低炭素資材と設計技術により、建設プロジェクトのセメント排出量は2030年までに最大40%削減できます。
現在、建設バリューチェーン全体にわたる構造的な課題により、低炭素設計と資材の大規模な導入が妨げられています。
新たな報告書は、設計・建設会社、資材メーカー、プロジェクトオーナー、投資家、政府が低炭素設計と建設を大規模に展開するために活用できる枠組みを示しています。
水に次いで地球上で2番目に多く消費され、建築物やインフラに不可欠な資材であるコンクリートは、現代の建築環境と、都市化が進む社会において重要な役割を果たしています。そのため、世界各地で経済と生活水準が向上するにつれ、コンクリートの需要は増え続けています。
一方、コンクリートは排出削減が難しい分野であり、主要原料であるセメントは、世界全体の排出量の約7%を占めています。ネットゼロの達成には同産業の脱炭素化が不可欠であり、早急な行動が求められます。
低炭素設計の可能性
世界経済フォーラムがボストン コンサルティング グループと共同で発表し、世界セメント・コンクリート協会(GCCA)から業界の知見を得た新たな報告書「コンクリートを用いた低炭素設計・建設の大規模展開:建築物とインフラのネットゼロへの道筋を拓く」は、低炭素設計技術の大規模導入と低炭素コンクリート製品の使用を通じて、短期的にコンクリート由来の炭素排出量を大幅に削減できる可能性があると指摘しています。
報告書は、次の3つの主要な手段により、建設プロジェクトにおけるコンクリート由来の排出量を2030年までに最大40%削減できると説明しています。
製造工程の脱炭素化。これには、生産効率の向上や再生可能電力の利用などが含まれ、GCCAが「2050年ネットゼロ・ロードマップ」で公表した2030年予測に沿うものです(炭素回収・利用・貯留やその他の画期的技術の広範な導入は含みません)。
低炭素型セメント混合物の指定。補助セメント系材料を使って製造時のセメント量を減らし、混合物のカーボンフットプリントを低減します。
使用する資材量の最適化。柱間隔を狭くする、中空部分を設けるなど、必要な資材の総量を減らす設計技術をプロジェクトに適用し、セメント製品の炭素集約度と必要量の間のトレードオフを調整します。

構造的な課題が立ちはだかる
残念ながら、建設バリューチェーン全体にいくつもの障壁があり、低炭素設計・建設の実践を大規模に進めることができていません。課題には以下が含まれます。
炭素評価の実務とデータが不十分です。プロジェクトのカーボンフットプリントを測定し、排出削減目標を設定することは、低炭素設計の実践を広げるための自然な第一歩です。しかし、ほとんどの設計・建設会社は、プロジェクトの炭素評価を継続的に実施していません。さらに、環境製品宣言(EPD)の形でセメントやコンクリートの詳細な排出量データを提供することは、メーカーにとって煩雑で費用もかかります。
バリューチェーン全体が分断されています。建設プロジェクトの実施には通常、複数の会社、チーム、専門家が関わりますが、それぞれが独立して意思決定することが多く、低炭素化に向けて協働する体制が整っていません。さらに、地域で調達されるコンクリートにとって重要な、地域のサプライチェーンを把握し、利用可能な低炭素製品の解決策を特定することも難しくなっています。
プロジェクトオーナーからの需要がありません。プロジェクトでコンクリート由来の排出量を減らすには労力が必要で、追加費用がかかる場合もあります。プロジェクトを担う建築・エンジニアリング・建設(AEC)会社は、顧客が低炭素設計を重視しなければ、その優先度を上げることに苦慮します。明確な需要のシグナルがなければ、セメント・コンクリートメーカーは、脱炭素化と低炭素資材の供給拡大に必要な設備投資をためらいます。一部の政府はグリーン公共調達プログラムを開始し、企業も低炭素資材の調達に向けた取り組みを表明していますが、ほとんどのプロジェクト発注者は、こうした慣行を導入していません。
規範や基準が時代遅れです。低炭素設計技術や製品は、業界の慣行や文書化された規範・基準と必ずしも整合していません。そのため導入にはリスクが伴い、企業は現状を打破する必要があります。
低炭素設計を大規模に展開する道筋
こうした障壁を乗り越えるために、バリューチェーン全体で取れる行動があります。AEC業界とセメント製造業界の世界各地の12の組織から意見を得て作成された報告書は、セメントとコンクリートの排出量を削減するため、低炭素設計を大規模に展開する枠組みを提示しています。この枠組みは、建築環境のバリューチェーンに関わる各主体が果たすべき貢献を示しています。主な内容は以下のとおりです。
設計・建設会社は、ライフサイクル全体の排出量を評価し、新たな低炭素ソリューションを試験導入するとともに、自社内で低炭素設計・建設を優先すべきです。それに合わせて、業務モデルや企業文化を変える必要があります。
セメント・コンクリートメーカーは、設計・エンジニアリング会社への支援と教育を拡充し、EPDの作成に投資するとともに、低炭素資材の供給を拡大する必要があります。
プロジェクトの発注者(公共・民間)は、要件、入札選定、設計プロセスにおいて低炭素設計を優先する必要があります。
政府は、進展を加速し、経済的な格差を縮小するため、支援的な政策を通じて役割を果たすことができます。

必要な行動を単独で実現できる主体はありません。低炭素設計の大規模展開には、建築環境のバリューチェーン全体での行動と協働が必要です。今こそ、官民のリーダーが行動を起こす時です。





