拡張現実(AR)などのテクノロジーは、先住民族の語りをより広く伝える力になります。
テクノロジーの活用は、文化とのつながりを育み、21世紀に必要なデジタルスキルを身につける機会をもたらします。
現在、90カ国で暮らす先住民族4億7,600万人が、デジタルの未来から取り残されています。
世界各地で、先住民族に発言の機会を与え、知恵や物語を共有できるよう支援し、デジタルの未来づくりに先住民族が参画できるようにする取り組みが進んでいます。多くの先住民族は、主流の経済・政治・法制度から疎外され、その世界観は現代社会で日常的に見過ごされています。しかし、そうである必要はありません。
オーストラリアでは、先住民族と非先住民族の子どもたちや教育者が、文字どおり目を開かれながら、先住民族の知ること、在り方、営みについて学んでいます。長老たちの物語に耳を傾けた後、子どもたちはコーディングを学び、3D作品を制作し、自分たちで拡張現実の体験をデザインしています。子どもたちはテクノロジーで遊び、実験し、仮想現実のヘッドセットを装着して、先住民族とその「カントリー」との深いつながりについて教わります。私たちにとってカントリーとは、故郷の風景であり、水路、人々、草木や動物のことです。
過去と未来を結びつけることは、子どもたちにとってわくわくする楽しいことですが、非常に重要な目的もあります。こうした関わりは、人類の8万年にわたる知識を守り、次世代に伝えるうえで欠かせません。また、デジタルスキルの格差を縮め、第4次産業革命がもたらす雇用機会に先住民族が備えるための、重要な第一歩でもあります。
この取り組みは、かつてないほど重要になっています。それは先住民族だけのためではありません
国連の推計によると、現在、世界90カ国に4億7,600万人を超える先住民族が暮らし、世界人口の6.2%を占めています。これらの人々には、独自の文化と、他者や環境との関わり方があります。しかし、歴史は構造的な不平等と不利益を残しました。テクノロジーやスキル教育の機会へのアクセス不足も重なり、多くの人々が将来のテクノロジー開発をめぐる議論から取り残されています。安全で公平なデジタルの未来を実現するには、先住民族がテクノロジーの開発に参画し、意思決定の場に加わることが不可欠です。
そして、今の先住民族の子どもたちがこれからの数十年を生き生きと歩むには、21世紀の世界経済を動かすデジタルツールの使い方を学ぶことが欠かせません。特に、基礎的なコーディングとコンピューターのスキルを学んだことで、多くの子どもたちが科学、テクノロジー、工学、数学分野の幅広い職業への道を見いだし、デジタル経済に参入するための重要な足がかりを得ています。
一方で、祖先から受け継いだ口承の伝統や文化は失われる危機にあります。だからこそ、テクノロジーの力を活用し、若者の手に委ねることは、この二つの課題に取り組む賢明な方法です。
この歩みは、オーストラリアの美しい国立公園でレンジャーとして働いていた頃に抱いたビジョンから始まりました。ダルグ語を話す諸民族に属するカブロガルの女性として、私は成長するなかで自分自身の文化遺産から切り離されていると感じる一方、つながりを取り戻すより良い方法があるはずだと確信していました。
文化的に重要な場所や物、芸術作品に端末をかざすと、長老たちがホログラムで現れ、その物語を語り、その場所や物の意味を説明してくれるとしたら、どうでしょうか。
実現が難しそうなアイデアに思えましたが、私は形にする決意をしていました。インターネット接続のない遠隔地でもシステムを動かすため、技術的な障壁を乗り越えるのは容易ではありませんでした。しかし、テクノロジー業界の主要な関係者から支援を受け、ついに実現できました。
現代のコンピューティング能力と、Microsoftの複合現実ヘッドセット「HoloLens」のようなスマートデバイスの創意工夫のおかげで、先住民族の世界の見方を真に反映するテクノロジーツールがそろいました。しかし、この資源をまだ活用できていない世界中の何億人もの先住民族に利用を促すには、さらに一歩進む必要があります。
これには投資の飛躍的な拡大が必要ですが、期待できる成果は計り知れません。一世代全体のデジタルスキル格差を縮め、非先住民族の人々に先住民族の知恵を伝える機会があります。世界中の企業にも、先住民族と協力して事業慣行を改善する機会があります。
環境に敏感な地域を守り、資源開発を抑制するよう求める世論は高まっています。消費者は、伝統的な土地の管理者、科学者、その他の関係者が連携することを求めています。先住民族の視点を取り入れ、地球との深いつながりや生き方、法、文化的慣行を考慮すれば、商業漁業や鉱物採掘などの商業活動に伴うリスクを低減できます。
気候変動が加速し、生物多様性への脅威が高まる時代に、先住民族の文化は環境保護について世界に多くのことを教えてくれます。この課題には、幅広い人々が取り組む必要があります。先住民族だけが祖先を持つわけではありません。どのような背景を持つ人も、自分たちが残す世界を子孫がどう見るか、真剣に考えるべきです。
• ミカエラ・ジェイドは、シュワブ財団の2022年ソーシャル・イノベーター・オブ・ザ・イヤーです。




