済を可能にする。さらに、人々の近接性と多様性は技術革新を生み、雇用を創出し、国の経済を牽引する原動力となりうる。しかし、適切な計画とサービスがなければ、無秩序に広がる都市は不満の火種となりかねない。
こうした状況を受けて、インド政府は二つの野心的な都市再生プログラムを開始した。
100のスマートシティ: 政府は今後4年間で75億ドルを投資する計画であり、同額を州政府が拠出する。対象はインド全土の100都市で、物理インフラ(水、エネルギー、建築環境、廃棄物、モビリティ、ICT)と社会インフラ(保健、教育、レクリエーション施設)の強化を目指す。都市は「スマートシティ・チャレンジ」を通じて選定される。これは都市同士を競わせる仕組みであり、市民を巻き込みながら、都市が直面する主要な課題を特定させ、スマートな解決策を提供する計画を策定させるものである。
500のAMRUT(Atal Mission for Rejuvenation and Urban Transformation)都市: AMRUT都市プログラムは、インドの500都市について基礎インフラ(水、衛生、オープンスペース、公共交通)の強化を目指すもので、インド政府は今後4年間で75億ドルを投資する。本プログラムはまた、都市の地方自治体の機能を強化するための研修の提供も目指している。
これらのプログラムは、伝統的に農村開発に重点を置いてきた国において、都市への新たな注目をもたらした。加えて、国内外の投資家の関心も再び高まっている。投資家らは、インドがインフラ投資のギャップを埋め、2030年までに 都市インフラに6402億ドルを投資できるよう、官民連携が必要であると認識している。ただし、投資家らのメッセージは明確である。スマートシティは、スマートなガバナンスとスマートな規制なくしては存在し得ず、新たな都市再生プログラムが過去の過ちの犠牲にならないよう、制度および政策レベルでの早急な改革が必要である。
インフォグラフィック:都市インフラの需要:2012~2031年
インフォグラフィックの出典: The Future of Urban Development & Services: Urban Development Recommendations for the Government of India(7ページ)
World Economic Forum Future of Urban Development and Services initiative は、世界の都市が主要な都市課題に取り組む中で、都市の変革におけるパートナーとして機能している。2015年には、同イニシアチブはインドに重点的に取り組み、特に Urban Development Recommendations for the Government of India を提供してきた。さらに最近では、スマートシティの実現を加速するために、政府の全レベルで必要となる改革に注力している。
インフォグラフィック:インドの競争力プロファイル
インフォグラフィックの出典: The World Economic Forum’s Global Competitiveness Report 2015-2016
世界経済フォーラムの Future of Urban Development and Services Initiative は、スマートシティを実現するために必要な4つの主要な改革を特定した。
都市行政の強化
現在、インドの都市では市長は名目上の存在にすぎず、州政府から派遣され州に対して責任を負う市政委員が、都市の執行責任者を務めている。
市民が直接選出する、あるいは議会が選出する執行権限を持つ市長が、都市機能すべてを統一的に指揮することで、頻繁な指導部の交代に悩まされている都市レベルの行政に、責任と目的をもたらすことができる。
さらに、都市の執行部門は、大規模な都市再生プログラムを実行するための技術的・管理的能力を育成する必要がある。
インフォグラフィック:都市変革に向けた利害関係者の準備状況
尺度は利害関係者の準備状況を示し、0は準備ができていないこと、4は完全に準備ができていることを意味する
出典:世界経済フォーラムが実施した調査
利用者負担を適切に設定する
都市プロジェクトは、利用者がその費用を支払わないために頓挫することが多い。これにより料金収入が減少してサービス提供が劣化し、財政状況が不安定になる悪循環が生じる。その結果、都市の地方自治体が財政支援を得たり融資を受けたりする機会が阻害される。水、廃棄物管理、モビリティなどの都市分野全体で、サービス水準と、運営・管理費用を賄うための最低料金を決定できる独立した規制機関が必要である。州が規制機関の定めた料金を課さないというポピュリスト的な決定を下した場合には、不足分を州が補填すべきであり、これによって都市の財政的独立性を確保する。
都市行政はまた、公益事業における不正使用や盗水を減らす措置も講じるべきである(無収水は水の生産量の50%を占める)。その際、メーターが100%正常に機能するよう確保し(漏水の70%は不具合のあるメーターに起因する)、そのうえで初めて技術への投資を行うべきである。
民間セクターとの連携および紛争解決の改善
市民参加がスマートシティ・プログラムの不可欠な一部として適切に位置付けられた一方、都市が実施を計画する主要プロジェクトについて、民間セクターがフィードバックを提供するための透明性のある経路も設けなければならない。民間セクターと市民の双方を早期に関与させることで、地域住民の受容に関するリスク(コミュニティ・リスク)や、スコープの変更・拡大・取り消しに関するリスク(スコープ・リスク)を低減できる。
プロジェクトのスコープが曖昧だと契約上の紛争につながりかねず、インドは 紛争解決で189か国中178位である。インドは、戦略的インフラプロジェクトの問題を迅速に処理するための特別法廷の設置を検討し、代替的紛争解決メカニズムを推進するとともに、シンガポールや韓国のように訴訟手続きを合理化する電子訴訟システムを導入することを検討すべきである。これにより、重要プロジェクトが停滞せず、その財政的実行可能性が維持されるようにする。
インフォグラフィック:インドにおける官民連携のリスク(都市開発プロジェクト)
出典:世界経済フォーラムが実施した調査
許認可手続きを改善する
インドは189か国中、 建設許可の取得で183位であり、業界は環境コンプライアンス手続きに関する問題をしばしば指摘してきた。インドの三層構造のガバナンス体制では、多数の省庁と調整する必要が多く、許可取得に時間がかかる。スマートシティおよびAMRUT都市プログラムの当初の期間は4年間に限られているため、プロジェクトを期限内に遂行し、許可手続きのボトルネックを解消することが極めて重要である。
インドは、中国の香港特別行政区で導入された改善策と同様の措置を採用することを検討できる。同地では、6つの地方部局と2つの民間公益事業者が一つの窓口に統合され、建築承認のためのワンストップ・ショップが設けられた。さらにインドは、低リスクの建物をシンガポールと同様の迅速な手続きで処理する、リスクに基づく分類の採用も検討できる。
インド政府が都市化プログラム、特にスマートシティ・プログラムを開始して以来、インドでは都市向け技術ソリューションへの熱狂が広がっており、それらはあらゆる問題の万能薬として提案されている。しかし、インドはまずガバナンスの慣行を改革することを優先すべきであり、そうしなければ技術への投資は無駄に終わりかねない。
著者:Alice Charles、Community Lead(Infrastructure and Urban Development Industry)、世界経済フォーラム
画像:2015年10月26日、スリナガルで地震を受けて予防措置として高架道路の車両通行が一時的に停止された後、道路に車両が渋滞している。REUTERS/Danish Ismail






