英国のオークは、次の病気による脅威にさらされている。急性オーク衰退症これは主に成熟した樹木に影響し、症状が現れてから4~5年以内に枯死させることがある。しかし、私のような研究者がその原因を調べ、予防法を見つけようとする中で、コッホの原則として知られる一連の科学的ルールに従わなければならないことも、研究の妨げとなってきた。
100年以上にわたり、科学者はこの原則に基づき、どの単一の生物が病気を引き起こすのかを特定してきた。しかし、植物と動物の病気に関する近年の研究から、この原則は厳格すぎること、そして「病原体群(パソバイオーム)」と呼ばれるものの中で、複数の細菌がどのように相互作用して病気を引き起こすのかを考慮し始める必要があることが示されている。
病原体群(パソバイオーム)とは、動物や植物において、相互作用する細菌が集団となって病気を引き起こすものだ。たとえば急性オーク衰退症は、複数の細菌によって生じ、それらが一体となって樹木の維管束組織を損傷し、枝や葉への水分と栄養分の輸送を妨げる。私たちは最近、急性オーク衰退症の原因菌として2種類の細菌を特定した。Brenneria goodwiniiとGibbsiella quercinecansだ。一方、Lonsdalea britannicaやRahnella属など、ほかの細菌も検出されているが、その役割は現在のところ明らかでない。
単独では、病原体群(パソバイオーム)を構成する細菌は無害、あるいは病原性が弱い。しかし、ほかの生物とともに存在すると、病気の発生確率、発生頻度、重症度が高まる。これが「創発的性質」をもたらす。つまり、病気を引き起こす性質が、各生物を組み合わせた効果の総和を上回るということだ。
コッホの原則が抱える問題
19世紀ドイツの生物学者、ロベルト・コッホが先駆的な研究を行う以前は、病気の原因は知られていなかった。1890年、コッホは科学者であるルイ・パスツールとジョン・スノウの研究を発展させ、病気の原因を証明するための標準化された指針として、原則を定めた。これは病気の因果関係を証明するためのものだ。
その内容は次のとおりである。
1. 対象となる病気のすべての症例で病原体が確認され、病理学的変化と病気の臨床経過を説明できる状況下に存在する。
2. 病原体は、偶然存在する非病原性の寄生体として、ほかの病気では確認されない。
3. 病原体を体内から完全に分離し、純粋培養で繰り返し増殖させた後、再び病気を引き起こすことができる。

その後、この原則はウイルスを含めるよう改訂され、無症状のまま感染している人、たとえば「腸チフスのメアリー」のような無症状保菌者の存在も考慮されるようになった。
1980年代には、原則が再び拡張され、単一の遺伝子が病気の原因となりうるという発見が取り入れられた。病理学者はその後、この発見を活用し、細菌細胞のDNAから遺伝子を取り除くと、細菌が病気を引き起こす能力を失うことを突き止めた。
細菌群集
しかし、前述のとおり、動物と植物の細菌性疾患は、単一の生物ではなく細菌群集によって引き起こされると認識される例が増えている。バングラデシュで実施された2014年の研究では、コレラ(細菌Vibrio choleraeが原因)に危険なほど重症化する人がいる一方で、症状が大幅に軽い人もいるのはなぜかを調べた。その結果、細菌種Ruminococcus obeumは、病気から回復した人の体内に非常に多く存在することが分かった。これは、この細菌が、V. choleraeに対して、「クオラムセンシング」と呼ばれる情報伝達システムを使って競争で優位に立てたためだ。
V. choleraeは、小さく拡散性のある分子を放出し、他の細菌と「会話」して、それらを高濃度でその場所に呼び寄せることで、ヒトの腸内で増殖する。しかし、R. obeumは、V. cholerae自身のシグナルを放出してその情報伝達を妨げる。それにより、V. choleraeが十分な量に達して毒素を放出し、病気を引き起こすのを防ぐ。つまり、ヒトの腸内細菌群集が、コレラにかかるか健康を保つかを左右しうる。
人間と同様、植物も複数の細菌種を宿している。植物と細菌は複雑な関係を築き、それは植物の健康にとって有益、中立的、または有害となりうる。植物は自らの周囲に生息する細菌を直接形づくることができる。土壌にホルモンを放出して定着を促し、生育を促進する種に有利な環境をつくるのだ。しかし、健康状態の悪い植物はそれを十分に行えず、その結果、常在微生物群集が変化し、病気の一因となることがある。
人間と植物に感染する日和見病原体であるPseudomonas aeruginosa PA14はその一例で、免疫系によって守られていた、あるいは常在細菌によって排除されていた宿主環境に定着し、そこに生存し続ける。このため、すでに弱った宿主でしか病気を引き起こさない中立的な細菌について、コッホの原則に基づいて病気の因果関係を証明するのは難しい。
以上を踏まえると、病気の中心的な要因として病原体群(パソバイオーム)を考慮し始める必要がある理由が明らかになる。ほかの細菌が存在するかどうかによって、各細菌が引き起こす病気の程度は異なり、その程度は尺度で測定できる。コッホの原著以来100年以上にわたる科学研究で蓄積された知見を考慮した、新たな原則が必要なのかもしれない。





