市民社会セクターはいま変革の時を迎えており、そのように受け止めるべきです。大きな地政学的変動、深刻化する環境課題、続く社会変化のさなかにある市民社会組織は、進行中の第四次産業革命の影響を理解し、実際に経験し始めています。
モバイル端末とインターネットを通じて何十億人もの人々をつないだ第三次デジタル革命を直接の基盤として、ポストデジタル時代のテクノロジーは、私たちの生活のあらゆる側面をさらに変えようとしています。情報を生み出し、アクセスし、活用する能力、人々や私たちにとって重要な課題との関わり方、価値ある資源を創出する力を根本から変えつつあります。こうした変化は新たなニーズや社会課題を生み出しており、個人や地域社会とともに活動する市民社会組織は、それらを理解し、対処しなければなりません。
こうした課題の中には、新しく極めて複雑なものもあり、社会の担い手には、それを緩和する仕組みや経験が不足していることが少なくありません。たとえば、アルゴリズムによる意思決定における差別的な結果、データ共有プロジェクトや地図に起因する個人および集団のプライバシー侵害、暗号資産を活用した慈善活動に伴う高い価格変動性、自身のデータ利用への同意を迫られる労働者の主体性の欠如、そしてバーチャルリアリティのストーリーテリングにおける偏見や誤った表現などです。
市民社会組織にとって、この新たな状況では、こうしたニーズや課題をいち早く捉え、適切なタイミングで対応するため、これまで以上に現場の状況を把握することが求められます。それだけでなく、今日の変化の速さと技術進歩のスピードを踏まえ、全体像を見据えて自らの役割と使命を根本から見直し、新たな能力やスキルを身につけ、組織運営、パートナーシップ、資金調達のモデルを転換する必要があります。そうすることで、社会の利益に資する、より力強く、機敏で、情報に通じた担い手となることができます。
このセクターが新興技術を取り入れ、使命を果たすための新しい方法を切り開いてきた事例は数多くあります。たとえば、アルゴリズムは森林火災の延焼を予測し、最も効果的な消火方法を見極めるために、分散型台帳は難民への支援や資源の提供に、無人航空機は到達が困難な地域への重要な医療物資の配送に活用されてきました。また、VR技術によって、これまで不可能だった方法で、環境保全などの課題を浮き彫りにする没入型体験を生み出すことも可能になっています。
一方、いま進行している変革は、テクノロジーやその他の革新的なツールを単に導入するだけにとどまりません。社会の利益を実現するための役割、構造、システムを新たにする、より深く根本的な移行です。変革の道を進み続ける市民社会組織が考慮すべき点を三つ挙げます。
1)新たな、異なる役割を担う準備をする
民主主義において活力ある市民社会セクターが果たす重要な機能の一つは、社会における説明責任、公正さ、信頼、透明性を促進することです。現在の状況では、この役割はこれまで以上に重要です。テクノロジーの変化が適切に統治されなければ、新たな不平等を生み出し、既存の不平等を強めるおそれがあるからです。第四次産業革命の展開に影響を与え、その好影響を最も支援を必要とする人々に届けるとともに、悪影響を未然に防ぐため、市民社会が関与する必要性は非常に大きいといえます。市民社会組織には、まったく新しい領域に踏み出し、たとえば提言者、監視役、あるいは能力構築の担い手としての歴史的な価値を、第四次産業革命の複雑で絶えず変化する状況において示すことが期待されています。
2)そうした役割を責任を持って果たすため、さまざまな緊張関係に向き合い、解決する準備をする
イノベーションやテクノロジーへの取り組みを進めるにあたり、組織は一連の難しい問いに向き合う必要があります。市民社会がテクノロジーを使う動機は何でしょうか。私たちはどのような問題を解決しようとしているのでしょうか。イノベーションを促すシステム、組織、文化をどのように設計すればよいでしょうか。活動にアルゴリズムツールや企業所有のデジタルプラットフォームを利用しながら、どうすれば独立性を保てるでしょうか。優れた実践からどのように学び、それを共有すればよいでしょうか。限られた技術関連の資源を、短期と長期でどのように配分すべきでしょうか。市民社会組織が技術変化にうまく、かつ責任を持って対応できるかどうかは、こうした緊張関係をどう捉え、それをめぐってどのような決定を下すかにかかっています。
3)セクターの未来を形づくるため、他のステークホルダーと協働する準備をする
技術変化の性質に、たとえば市民活動の余地の縮小などの要因が重なることで、市民社会組織は単独で、あるいは孤立したまま変化することはできません。パートナーシップ、事業運営、資金調達のモデルをめぐり他のセクターと連携するには、ある程度、急進的な変化を促すマルチステークホルダーの取り組みによる支援と恩恵が必要です。慈善活動、政府、産業界はいずれも、第四次産業革命に備える市民社会の準備を加速させるための支援体制、協働の場、そしてそれを可能にする条件づくりに責任を共有しています。最終的には、すべての担い手が協調して取り組まなければならない、システム全体の変革なのです。
市民社会が責任あるイノベーションの最前線に立つべき時です。今後の課題は多岐にわたり、明らかなリスクも伴います。それでも、人々を第四次産業革命の中心に据える機会と必要性は、このセクターが取り組まないままでいるにはあまりに重要です。
第四次産業革命における市民社会:準備と対応:こちらから白書全文をお読みください。本書は、世界経済フォーラムが社会セクターの組織と連携して主導する「第四次産業革命に向けた市民社会の準備」イニシアチブの一環です。



