マヤは医師に名前を呼ばれるのを待っています。3人の子どもたちは待合室で楽しそうな声を上げながら遊んでいますが、マヤは自分の健康を案じています。医師は、彼女が最も恐れていたことを告げます。子宮頸がんであることが判明したのです。これからどうすればよいのでしょうか。ソーシャルワーカーは、医療スタッフができるだけ早く治療を受けられるよう最善を尽くし、家族を養うために働き続けられるようにすると言って、彼女を慰めようとします。
マヤは架空の人物ですが、その物語は人々が日々直面する、現実に数多くある健康上の課題を反映しています。現実の世界なら、マヤの物語は名前と番号が記された診療記録に残されるでしょう。番号――医療システムにおける番号の背後には何があるのでしょうか。結果と説明責任を高めるための手段に、どうすればなり得るのでしょうか。さらに重要なのは、こうした手段がマヤのような女性を具体的にどう支援できるかです。がんのリスクがある、あるいはすでにがんと診断された他の貧しい女性たちとともに、マヤが適時に治療を受けられるよう、誰が確保するのでしょうか。医療データをリアルタイムで収集し活用することは、高所得国、中所得国、低所得国の住民である私たち全員にとって、この課題の核心です。
この1カ月、すべての国をユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)へと前進させる取り組みにおいて、いくつもの重要な節目がありました。なかでも重要だったのは、6月9日に公表された 「健康測定と説明責任のためのロードマップ」および「5項目の行動要請」です。世界銀行、米国国際開発庁、世界保健機関はこの中で、強固な保健情報システムを通じて各国のデータ能力を強化するための戦略的アプローチを示しています。
情報通信技術が急速に普及し導入されるなか、意思決定者は今や多くのツールを使って傾向を分析し、戦略的な判断を下せるようになりました。しかも、その判断はますますリアルタイムで行われています。貧困層が医療サービスから恩恵を受けているかどうかなど、医療システムの学習を改善するためにデータを収集、管理、分析する新たな手法は、適切な患者に適切なケアを適切な時に、毎回確実に提供すること――UHCの目標――を後押ししています。
ロードマップと行動計画では、各国が保健情報の国家インフラ整備への投資を優先する際に検討できる、中核的な情報システムを詳述しています。これらのシステムには、住民登録と人口動態統計、国勢調査と世帯調査、医療施設および地域保健の情報、疾病監視システムが含まれます。
各システムはそれぞれ戦略的な役割を果たし、国レベルの健康動向データを強化します。こうしたシステムの価値と「ビッグデータ」から得られる洞察の可能性を最大限に引き出すには、少なくとも3つの重要な基盤が必要です。1)強固な患者識別の仕組み、2)データインフラのベンチマーキング、3)データインフラの透明性あるガバナンスです。
第一に、 患者識別です。外来と入院の双方を含む、あらゆる医療段階にわたって患者記録を特定できる仕組みが必要です。この縦断的な視点は、対象集団の傾向を特定し、健康上の成果をモニタリングするうえで重要です。また、予算、サービス提供、継続的なケアとデータを連結し、地域、地方、国レベルの意思決定がケアの費用、質、適時性に及ぼす影響をよりよくモニタリングするためにも不可欠です。
第二に、投資効果を最大化するため、各国は 優れた実践例を共有すべきです。特に臨床ケアの文脈で、こうしたシステムの開発、導入、活用を測定するには、ベンチマーキングのような包括的かつ体系的なアプローチが必要です。
最後に、情報システムの ガバナンスを透明で包摂的なものにする ことも不可欠です。マヤのような患者も重要な利害関係者ですが、利害関係者がこのデータインフラにどう関与し、どう活用するか、またその保守や継続的な成熟をどう進めるかについて、明確なプロセスが必要です。それにより、技術を共有目標に沿わせることができます。データの管理責任と標準化されたシステム利用への説明責任がなければ、このインフラは多くの医療システムに見られる本質的な分断に陥り、データ連結の能力と収集データの価値を損なうおそれがあります。技術だけで、非効率なシステムが突然効率的になるわけではないことを忘れてはなりません。
意思決定者や医療管理者が質の高い医療サービスを適時に提供できるよう支援し、またマヤの診療履歴番号が単なる統計上の数字にとどまらないものとするには、地域、地方、国レベルの医療管理者が有意義な分析を行わなければなりません。
公衆衛生上の目標について合意することは比較的容易ですが、実際に前進するには、リアルタイムで中間的な成果をモニタリングできるダッシュボードに支えられた管理体制が必要です。
たとえば、マヤの事例を意思決定者の注視対象にするには、システム間で連結されたデータプールから意思決定者に警報を送り、マヤの診断内容や、医療提供者が治療を始めるまでにかかった時間を知らせる必要があります。こうした警報は、治療の遅れに注意を促し、その理由(待機リスト、人員不足など)を把握するうえで重要です。さらに、国や地域のセーフティネットサービスを通じてマヤの家族が支援を受けられるようにすることにも役立つでしょう。たとえば、彼女が化学療法を受けている間、子どもたちを預ける場所を提供したり、健康状態の悪化と収入減を理由に条件付き現金給付の対象となるか確認したりできます。
データシステムはこの種の学びを促進できますが、その開発を市場の力や偶発的な経験交流だけに委ねることはできません。協力国間でこうした基盤を導入するため、有望な実践例と関連する教訓を体系的に特定する必要があります。その実現に向け、パートナーや主要な利害関係者は、世界各地の医療システムに蓄積された知見を活用し始めなければなりません。世界銀行グループと他の開発パートナーは、この目標に取り組んでいます。今後の情報にもご注目ください。
本記事は、 世界銀行の「Investment in Health」ブログとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持していることを意味するものではありません。
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著者:フェルナンド・モンテネグロ・トーレスは世界銀行の医師兼エコノミスト。アダム・M・エイテンはブルッキングス研究所の研究者で、保健政策センターにおいてエビデンスの創出とバイオメディカル・イノベーションに取り組んでいます。
画像:医療従事者の隣にプリンターが見える。REUTERS/Kham。


