新型コロナ禍でどのような対策を講じて適応したのか、そして今後、強靭な企業を築くにはどうすればよいのか、3人のビジネスリーダーに尋ねた。
サプライチェーンの最適化、新興技術への投資拡大、地理的多角化が、生き残りを可能にした重要な業務上の転換だった。
ワクチン接種プログラムが拡大するなか、一部の企業にとって従来のやり方に戻ることは魅力的かもしれない。しかし、未来に向けた「ムーンショット」のビジョンとは何だろうか。
中東・北アフリカのビジネスリーダーは、変動が激しく煩雑な環境で事業を運営することに慣れている。新型コロナはこの地域に新たな課題をもたらし、過去半世紀に市場を率いてきた企業を特徴づけた従来の経営の定石を揺るがした。長く残る影響が形づくられつつあり、新型コロナ後の時代に勝ち残るのは、事業存続の常識を見直す企業だろう。
新型コロナ後の時代に、強靭で将来に備えた事業を成長させるには何が必要か、3人の有力な経営幹部に尋ねた。彼らは、パンデミックのさなかに事業を守るために採用した戦略、直面した課題、そして未来に向けた「ムーンショット」のアイデアを語った。
レジリエンスへの投資:サウジ・テレコム・カンパニー
「新型コロナは実に多くの面で困難をもたらしました」と、サウジ・テレコム・カンパニー(STC)の退任予定CEO、ナセル・アル・ナセル氏は語る。「しかし、STCが地域を代表するICT企業、そして国家を支える中核企業として、政府の取り組みや事業継続、より広い地域社会を支援する役割を果たす機会にもなりました」。過去3~4年間に光ファイバーとモバイル通信のインフラへ順調に投資してきたことで、STCはネットワーク容量とサービス品質を維持できたと同氏は言う。こうした投資のおかげで、STCの2020年第4四半期の売上高は前年同期比で約16%増加し、同社にとって8年間で最高の年間売上高を記録した。
ここ数か月の経験によって、デジタルトランスフォーメーションに対する私たちの見方は根本から変わりました。
ナセル・アル・ナセル、サウジ・テレコム・カンパニー退任予定CEO
「ここ数か月の経験によって、デジタルトランスフォーメーションに対する私たちの見方は根本から変わりました」と同氏は語る。「長期的な願望として掲げる課題から、差し迫った具体的な必要性へと変わったのです」。同社の2018年のDare戦略の一環として、デジタルトランスフォーメーションに多額の投資を行っていたSTCは、新型コロナがもたらした課題、すなわちリモートワーク、教育、医療によるネットワーク需要の急増に対応することができた。
2021年、STCが優先するのは、エコシステムを基盤とした効果的なモデルの実現だ。その一環として、スマートシティ、物流、産業、家庭向けのIoT対応デジタルアプリケーションを開発している。また、5Gの展開、データセンターと分析、AIやAR/VRなどの新興技術への投資も大幅に増やした。
業務効率化と事業拡大:Averda
「2020年には、誰も想像できなかったような課題に直面しました」と、UAEに本社を置く世界的な廃棄物管理会社AverdaのCEO、マレク・スッカル氏は語る。「私たちの仕事は、かつてないほど重要になりました」。レジリエンスを高めるには、廃棄物管理技術の最前線に会社を位置づける必要があった。「その年、業務を全面的にデジタル化しました」と同氏は説明する。「今では、収集作業の各ルートをリアルタイムで追跡できるほどです」。
2021年、私たちは事業の準備に注力しています。景気回復によって活動と成長が新型コロナ前の水準に戻ることを見据えています。
マレク・スッカル、Averda CEO
新技術への投資を強化したことで、Averdaは書類業務と対面でのやり取りをなくすことができた。また、顧客との距離を縮めることにもつながった。「サプライチェーンを最適化し、より分散型で地域に根ざした業務体制を基盤とするようにしました」とスッカル氏は語る。これは、脆弱さを増す世界のサプライチェーンへの依存を減らす取り組みの一環だ。
Averdaにとって、2021年の生き残りは地理的な多角化も意味する。世界各地の都市や経済がロックダウンに見舞われるなか、同社は初めて戦略的に重要なインド市場へ参入し、中東とアフリカで複数の新規契約を獲得した。「2021年、私たちは事業の準備に注力しています。景気回復によって活動と成長が新型コロナ前の水準に戻ることを見据えています」。広大で複雑な市場に取り組みながら回復を目指すには、一定の考え方が必要となる。
生き残りに向けた事業再編:タメール・グループ
タメール・グループ会長のアイマン・タメール氏にとって、新型コロナは、同社のデジタルトランスフォーメーションを加速し、事業の根本的な前提を見直すまたとない機会となった。「私たちの事業はレジリエンスを備えているのか。事業モデルを再定義する必要があるのか、それともまったく新しいモデルを作り直すべきなのか。新しい規範のもとで世界はどうなり、何が新たな『日常』になるのだろうか」
私たちは自らの存在意義に立ち返りました。国に奉仕し、医薬品、医療用品、消費者向け製品を必要不可欠なものとして供給するために、ここにいるのです。
アイマン・タメール、タメール・グループ会長
同氏によると、事業の構造を見直し、新しい環境に最も適した形で貢献する方法を考えることが重要だった。「私たちは自らの存在意義に立ち返りました。国に奉仕し、医薬品、医療用品、消費者向け製品を必要不可欠なものとして供給するために、ここにいるのです。それが最優先事項でした」と同氏は語り、取締役会が中核事業の医療機器からPPE(個人用防護具)と救命医療製品へと軸足を移したことを説明する。「チームの健康を優先し、もちろん国民の健康も重視しました。この危機に勝者と敗者はいません。全員で勝つか、全員で負けるかです」。
タメール氏は、社内の意思決定のあり方も見直した。「権限移譲と委任、監督のプロセスを通じて意思決定を分散させ、チームとその能力を信頼しました」と同氏は語る。
タメール氏は、自身の業界でデジタルトランスフォーメーションを続けることを見据えている。「医療、物流、消費者向けのエコシステムで重要な役割を果たし続けたいと考えています。世界と地域の動向は変わり、私たちも進化しています。デジタルはグループの中核になりつつあり、市場への普及はかつてないほど進みました。この危機が、多くの取り組みを加速させる機会へと変わりつつあることに気づいたのです」。
「医療業界の最新動向の最前線に立ち続けられるよう、イノベーションをさらに発展させていきます」と同氏は語る。「そうすることで、物流における将来の『ムーンショット』のアイデア、たとえばトラックではなくドローンによるラストワンマイル配送にも取り組めるようになるでしょう」。
未来を描く:「ムーンショット」の追求
この先の1年は、移行と回復の年となる。ワクチンの実用化が見込まれるなか、一部の企業にとって従来のやり方に戻ることは、差し迫った誘惑となるかもしれない。
ナセル・アル・ナセル氏は、すべてのリーダーに3点を検討するよう促す。「第一に、明確で測定可能な目標を定め、デジタルトランスフォーメーションを最優先課題に据えてください。第二に、適切な技術力と人材力を築き、早期に備えてください。第三に、成果を重視したガバナンスと、組織全体のデジタルトランスフォーメーションを実行する基盤を確保してください」。
スッカル氏にとって次の一歩は、資源、廃棄物、リサイクルの循環をつなぐことだ。「2021年に『ムーンショット』のアイデアに取り組めるとしたら、水耕栽培を詳しく検討したいです。持続可能で信頼できる食料資源を地元で確保できない世界各地の地域に、食料を供給することを目指します」。
タメール氏は、タメール・グループのデータ活用能力を引き続き高めようとしている。「人工知能や予測分析のような新興の革新的技術を活用し、動向を監視して創造的な解決策を生み出すことを目指しています」。
新型コロナ後を見据え、レジリエンスを高めて新技術を活用することは、この地域で産業が生き残り、競争力を保つために不可欠である。
パンデミックの影響は間違いなく今後何年にもわたって続き、リーダーたちは、成功し将来にわたって存続する事業を率いるとはどういうことか、改めて考えざるを得ない。新型コロナがもたらした副次的な影響の一つは、より良い事業運営の機会である。その一歩を踏み出す責任は、最高経営責任者にある。
新型コロナ後の時代に勝ち残るのは、事業の存続の意味を見直す覚悟のある企業だろう。



