人間を中心に据えたレジリエンスへのアプローチは、組織と従業員が将来の課題に備える力となる
脆弱性を認識し、変革への勇気を見いだし、リソースを効果的に活用することは、レジリエントな事業運営に欠かせないスキル
環境課題へのフロリダ州の対応は、組織がリスクとレジリエンスにどう取り組むべきかを示す事例
レジリエンスを逆境の後に立ち直る力と定義するなら、何度も立ち直ることに、正直なところ疲れを感じています。そして、そう感じているのは私だけではないと分かっています。
メンタルヘルスの課題が増えていることを指標にすれば、組織のあらゆるシステムの基盤であることは間違いない人々が、消耗するほどのストレスにさらされていると分かります。この問題に組織レベルで取り組む必要性は、かつてないほど明白です。
次の調査によると、WTWの2021年ウェルビーイング診断調査雇用主の86%がメンタルヘルス、ストレス、燃え尽き症候群を最優先課題と捉えていますが、ウェルビーイング戦略を明文化し、導入しているのはわずか25%です。
では、学校、企業、家庭を問わず、組織は人々が強いプレッシャーにさらされているとき、レジリエンスを築くために何ができるでしょうか。
私は、人間を中心に据えたアプローチを提案します。脆弱性を認識し、変革への勇気を見いだし、一人で取り組もうとしないことです。
1. 脆弱性を認識する
この2年間に自分自身について学んだことを受けて、学校、仕事、人間関係、個人的な習慣などを変えた人は多いでしょう。こうした行動の変化はすべて、脆弱性を特定することから生まれます。
個人に効果のあることは、組織にも効果を発揮します。個人の脆弱性への対処は、その人全体の状況を踏まえて行う必要があるのと同様に、組織の脆弱性も企業全体の視点から理解すべきです。
複数の利害関係者や部門の意見を取り入れ、全体的な視点から取り組むことで、組織のレジリエンスをより効果的に高められます。脆弱性を特定して優先順位を付け、レジリエンス構築への道筋をつけることができます。
組織が脆弱性と関連する軽減策を包括的に把握する方法の一つは、リスクインテリジェンスソフトウェアやデータ可視化ツールの活用です。こうしたツールは、補償範囲や保険金請求の情報を含むリスクの理解に役立ちます。そして何より、リスク計画と資金調達の効率化につながる、実行可能な情報を提供できます。
この評価は財務部門またはリスク管理部門が主導できますが、組織のレジリエンスを高めるには、人事、オペレーション、テクノロジー部門の意見も必要です。
たとえば、組織のレジリエンスにとって、従業員のレジリエンスは欠かせません。健康と退職後の生活への備えを診断することで、従業員間の格差を特定し、公平性を高める対策を講じられるため、従業員の身体的、経済的、精神的なウェルビーイングを測定し、改善できます。何より、適切に実施された診断によって、不安やうつなど、精神的なウェルビーイングの問題を特定できます。こうした課題に対処しなければ、個人と組織のパフォーマンスに影響します。
組織の脆弱性を基礎的に理解して初めて、変化に着手できます。
2. 変革への勇気を見いだす
脆弱性を認識して理解したうえで、リーダーはレジリエンスを支えるために必要な措置を講じる決意を固めることができます。
組織変革では、まず人々の意識を喚起し、次に行動を変える必要があります。変革を長続きさせるには、リーダーがその変革を組織の目的と結び付けなければなりません。その目的は明確に定義され、伝えられ、理解されている必要があります。
ハーバード大学の研究によると、パーパスを重視するブランドの平均EBITDA(利払い・税引き・減価償却・償却前利益)は、パーパスを重視しないブランドの4倍でした。パーパスを重視する組織は、より収益性が高く、レジリエンスにも優れています。
他社と一線を画す、つまり勇気ある行動を取り、レジリエンスを築いている好例は、米国フロリダ州にあります。海岸線の水位上昇をはじめ、フロリダ州の脆弱性は州内でも全米でもよく知られています。
他のあらゆる組織と同様、州の投資リソースは限られています。しかし、フロリダ州は他の組織とは異なり、脆弱性への対処を優先してきました。その結果、リスク対策への投資と行動を、重要なニーズに沿わせることができました。
WTWはフロリダ州と協力し、気候や天候、サイバー、水から、社会経済や人的資本に関するリスクまで、幅広い極端なリスクを統合的に評価しています。州がリスク軽減策に優先順位を付けられるようにするためです。リスク軽減に投資することで、フロリダ州は海岸線などの天然資源をより効果的に守れるようになりました。同時に新たな企業を呼び込み、それがさらなる住民の流入や雇用、成長につながっています。
規模を問わず、あらゆる組織がフロリダ州のモデルに倣えます。まず脆弱性を特定して定量化すれば、軽減策の投資収益率を評価し、取り組みに優先順位を付け、最も大きな効果が見込める分野に資本を効果的に配分できます。
3. リソースを結集する
個人も組織も、単独ではレジリエンスを築けません。仮想世界でさえ相互のつながりが深まっており、他者に頼ることが根本的に必要だと分かってきました。
脆弱性は組織ごとに異なるかもしれませんが、それに対して取るべき行動は他の組織と共通することが多く、協力して取り組むことで、はるかに大きな効果と効率が得られます。一定の規模に達すれば、レジリエンスを築きやすくなります。パートナーシップや共同事業を通じて規模と購買力を活用することは、レジリエンス構築の手段となります。
たとえば、従業員の経済的なレジリエンスを高める際、組織はマスタートラストや共同型雇用主年金制度を通じて、退職年金制度の費用や管理基盤を共有し、限られたリソースを最大限に活用できます。共同投資も、気候変動に配慮した投資の分野で規模を活用する方法の一つです。
効果的にリソースを動員するには、インセンティブを整合させることが重要です。組織間で適切なパートナーシップ契約を結ぶだけでなく、各組織が自らのインセンティブ体系を評価すべきです。たとえば、ネットゼロに近づくことを目標とする組織は、経営幹部の報酬を気候関連の指標に連動させるだけでなく、これから訪れる変化に従業員が備えられるよう対策を講じる必要があります。
新たな行動理念
他者と協力することで力を蓄え、いずれ必ず訪れる危機に立ち向かう備えができます。
人間を中心に据え、他者と分かち合う形でレジリエンスに取り組めば、防御的な考え方から、先を見据えて積極的に行動する考え方へと転換できます。レジリエンスの中に機会を見いだす考え方です。


