自然関連の事業リスクは、生態系サービスの変化を通じて顕在化する可能性があります。そのため、生態系サービスに関する情報は、自然の状態に関するデータとともに、リスクへのエクスポージャーがどこで高まりつつあるかを特定するうえで不可欠です。
自然の変化が事業運営、サプライチェーン、地域社会にどのように及ぶかを追跡しなければ、企業は自然関連リスクを低減する機会を逃すおそれがあります。
より良い意思決定には、自然システムがどこで事業の業績とレジリエンスを支えているのか、またどこで脆弱になりつつあるのかを理解することが欠かせません。
自然関連リスクの認識は広がっていますが、多くの組織は依然として、それが事業に実際にどこで影響するのか、ひいてはリスクへのエクスポージャーを低減するためにどこで対策を講じるのが最も効果的かを特定できずにいます。
その主な理由の一つは、リスクがしばしば、種の生息数、生態系の広がりや状態など、自然の状態を示す指標を中心に捉えられていることです。これらの指標は保全に不可欠であり、規制、許認可、社会的操業許可の面でも引き続き重要です。また、生態系サービスを理解し、モデル化するための重要なエビデンス基盤にもなります。
しかし、生態系の変化が事業運営の混乱、供給の不安定化、コスト上昇にどうつながるかを示すには、生態系サービスと受益者に関する情報も併せて必要です。

生態系サービスの経路が重要なのは、自然関連リスクが顕在化する一つの経路だからです。水の供給、土壌の安定、洪水防止、気候調整など、事業運営、サプライチェーン、地域社会を支える自然の機能を通じてリスクが顕在化します。そうしたサービスが弱まれば、混乱が生じます。

自然の状態を示す指標は重要ですが、維持に寄与する生態系サービスや、それらのサービスが支える事業活動と地域社会の価値に結び付けることで、意思決定に最も役立つものとなります。
そのため、サービスの提供状況や受益者の数、種類、所在地に関する情報も、事業リスクと機会を理解するうえで重要です。
こうした経路が見えなければ、企業は価値のある自然関連の取り組みに資金や労力を投じても、エクスポージャーを実質的に低減できないおそれがあります。
サービスを通じてリスクが波及する仕組み
生物多様性と生態系の状態は、生態系の生産性、レジリエンス、変化に適応する能力を支えています。しかし、事業の観点では、自然の状態を示す指標だけでは、リスクがどこで高まりつつあるかは分かりません。
自然システムの変化が、人々や経済が依存するサービスに影響すると、リスクが顕在化する可能性があります。植生被覆の減少は、水質と供給の安定性を損なうことがあります。土壌の劣化は生産性を低下させる可能性があります。沿岸湿地の喪失は、暴風雨による物理的被害を増大させるおそれがあります。
こうした経路を通じて生態系の変化が事業のエクスポージャーとなります。物理的リスクを直接もたらす場合もあれば、地域社会、ステークホルダー、社会的操業許可への影響を介して間接的にもたらす場合もあります。
だからこそ企業は、自然がどのような状態にあるかだけでなく、自然が何をもたらすのかを理解する必要があります。
企業が自然関連リスクを低減する機会を逃す理由
自然が重要であることは、多くの組織が認めるようになりました。しかし、自社にとって特に重要なのがどこなのかを把握している組織は、まだ多くありません。
リスクがどのように生じるかを明確に把握できなければ、企業は目に見える生態系の変化に注目する一方で、事業継続とレジリエンスに最も重要な自然のプロセスへの対応を怠るおそれがあります。その結果、投資配分を誤り、生態学的重要性が明らかな場所に投資しても、必ずしも事業のエクスポージャーが最大の場所に投資できないことがあります。
問題は、自然の状態に関する情報が役に立たないことでも、生物多様性のための取り組みが的外れであることでもありません。目的が異なれば、出発点も異なります。保全が目標なら、種、生息地、生態系の状態を、対策の優先順位付けの対象とするのが適切な場合があります。
事業リスクへのエクスポージャーの低減が目標なら、企業はどの生態系サービスが自社の事業運営、サプライチェーン、地域社会を支えているのか、また生態系の変化がそれらのサービスにどう影響するのかを理解する必要があります。
鉱業の例:リスクが上流域にある場合
問題: 水ストレスの高い流域にある鉱山では、水の利用可能性と水質の低下により、操業と地域社会の水リスクが高まっています。
洞察: 目に見える生態系への影響を軸に対応を考えると、例えば、影響が最も大きい場所で対象種を保護したり、生息地を回復させたりするなど、資産の敷地境界内に焦点を当てることがあります。規制、許認可、より広範な自然関連の移行リスクを管理するうえで、そうした対応が必要な場合もありますが、事業のエクスポージャーの主な要因には対処できないかもしれません。物理的リスクと移行リスクへのエクスポージャーをより包括的に低減することが目的なら、事業と下流域の地域社会が依存する水系を何が形作っているのかが重要な問いとなります。その答えは、敷地の外にある上流域の土地利用の変化、植生の喪失、侵食、流域の状態の悪化にあるかもしれません。
意思決定の変化: それによって対応も変わります。敷地内だけに注力するのではなく、企業は土地所有者、水利用者、地方自治体、その他のステークホルダーと協力して、流域の状態を改善し、協調的な管理を支え、長期的な水の安全保障を強化する必要があるかもしれません。意思決定の基準は、生態系への影響が最も大きい場所や、生物多様性の優先度が最も高い場所だけではなくなります。生態系の広がりと状態の変化が、事業と周辺地域社会を支えるサービスを混乱させる可能性が最も高い場所に基づくものとなります。
自然関連リスクの地理的な広がりとは?
自然関連リスクは、しばしば地理的に分離しています。
サービスの供給に影響する生態系の変化はある場所で生じても、その影響は別の場所に及ぶことがあります。水の調整機能は上流域の状態に左右されます。沿岸保護は、地域社会と海の間に位置する生態系に依存します。気候調整は、その恩恵が生じた場所をはるかに超えて及ぶ自然システムに依存します。
企業は自社の事業活動のフットプリント内にあるものを基準に自然を評価することが多いため、これは重要です。しかし、企業が依存するサービスは、より広い景観、共有資源、直接的な操業管理の及ぶ範囲を大きく超える主体によって形作られている場合があります。
そのため、効果的な対応には、先住民族、地域社会、サプライヤー、土地所有者、政府、金融機関、他の企業など、幅広い主体との協力が必要となることがよくあります。また、サービスの流れがどこで生じ、誰がそれに依存し、どこで混乱が顕在化しうるのかを特定するため、より優れた空間データと分析を優先する必要もあります。
生態系サービスのアプローチは、実務をどう変えるのか?
サービスに基づく自然リスクの捉え方は、企業が行動を起こすためのより明確な根拠となります。
この見方によって、リスク管理の方法、投資先、連携相手、優先する情報が変わります。敷地内での対策で十分な場合と、敷地外での取り組みがレジリエンスを左右する場合を見極める助けにもなります。何より、事業の中核戦略に反映されるべきものです。
サービスに基づくアプローチを採用しても、生物多様性の目標に取って代わるわけではなく、自然の状態、生態系サービスの利用可能性、事業リスクのつながりが否定されるわけでもありません。また、判断の必要性がなくなるわけでもありません。
生態系サービスの経路をたどることは、依然として複雑で状況に左右されます。企業が自然関連の依存関係、影響、リスク、機会を理解するには、より良いデータと分析能力も引き続き必要です。特に景観や地域社会をまたいでリスクが共有される場合、官民連携が不可欠となることがよくあります。
それでも、進むべき方向は明らかです。生態系の変化が社会・経済活動を支える自然の機能にどう影響し、どこでその機能が脆弱になりつつあるのかを理解すれば、企業は事業リスクの低減に向けてより良い意思決定を行えます。
自然は事業にとって重要です。今、組織が注視すべきなのは、生態系の状態の変化が、自社の事業運営、サプライチェーン、周辺地域社会を支えるサービスにどう影響しているかです。それを明らかにすれば、リスクへのエクスポージャーを最も効果的に低減するため、どこで行動すべきかが分かります。





