重点的な海洋保護は、3倍の恩恵をもたらす可能性がある

A fisherman paddles a wooden boat as dead fish are seen at Maninjau lake in Agam regency,
Safeguarding these regions would increase fishing yields by 8 million metric tons.Image: via REUTERS
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  • 新たな研究は、海域を地図化した初の研究である。海域を厳格に保護すれば、気候、食料、生物多様性の危機の解決に役立つことを示している。

  • これらの海域を保全すれば、海洋生物種の80%を守り、漁獲量を800万メトリックトン増やせる。

  • また、海底を底引き網漁から守ることで、10億トンを超える二酸化炭素の放出を防げる。

  • 現在、何らかの保護措置の対象となっている海洋はわずか7%にすぎない。

新たな研究は、厳格に保護すれば気候、食料、生物多様性の危機の解決に役立つ海域を初めて地図化した。

この新たな論文は、厳格な海洋保護が、健全な水産物の供給増加に貢献し、気候変動に対処する安価で自然に基づく解決策となり、危機にさらされた種や生息地を守れる場所について、これまでで最も包括的に評価したものである。

『Nature』で報告されたように、研究者らは保護によって複数の恩恵をもたらしうる海域を特定した。これらの海域を保全すれば、海洋生物種の約80%を守り、漁獲量を800万メトリックトン以上増やせるほか、広く行われているものの破壊的な漁法である底引き網漁から海底を守ることで、10億トンを超える二酸化炭素の放出を防げる。

これらの海域を保全すれば、海洋生物種の約80%を守れる。Image: Nature

自然を守るための青写真

この研究は、底引き網漁によって海洋に放出される可能性のあるCO2量を初めて定量化したものでもある。底引き網漁は毎年、数億トンのCO2を海洋に送り込んでいるという。

「乱獲、生息地の破壊、気候変動により、世界各地で海洋生物が減少しています。それにもかかわらず、何らかの保護措置の対象となっている海洋は現在わずか7%です」と、筆頭著者でナショナル ジオグラフィック協会の探検家として在籍するエンリック・サラ氏は述べる。

「この研究では、保護すれば食料生産を増やし、海洋生物を守りながら、炭素排出量を削減できる場所を特定する新たな方法を開拓しました」とサラ氏は述べる。「人類と経済がより健全な海洋から恩恵を受けることは明らかです。各国が協力して2030年までに海洋の少なくとも30%を保護すれば、その恩恵をすぐに実現できます。」

優先すべき海域を特定するため、研究者らは世界の未保護の海域を分析し、海洋保護区によって軽減できる人間活動(乱獲や生息地の破壊など)からどの程度脅かされているかに着目した。

次に、生物多様性の保護、水産物の生産、気候変動の緩和という相互に補完する3つの目標全体で、保護による最大の恩恵が得られる場所を特定するアルゴリズムを開発した。研究者らはこれらの場所を地図に示し、各国政府が自然保護への公約を実行する際に活用できる実用的な「青写真」を作成した。

「海洋保護がもたらすと知られている主な恩恵を3つ検討していますが、これは本当に始まりにすぎません」と、共著者でカリフォルニア大学サンタバーバラ校の環境市場ソリューション研究所(emLab)にある海洋・漁業プログラムの共同ディレクター、ダーシー・ブラッドリー氏は述べる。

「私たちのアプローチは、複数の利害関係者を協議の場に集め、それぞれの利益を優先できることを示し、最終的には、広大な海域を保護し、複数の目標を同時に達成する解決策が存在することを実証する方法です。」

「30×30」目標

この研究は海洋保全の単一の地図を提示するものではなく、各国が自国の優先事項に応じて保護する海域を決めるための、これまでにない枠組みを示している。ただし分析結果は、人類に複数の恩恵をもたらすためには、世界の海洋の少なくとも30%を保護する必要があるという主張を裏付けている。

「海洋生物を守り、ほかの恩恵も得るための唯一最善の解決策はありません。社会や各国が何を重視するかによって解決策は異なります。私たちの研究は、こうした選好を統合し、効果的な保全戦略を見つける新たな方法を示しています」と、emLabおよびナショナル ジオグラフィック協会のプライスティン・シーズに所属する海洋科学者で共著者のフアン・マヨルガ氏は述べる。

この研究は、第15回「生物多様性条約締約国会議」を前に発表された。同会議は5月に中国の昆明で開催される。190カ国の代表が集まり、世界の生物多様性危機を終わらせるための合意をまとめる。

2030年までに地球の陸地と海洋の30%を保護する目標(「30×30」目標)は、条約の柱になると見込まれている。この報告書は、米国、英国、カナダ、欧州委員会などが、国内および世界規模でこの目標を達成するとの公約を掲げた後に発表された。

「複数の恩恵をもたらす解決策は、人々にも指導者にも魅力的です」と、共著者でオレゴン州立大学教授のジェーン・ルブチェンコ氏は述べる。「私たちが開拓したこのアプローチによって、保護すれば食料安全保障、気候変動、生物多様性の損失という3つの大きな問題に同時に大きく貢献する場所を特定できます。画期的な手法により、自然と人々に複数の恩恵をもたらせます。」

保護すべき4つの海域

この報告書は、生物種や生態系が人間活動による最大の脅威に直面している、生物多様性の高い海域を特定している。こうした場所に厳格な規制を設けた海洋保護区を設置すれば、絶滅危惧種の生息域の80%以上を守れる。現在の保護範囲は2%未満である。著者らによると、優先すべき場所は海洋全域に広がっており、その大半は沿岸国の200海里の排他的経済水域(EEZ)内にある。

追加の保護目標海域は、国際法が適用される公海にも存在する。これには、中央大西洋海嶺(巨大な海底山脈)、インド洋のマスカリン海台、南米西岸沖のナスカ海嶺、アフリカと南極大陸の間にある南西インド洋海嶺が含まれる。

「最も印象的で心強い結果は、厳格に保護する海洋保護区の場所を慎重に選べば、海洋のわずか21%を保護するだけで、生物多様性の保全に大きな成果を得られることです」と、フランスのモンペリエ大学教授で共著者のダヴィド・ムイヨ氏は述べる。「保全上、特に優先すべき場所の一つは南極です。現在はほとんど保護されていませんが、気候変動の影響で近い将来、多くの脆弱な種が生息する場所になると予測されています。」

漁業の禁止が魚の生産を押し上げる可能性

この研究によると、適切な場所に設けられ、漁業を禁止する海洋保護区(MPA)は、天然魚の供給が減少し需要が高まるなかで、魚の生産を実際に増やすという。この結果は、海洋保護が漁業に悪影響を及ぼすという長年の見方を覆す。その代わり、乱獲や地球温暖化の影響で漁業が不況に苦しむ今、産業を再生する新たな機会を切り開く。

「海域を漁業の対象から外せば、漁業関係者に悪影響が及ぶという意見もあります。しかし、漁業の成功にとって最大の敵は保護区ではなく乱獲です」と筆頭著者のサラ氏は述べる。この研究によると、適切な場所を保護すれば、従来どおりの場合と比べて水産物の漁獲量を800万メトリックトン以上増やせる可能性がある。

「単純なことです。乱獲などの有害な活動がなくなれば、海洋生物は回復します」と、共著者でカリフォルニア大学サンタバーバラ校海洋科学研究所の助教、および同校ブレン環境科学・管理大学院の研究員であるレニエル・カブラル氏は述べる。

「保護措置が実施されると、海洋生物の多様性と豊富さは時間とともに増し、保護区内ではわずか3年で測定可能な回復が見られます。対象となる種や大型捕食者が戻り、MPA内では生態系全体が回復します。時間がたてば、海洋は自ら回復し、人類に再び恵みをもたらすことができます。」

底引き網漁と炭素

この研究は、世界各地で行われている破壊的な漁法、底引き網漁が気候に与える影響を初めて算出したものでもある。底引き網漁では、船が重い網を海底に引きずる。研究者らは、この漁法によって海洋に放出されるCO2量は、ほとんどの国の年間炭素排出量を上回り、世界の航空業界の排出量さえ超えることを明らかにした。

「海底は世界最大の炭素貯蔵庫です。地球温暖化を食い止めるには、炭素を豊富に含む海底を乱さずにおかなければなりません」と、共著者でユタ州立大学のトリシャ・アトウッド氏は述べる。「それにもかかわらず、私たちは毎日、海底を底引き網でさらい、生物多様性を損ない、何千年も前から蓄積された炭素を動かして、気候変動を悪化させています。底引き網漁が気候に及ぼす影響についての私たちの研究結果により、今後の気候計画で海底の活動を無視することは難しくなるでしょう。」

この研究によると、国内水域が広く、大規模な産業用底引き網漁が行われている国は、炭素貯留量の保護を通じて気候変動の緩和に貢献できる可能性が最も高い。著者らは、海洋のわずか4%(その大半は国内水域内)を保護すれば、底引き網漁による現在の炭素攪乱リスクの90%をなくせると推定している。

知識の空白を埋める

この研究の多岐にわたる知見は、これまで陸上の保全に比べて十分に研究されてこなかった海洋保全の影響に関する知識の空白を埋める助けとなる。

「海洋は地球の70%を覆っていますが、これまで、現代の課題解決におけるその重要性は見過ごされてきました」と、共著者でノバスコシア州ハリファックスにあるダルハウジー大学の研究教授、ボリス・ワーム氏は述べる。「賢明な海洋保護は、安価で自然に基づく気候変動対策を提供し、水産物をより豊富にし、危機に瀕した海洋生物種を守ることに、同時に役立ちます。

「恩恵は明らかです。今世紀の最も差し迫った3つの課題、すなわち生物多様性の損失、気候変動、食料不足を解決したいのであれば、海洋を守らなければなりません。」

出典:カリフォルニア大学サンタバーバラ校

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