近ごろ、国際貿易が世界の見出しを大きく占めています。議論の多くは、貿易戦争の脅威、報復関税の応酬、そして世界貿易体制の健全性に焦点を当ててきました。こうした議論は非常に重要ですが、国際貿易の明るい側面、すなわち第4次産業革命の革新的なテクノロジーが、貿易のプロセスをより包摂的で効率的にすることで、貿易をどう変革しているかを見落としています。
テクノロジーによる破壊的変化は、世界貿易システムにとって新しいものではありません。蒸気動力の革命は、それまでにない形で世界を結び付けました。海上コンテナの発明は、グローバル化の基礎を築きました。さらに近年では、コンテナ番号を読み取る光学式文字認識(OCR)、貨物の識別と追跡に使う無線周波数識別(RFID)やQRコード、貿易書類の基本的なデジタル化などのテクノロジーによって、国際貿易の信頼性と効率が向上しています。
一方で、デジタル商取引が普及する前に作成された貿易協定、大量の書類を伴う取引、いまなお従来の銀行手法に依存する貿易金融などを見れば、世界貿易システムは、貿易をより効率的で包摂的かつ低コストにできる最先端テクノロジーを十分に活用できていません。
明るい兆しは、変化が目前に迫っているかもしれないことです。テクノロジー導入のライフサイクルの異なる段階にあるさまざまなテクノロジーを組み合わせれば、資源配分のあり方や国際貿易の運営方法を根本から変えられる可能性があります。政府と企業は、時代の先を行くために、現在の動向を理解する必要があります。
世界貿易に変革をもたらす5つのテクノロジーを紹介します。
1. ブロックチェーン
ブロックチェーンおよびブロックチェーンを基盤とする分散型台帳技術は、世界貿易のサプライチェーンに大きな影響を与える可能性があります。たとえば、貿易関連団体であるドバイ商工会議所も、高コストや透明性・安全性の欠如といった世界貿易の課題に取り組むため、ブロックチェーン技術を活用する取り組みを開始しました。
ブロックチェーンを基盤とするソリューションは、物品の移動をより効率的で信頼性の高いものにするだけでなく、貿易金融のあり方にも変革をもたらしています。たとえば、国際貿易で使われる支払手段である信用状(LoC)の取得に伴う、長く煩雑な手続きを簡素化するためにブロックチェーンが活用されています。
デロイトは、イーサリアム・プラットフォームを基盤とするブロックチェーン・ソリューションを開発し、インドの民間銀行による信用状発行の仕組みを再設計しました。その結果、発行にかかる時間は20~30日から数時間に短縮されました。また、Skuchainなどの企業は、商品のリアルタイム追跡と在庫金融を提供して取引のリスクを軽減し、信用状を完全に不要にしています。これにより、金融機関はサプライチェーン上のすべてのパートナーに対し、そのチェーンで最も低い資本コストで運転資金を提供できます。
2. 人工知能と機械学習
人工知能と機械学習は、貿易貨物の輸送ルートの最適化、港湾における船舶やトラックの交通管理、ある言語で入力された電子商取引の検索語句を他の言語に翻訳し、翻訳された商品在庫情報を提示するために活用できます。
効率の向上や消費者サービスの改善にとどまらず、AIは世界貿易の持続可能性を高めるためにも使われています。たとえば、Googleは2016年にGlobal Fishing Watchを立ち上げました。これは、船舶の移動と衛星データに基づいて商業漁業の活動を世界規模で把握し、機械学習を活用して違法漁業に対抗するリアルタイムのツールです。政府やその他の組織は、これを使って不審な行動を特定し、持続可能な政策を策定できます。
3. デジタルプラットフォームを介したサービス取引
オンラインでサービスを取引することは、ますます容易になっています。たとえば、Upworkのようなデジタルプラットフォームを使えば、世界中から幅広いサービスの提供者を探せます。セルビアのウェブ開発者、パキスタンの会計士、フィリピンのバーチャルアシスタントなど、さまざまな人材が見つかります。一方、国際的な学習プラットフォームVIPKIDのようなスタートアップは、米国の教育者と中国の子どもたちを結び付け、オンラインで英語を教えています。こうしたデジタルプラットフォームは、かつては主に対面で提供されていた専門サービスにおいて、顧客とサービス提供者をこれまで不可能だった形でシームレスにつなぎます。
4. 3Dプリンティング
3Dプリンティングが世界貿易に与える影響については、まだ結論が出ていません。予測する研究もあり、高速3Dプリンティングが広く普及し、十分に低価格になれば、世界貿易は最大25%縮小する可能性があるとしています。3Dプリンティングは必要な労働力が少なく、輸入の必要性も減らすためです。一方、こうした見方は楽観的すぎて、量産の複雑さや実態を考慮していないと主張する人々もいます。見解はさまざまですが、3Dプリンティングが世界貿易に与える影響は現実のものです。特に、より速く安価な3Dプリンティングの手法が利用可能になるにつれ、その影響は大きくなります。
5. モバイル決済
Apple PayからAlipay、M-Pesaまで、モバイル決済は私たちの暮らしを変え、より多くの人々を市場機会へと結び付けています。世界銀行のグローバル金融包摂データベースによると、銀行口座を利用できるようになった人の数は2011年から2014年の間に20%増加しました。特に新興国では、モバイルマネー口座が金融包摂を大きく促進しました。
たとえばサハラ以南アフリカでは、成人の12%(6,400万人)がモバイルマネー口座を持っています(世界全体ではわずか2%)。そのうち45%は、モバイルマネー口座だけを利用しています。銀行口座を新たに持つようになった人々がモバイル決済につながれば、消費者としても企業としても、世界貿易に参加しやすくなります。
新たなテクノロジーの普及には困難が伴う
これらのテクノロジーは、国内外で難しいガバナンス上の課題ももたらす点に留意が必要です。ガバナンスの枠組みの欠如、互換性のないライセンス要件や税制要件、時代遅れの貿易協定などを考えると、こうしたテクノロジーが自動的に根付き、成果を生むと単純に想定することはできません。
官民の関係者は緊密に連携し、こうした新しいテクノロジーが持つ可能性を最大限に引き出しながら、潜在的な害を抑えるための枠組みを整え、環境を整備する必要があります。特に関係者は、実験の余地を確保し、多様な参加者から意見を集められるよう、マルチステークホルダー型で人間中心のアジャイル・ガバナンスのアプローチを採用すべきです。さらに、世界共通の基準がないなか、地域の統治機関は主導的な役割を担い、データの流通、ライセンス、課税などの問題について、地域ごとのルールを調和させる取り組みを率いるべきです。
今日の不確実性のなかでも、テクノロジーの革新は国際貿易に明るい未来をもたらします。適切なガバナンスのアプローチがあれば、こうした革新は今後、より包摂的で効率的な貿易の成長を促すでしょう。




