脱炭素化の最適な道筋は、排出削減対策のコストと利用可能な天然資源に基づき、国によって異なります。
中東・北アフリカ(MENA)では、脱炭素化は経済性と自然を基盤とする道筋の利用可能性の限界に後押しされ、技術ベースのソリューションに重点を置いています。
しかしながら、炭素回収・貯留(CCS)やグリーン水素などの多くの技術ベースのソリューションは、十分に成熟していないか、規模を拡大するにはコストがかかりすぎるため、排出削減には既存の回避戦略を最大限に活用する必要性が強調されています。
MENAの気候は、再生可能エネルギーや新興エネルギー源にとっても大きな可能性を秘めており、MENAおよび他の地域が脱炭素化への歩みを進めるうえで役立つ可能性があります。
世界は、アクセス、コスト、排出量というエネルギーのトリレンマに直面しています。脱炭素化された未来に向けて前進する一方で、世界的なサプライチェーンの混乱や異常気象によって、停電や燃料価格の急騰がより頻繁に起きているのも目にしています。地政学的緊張は世界のエネルギーシステムの脆弱性を露呈させ、ネットゼロに向けて進む中で、安定的かつ手頃な価格のエネルギー供給が重要であることも明らかになりました。
中東・北アフリカ(MENA)地域は、このトリレンマの要に位置しています。数十年にわたり世界の信頼できるエネルギー供給源であり続けてきた同地域の石油は、生産コストが世界で最も安く、環境汚染も世界で最も少ない部類に入ります。
平均すると、MENAのペルシャ湾岸協力理事会(GCC)加盟国で生産される原油1バレルあたり40キログラムの二酸化炭素が排出されており、世界平均は原油1バレルあたり60キログラムの二酸化炭素です。
MENA地域の国々は、世界の石油供給量の約3分の1を生産しており、今後も世界のエネルギーミックスにおいて極めて重要な役割を果たし続けるでしょう。同時に、これらの国々は、国が定める貢献(NDC)やネットゼロの誓約において示した脱炭素化への約束について、具体的な成果を示す必要があります。
世界経済フォーラムは、アラブ地域の未来を形作るために何をしていますか?
MENA諸国は、どのようにして排出量を速やかに削減し、世界のエネルギー需要を確保できるでしょうか?
地域に根ざした視点で考える
あらゆる国が排出量の削減を目指しています。しかしながら、脱炭素化の最適な道筋は国ごとに異なります。これは、削減の可能性と排出削減コストを左右する地域固有の環境要因によって決まります。各地域は、それに応じて脱炭素化戦略を調整すべきです。
地域差の影響を示すため、GCC地域の国と北米・欧州の国という、2つの典型的な国の脱炭素化の道筋について、排出削減コストと排出削減の可能性を比較しました。エネルギー輸出量、総排出量が同程度で、世界の石油生産に占める割合が大きい典型例を選びました。さらに重要なのは、両国は気候、地形、天然資源が大きく異なっており、その結果、脱炭素化の選択肢も異なっていることです。
排出削減コストと資源の利用可能性を、技術ベースのソリューションと自然を基盤とするソリューションという2つの大きな道筋で比較しました。どちらにも、排出回避と排出除去の戦略が含まれています。
技術ベースのソリューションには、次のものが含まれます。
・排出原単位を削減する排出回避技術。エネルギー消費を減らす対策、一次エネルギー源を代替する再生可能エネルギー、発生源から排出される二酸化炭素を削減する炭素回収などを含みます。
・「直接空気回収(DAC)」として知られる排出除去技術。大気中の二酸化炭素を回収・除去する技術です。
自然を基盤とするソリューションには、次のものが含まれます。
・「炭素吸収源」を創出し、大気中の二酸化炭素を植物に取り込ませる、新規植林や森林・植生管理の取り組み。
自然を基盤とするソリューションの中では、次のことが見込まれます。
・排出回避:既存の生態系をさらなる破壊から守ること。
・排出除去:新たな植林(または新たな生態系の構築)により、大気中の二酸化炭素を段階的に除去すること。

この検証によって、地域差が排出削減の方向性、コスト、規模にどのように影響するかが明らかになりました。次のことが分かりました。
・自然の炭素吸収源が豊富で植生に恵まれた地域には、残存排出量を除去するための、費用対効果の高い自然を基盤とした選択肢があります。
・MENAのように自然の炭素吸収源に乏しい地域では、技術ベースの回避ソリューションがより適した選択肢となります。
・直接空気回収などの除去戦略は、コストが法外に高くなります。
・除去戦略はより高コストであるため、GCCおよびMENA地域の企業は、排出回避を最優先し、バリューチェーン全体で排出量を最小限に抑える必要があります。
投資単位あたりの生涯排出削減ポテンシャル
各道筋の運用期間、設備投資、運用費も異なります。各戦略について投資単位あたりの生涯排出削減ポテンシャルを測定し、企業が最も大きな「費用対効果」を得る方法を特定し、ネットゼロへの最適な道筋を見極めました。

分析の結果、2つの典型例の間で生涯排出削減ポテンシャルに大きなばらつきがあることが明らかになりました。
・新規植林などの自然を基盤としたソリューションは、北米・欧州のエネルギー生産国の典型例にとって、相対的により魅力的です。同地域では、1ドルの投資あたりの生涯排出削減ポテンシャルが70%高くなります。
・MENAの典型例では、太陽光エネルギーへの投資単位あたりの排出削減量は、同程度の北米・欧州の国と比べて2倍になります。
MENAにおける排出削減への道筋
この分析に基づくと、MENAにおける排出削減の最適な道筋は、他の地域とは異なるものになります。同地域の天然資源と気候条件から、MENA諸国は技術ベースのソリューションにより重点を置く必要があります。
MENAでの排出削減には、他の地域と比べて大幅に高いコストがかかる可能性があります。例えば、北米・欧州の国にとっての最適な脱炭素化の道筋は新規植林であり、これは、MENAの最適な道筋(太陽光)と比べて投資単位あたりの排出削減ポテンシャルが33%高くなります。
ただし、TbS(技術主導型の脱炭素化)を中心とした脱炭素化への取り組みでは、世界の排出量の測定、報告、検証(MRV)ガイドラインやネットゼロの枠組みを、MENAの生態系に合わせて地域ごとに適用できるよう文脈に即して調整する必要が本質的にあります。これは、地域ごとの最適な道筋と、社会経済的な発展の過程を踏まえて行われなければなりません。
MENA地域の脱炭素化を進めるには、複数の技術的な道筋を同時に追求する必要があります。MENAの企業は、脱炭素化に向けて次の5つの重点行動を取るべきです。
1. 家計や産業における国内のエネルギー使用量を減らすため、エネルギー効率化対策を優先すること。
2. エネルギーミックスを脱炭素化するため、再生可能エネルギーを大規模に導入すること。
3. グリーン水素や炭素回収など、将来的に排出量を劇的に削減できる画期的な技術に投資すること。
4. 回避できない排出量を除去するため、直接空気回収技術の規模を拡大すること。
5. 可能な限り同地域で自然を基盤としたソリューションを育成すること(例:マングローブ林は、乾燥した砂漠の環境で炭素吸収源として機能しうる)。
MENA地域がこの課題に取り組み始めている兆しがあります。湾岸諸国はすでに世界で回収される炭素の10%を占めており、今後さらなる投資が計画されています。また、さまざまな企業がMENA全域で再生可能エネルギーへの投資を行っています。今年、同地域はアラブ首長国連邦で2回連続となる国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)を開催する準備を進めており、MENAがネットゼロ目標を達成するには、技術ベースのソリューションへの投資を大幅に増やす必要があるという認識が高まっています。
世界経済フォーラムのコミュニティであり、同地域における気候変動対策の加速に取り組む政策立案者、企業、投資家から成る「Leaders for a Sustainable MENA」は、MENA地域における報告基準と脱炭素化の枠組みを地域の実情に合わせて調整する必要性を明らかにしました。同地域で意味のある持続可能性アジェンダを推進するため、リーダーたちは、社会のあらゆる層を気候変動に強い未来に向けて動員できるような、ベストプラクティスの共通ロードマップで足並みをそろえる必要があります。


