生活の質を測る最も基本的な指標の一つは、清潔な水を利用できるかどうかだ。現在、世界人口の3分の2が年間のある時期に水ストレスに直面し、10人に1人は清潔な水を利用できない。人口が増えれば、飲料水と農業用水の需要も増加する。同時に、気候変動が利用可能な水資源に影響を及ぼす。
地球の資源を消費する能力を上回る勢いで、革新的な解決策を生み出す力を高めなければならない。科学は希望への鍵であり、水の浄化をはじめ、エネルギーの生成・貯蔵や医療などの分野で大きな課題を解決する鍵でもある。人間の基本的なニーズに応えながら、飛躍的な経済成長と持続可能な開発を実現する可能性を秘めている。
こうした課題に取り組むには、幅広い研究分野で科学的なブレークスルーが必要であり、共通して求められるのは、ますます複雑化する性能要件を満たす新素材の設計と開発だ。石器、青銅器、鉄器、そしてシリコンの時代に至るまで、材料を操作する能力が文明の各時代を形づくってきた。歴史上の試行錯誤による方法では、今日私たちが扱う複雑なポリマー、タンパク質、ナノ構造合金に対処できない。幸いなことに近年、重大な技術課題の解決に必要な先端材料を設計・開発する能力は大きく進歩した。
ますます複雑化する材料には、特性評価とモデリングの両方に高度なツールが必要だ。これらは、特定の特性を念頭に置いて新素材を設計するための理解の基盤となる。世界各国は、ナノスケールの分解能で材料の特性や機能を研究できるよう、米国のブルックヘブン国立研究所にあるNSLS-IIや、MAX-IVなどのX線施設に投資してきた。
中性子源としては、オークリッジ国立研究所の核破砕中性子源や、欧州核破砕中性子源がある。MAX-IVのすぐ隣で建設中の同施設では、中性子を使って先端材料の基本特性を調べる。スーパーコンピューターは、実験で得られた構造や動態の情報を、新素材の設計と合成に必要なモデルと結び付ける。世界では、性能をエクサスケールへと高め、モデリングやシミュレーション、データ分析の能力をさらに向上させる取り組みが進んでいる。
科学者にとっての課題の一つは、飲用可能な水の確保などの重大な課題を解決するために必要な橋渡し研究を、こうした新しいツールを使っていかに迅速に進めるかだ。
世界の多くの地域では飲用可能な水が乏しく、清潔な水の不足と不衛生な環境が原因で感染症にかかり、世界のどこかで毎日、毎分、新生児が命を落としている。世界各地の研究者は、真空蒸留、多段蒸留、多重効用蒸留、蒸気圧縮蒸留、逆浸透(RO)など、海水を飲用水にする複数の方法を研究している。
ROは一般に海水淡水化工程の一部で使われ、他の淡水化プロセスに伴う高いエネルギーコストと設備投資を大幅に削減してきた。ROプロセスの要となるのは膜であり、塩分濃度の高い水と低い水を分離する薄膜だ。膜には、両側に大きな圧力差がかかっても耐え、塩分の移動を抑えながら水を速やかに通し、塩分による汚れや目詰まりを防ぐ性能が求められる。
こうしたさまざまな淡水化方法の大きな制約の一つは、世界の多くの地域で液体廃棄物の処分が認められず、廃塩を固体にして処分する必要があることだ。そのため淡水化工程に別の段階が加わり、全体のコストと複雑さが増す。淡水化工程全体の複雑さは、ROに使う膜技術の改良、またはRO自体のプロセス改善によって軽減できる。後者の例として、Battelleが開発中のカスケードROプロセスがある。この方式は複数のRO段階を組み合わせ、中間段階で生じる廃水を活用する新たな方法により、運転圧力とエネルギー投入量を大幅に抑え、従来のROプロセスの2~3倍の回収率を実現する。
持続的な成長を続けるために、手頃な価格で入手しやすい清潔な水を世界に提供することは、世界の科学界の役割だ。その実現には、先端材料を継続的に開発する必要があることは明らかだ。政府による研究への投資や大学、国立研究所を通じて、材料の構造や動態が有用な特性をどのように決定するのかについての基礎的な理解が深まり、設計によって材料を生み出す新時代が切り開かれている。これにより、企業やNGOはカスケードROなどの技術を導入し、人類が直面する差し迫ったニーズに応えられるようになる。






