研究によると、海には記憶があり、急速に失われつつあります。
地球温暖化は、海洋の記憶を担う重要な表層を乱し、薄くしています。
この海洋の記憶の喪失は、海洋状況の予測を難しくするなど、いくつかの重大な影響をもたらす可能性があります。
海には記憶があるのでしょうか。あるとすれば、それを失うことはあるのでしょうか。
研究によると、この2つの問いへの答えはいずれも「はい」です。5月に発表された研究は、Science Advancesに掲載されました。海洋の記憶とは、時間の経過を通じて状態が持続することと定義され、気候危機によって減退しています。
「海洋の記憶を測る簡単な指標として、ある年から次の年にかけての海面水温の類似性を調べ、この現象を発見しました」と、論文の筆頭著者で、カリフォルニア州ペタルーマのファラロン研究所の研究者であるHui Shi氏はハワイ大学ニュースに語りました。「まるで海が記憶喪失になりつつあるかのようです。」
減退する海洋の記憶
大気中の天候は日ごとに大きく変化しますが、海洋ではそうではありません。波の下では水温が比較的一定に保たれる傾向があり、そのおかげで科学者は将来の海洋状況を予測できます。
この記憶を可能にしているのは、「混合層」と呼ばれる海洋の表層です。混合層が厚いほど海洋の記憶は強くなりますが、論文の著者らによると、地球温暖化によってこの層は「浅く」なり、より薄くなっています。
「厚いマットレスほどクッション性が高いのと同じように、海面の層が厚いほど、熱慣性が働くため記憶が保たれやすくなります」と、Li Cohen氏はCBSニュースで説明しました。「しかし、地球温暖化が進み、海水温が上昇すると、表層は薄くなります。薄くなったマットレスのように、支えとなる力、つまりこの場合は年ごとの『記憶』が弱まるのです。」
研究者らは、さまざまなモデルを用いて海洋の記憶が時間とともにどうなるかを調べ、2100年までに海洋の大部分で減退することを明らかにしました。一部の海域では、減退幅が100%に達する可能性があります。
論文の著者らは、この海洋の記憶の喪失がいくつかの重大な影響をもたらす可能性を指摘しました。まず、将来の海洋状況を予測することが難しくなるかもしれません。これは記憶そのものが減退するためであり、混合層が薄くなることで海面水温の変動がより無秩序になるためでもあります。
「海洋の記憶の減退とランダムな変動の増加は、システムに本質的な変化が起きていることを示唆しており、温暖化が進む中で予測に新たな課題をもたらします」と、論文の共著者で、ハワイ大学マノア校海洋地球科学技術学部の大気科学教授であるFei-Fei Jin氏は、ハワイ大学ニュースに語りました。
こうした変化によって予測が難しくなるものの一つが、論文の著者らによると、海洋熱波です。通常、海洋の記憶によって、予報担当者は海面水温の異常について数か月から1年の先行時間を得られますが、記憶が減退すれば、その余裕は縮まる可能性があります。また、海面水温は、熱波やモンスーンによる降水など、陸上の気象パターンの予測にも役立ちます。
論文の著者らは、「海洋の記憶の喪失によって生じる、これまで知られていなかった予測上の課題に対処することは、温暖化する世界で気温や水文の極端現象がより頻繁かつ強烈になる可能性に備えるうえで、極めて重要です」と記しています。
さらに、こうした変化は漁業やその他の海洋生物にも影響を及ぼす可能性があります。現在、資源量や持続可能な漁獲割当量は、海水温などの環境条件に基づいて推定されているため、記憶の減退に伴い管理戦略の変更が必要になるかもしれません。
しかし、海洋の記憶の喪失によって変化する可能性があるのは、漁業だけではありません。
「海洋の記憶の変化が生物に及ぼす影響には不確実な点が多いものの、生物個体群に重大な影響が生じる可能性は高い」と、論文の著者らは記しています。
ただし、種によって適応のしやすさには差があると、著者らは指摘しています。





