私は同僚たちとともに、複雑なシステムにおけるティッピングポイントを理解しようと、10年以上にわたって取り組んできました。ティッピングポイントとは、何かが急速に変化して新たな状態へ移る局面のことです。たとえば、水が摂氏0度で氷になることや、集団の中で広がっていたウイルスが、まるで何もないところから突然、爆発的に流行するような場合です。
私たちは、ティッピングポイントが近づいている兆候、つまり早期警戒シグナルを探してきました。これは、生態系や銀行システムが崩壊しようとしているかどうかを予測する助けになる可能性があります。しかし、私たちが見いだしたのは、それよりさらに重大で憂慮すべきことかもしれません。工業化社会は、地球を不可逆的になりかねないティッピングポイントへと押しやっています。世界は瀬戸際から引き返さなければなりません。
幸い、世界経済が新たなティッピングポイントを迎えようとしていることを示す有力な兆候があります。どうやら世界は、この破壊的な道筋から決然と離れ、地球規模の持続可能性へと向かっています。
この知らせは、まさに待ち望まれていたものです。気候変動は、もはや将来の世代にとっての遠いリスクではありません。それは今、ここにあります。

人類の時代へようこそ
ハリケーン・ハービーは急速に勢力を強め、ヒューストンに記録的な降雨をもたらしました。ハリケーン・イルマはカテゴリー5の勢力を記録的な長さで保ち、進路上のあらゆるものを破壊しました。フロリダ州では600万人を超える住民に避難命令が出されました。またアジアでは、バングラデシュが1世紀で最悪の洪水に沈み、農地や住居が壊滅するなか、4,100万人が被害を受けました。
もちろん、ハリケーンやモンスーンは自然に発生します。しかし、その勢力と激しさが増していることには、私たちの影響が色濃く表れています。温室効果ガスの排出は地球を温暖化させ、炭素循環と水循環を変化させます。海洋の温暖化が進むと、より多くの熱が蓄えられ、ハリケーンのエネルギー源が増えます。大気が温暖化すると、より多くの水蒸気を含み、危険な豪雨をもたらします。海面上昇は沿岸地域を脅かします。
気候の変化は、ハリケーンの季節を長引かせたり、ハリケーンが同じ場所にとどまる原因になったりする可能性もあります。温暖化した世界では、ハリケーンが赤道からさらに北や南へ進むことも考えられますが、これらの点に関する科学的知見は確実性が低いものです。洪水や嵐が起きる地域以外では、乾燥地域はさらに乾燥すると見込まれます。その結果、干ばつが長期化し、火災が増える可能性が高いでしょう。
これは、人新世、すなわち人類の時代へと向かう私たちの旅の始まりにすぎません。
洪水やハリケーンは氷山の一角
何が懸かっているのかを理解するには、ティッピングポイントを理解することが欠かせません。私たちは安定した気候を当たり前のものと考えています。生育期はおおむね予測可能です。乾季やモンスーンがいつ始まるかも分かっています。現在の海面水位にも慣れています。
地球の回復力がもたらしてきたこの相対的な安定は、1万年にわたって続いてきました。それによって、メソポタミアやアジアの肥沃な平野で、最初の農業や文明が生まれました。地球の回復力、つまり一定の範囲内にとどまる恒常性のような能力は、私たち共通の遺産であり、すべての子どもが生まれながらに持つ権利だと言えます。地球の回復力は、究極のグローバル・コモンズです。そして今、このグローバル・コモンズが危機にさらされていると、確信を持って言えます。
アジアや米国で起きている出来事は、氷山の一角です。それらは、解決策をめぐる私たちの考え方に根本的な欠陥があることも明らかにしています。経済学者はしばしば、繁栄に至る過程で環境破壊は避けられない代償だと論じます。国が豊かになれば、中間層が汚染の削減を求めるようになり、その対策に必要な資金もあるため、問題に対処できるという考え方です。しかし、人新世において、この論理はもはや通用しません。米国ほど豊かな国でさえ、私たちが引き起こしている環境破壊の規模から身を守ることはできません。
この問題は気候にとどまりません。工業化社会がグローバル・コモンズに影響を及ぼすほかの例には、生息地の破壊や種の大量絶滅、肥料に由来する窒素やリンによる汚染が引き起こすデッドゾーン、オゾン層の破壊、海洋酸性化があります。
新たな視点
この2年間、私は地球環境ファシリティ、世界経済フォーラム、国際自然保護連合(IUCN)、世界資源研究所が主導する国際グループとともに、新たなグローバル・コモンズを守り、危険なティッピングポイントを越えないために必要な対応策を探ってきました。この取り組みを通じて、何が必要なのかを明確にし始めています。
グローバル・コモンズの保護を最優先課題にしなければなりません。直ちに行動が必要なメガトレンドは、エネルギー、食料生産、都市化、消費、生産です。
しかし、それだけでは不十分です。世界には、グローバル・コモンズを支える科学的根拠に基づく目標が必要です。また、人類を、自らの長期的な運命を切り開く地球規模の種として捉える新たな物語も必要です。
幸い、世界観は地球の管理責任とグローバル・コモンズの責任ある管理へと、目に見えて変化しています。
人類にとって安全な空間
エネルギー分野では、経済のティッピングポイントが近づいている初期の兆候が見られます。世界の二酸化炭素排出量は、頭打ちになりつつあるようです。インド、英国、フランス、オランダ、ノルウェーは、ディーゼル車とガソリン車の販売を終了する計画を発表しました。中国とドイツも近く追随すると見込まれています。再生可能エネルギーは指数関数的な成長軌道にあります。しかし、成功には炭素産業の一夜にしての崩壊が必要です。世界全体で、温室効果ガスの排出量を2050年まで10年ごとに半減させる必要があります。
ここでも、適切な水準の意欲が生まれつつあることが分かります。最近フィナンシャル・タイムズが報じたように、環境・社会基準を重視する機関投資ファンドは、そうでないファンドを「大幅に上回る傾向がある」ことを示す証拠が増えています。同紙はさらに、2014年6月に米国の石炭産業に投資するほど愚かな判断をした人は、2015年末までに85%の損失を被っていただろうと警告しています。
この軌道を維持するには、グローバル・コモンズを管理する責任へと向かう世界的な意識の転換、経済成長だけを何が何でも追求する姿勢から脱却する社会の新たな目標、そして新たなゲームのルールが必要です。だからこそ、ニューヨークで開催される世界経済フォーラムのインパクト・サミットで、グローバル・コモンズ運動が始動します。この立ち上げの背後には、回復力のある安定した地球を実現するために必要な変革を推進することに取り組む組織連合があります。
地球の限界の範囲内で地球規模の持続可能性へと変革する必要性を強く認識する、これらの組織のリーダーたちの献身と熱意に、私は深く心を打たれています。科学的根拠に基づく目標と、人々と地球のための新たな物語に支えられながら、より多くの組織や業界のパートナーが加わり、この運動が広がる必要があります。私たちの目標は、人類にとって安全な活動空間へ向かうティッピングポイントを生み出すことにほかなりません。





