デジタルウォレットを持つゴリラが自然保護資金について教えてくれること

Nature conservation faces global biodiversity finance gap of up to $700 billion annually.
A project in Rwanda is tackling the biodiversity finance gap by giving gorillas digital wallets.Image: Jonathan Ledgard
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  • 自然保護は慢性的な資金不足に直面しており、世界の生物多様性に関する資金ギャップは年間最大7,000億ドルに上ります。

  • 成果連動型支払いなどの新たなモデルは、経済的インセンティブを自然保護の成果に結び付けることを目指しています。

  • ルワンダでの試験的取り組みは、デジタル技術によって、リアルタイムの自然保護活動を資金の流れに直接結び付けられることを示しています。

ルワンダの霧に包まれた8月の朝、火山国立公園で、マウンテンゴリラの群れの個体一頭一頭に、それぞれデジタルウォレットが割り当てられました。一見風変わりに聞こえるこの取り組みは、個々の動物にデジタルIDを付与し、その保護に結び付いた口座を設ける初期段階の試験事業の一環でした。

考え方はシンプルです。レンジャーや地域社会の人々がゴリラを守る行動を取ると、直接支払いを受けます。たとえば、レンジャーがわなを撤去すると、それをきっかけに支払いが発生します。つまりゴリラは、自然保護の受動的な受益者から、生存を支えるために設計された金融システムの能動的な参加者へと変わるのです。

この試みは、自然への資金供給のあり方に、より大きな変化が起きていることを示しています。生物多様性の損失が加速し、資金不足が続くなか、自然保護の成果に直接報いる仕組みの重要性は、今後ますます高まるでしょう。

世界の生態系が危機にさらされている

世界的な生物多様性危機は、生態学的な問題であると同時に、金融上の問題でもあります。生態系は食料システム、気候の安定、経済のレジリエンスを支えていますが、その保護に必要な資金は不足しています。推計によると、生物多様性の資金ギャップは年間最大7,000億ドルに上ります。

国連の「自然のための資金の現状2026」報告書によると、地政学的情勢が変化するなか、政府予算への圧力が強まり、政策の優先事項も変化しているため、このギャップの解消を公的資金だけに頼ることはできません。

多くの地域では、野生生物の生息地に最も近い人々が自然保護の負担を担っています。作物は被害を受け、家畜を失い、土地利用の選択肢も限られます。一方で、経済的な恩恵は不確実で、観光など変動の大きい収入源に左右されることも少なくありません。新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、世界の旅行が途絶え、自然保護の収入が急減したことで、こうした脆弱性が明らかになりました。

自然保護資金の新たな手法は成果を測定する

こうした状況を受け、自然保護資金の新たな手法が生まれています。炭素クレジットに類似した野生生物クレジットや成果連動型支払いなどの仕組みは、活動そのものではなく、測定可能な成果に報いることを目指しています。

しかし、検証という根強い課題があります。自然保護の成果をどのように確実に測定し、ほぼリアルタイムで資金につなげられるでしょうか。

デジタル技術の進歩が、このギャップを埋め始めています。デジタル金融システムにより、検証済みの成果を取引に直接結び付けることが可能になりました。

同時に、人工知能(AI)を活用した自動撮影カメラや、WildDroneのような取り組みも、自然保護データの収集と検証の方法を改善しています。WildDroneは南デンマーク大学が調整を担う研究ネットワークです。

こうした技術を組み合わせることで、自然保護の成果をほぼリアルタイムで検証し、それに直接報いることが可能になります。

ルワンダで新たな自然保護モデルを試す

2024年8月、この構想はルワンダで初期段階の概念実証試験事業として検討されました。事業を主導したのはTehanuで、ルワンダ政府や自然保護パートナーと連携して実施されました。

試験事業は、火山国立公園のマウンテンゴリラ、クウィトンダの群れを対象に実施されました。個体ごとに、生体認証に基づくデジタルIDが割り当てられました。特徴的な鼻紋を、動きに反応する73台のカメラ網で撮影し、数十年にわたるレンジャーの観察記録と組み合わせて個体を識別しました。

こうしたIDは、ルワンダ・フランがあらかじめチャージされたブロックチェーン基盤のウォレットと連携され、自然保護活動をきっかけに資金が動く仕組みの土台となりました。数百本の査読済み生態学研究を学習し、レンジャー、獣医師、地域社会への聞き取りを通じてさらに検証したカスタム言語モデルを使い、優先すべきニーズを推定しました。これには、わなの撤去、生息地の保護、獣医療へのアクセスなどの取り組みが含まれました。

レンジャーが、ゴリラの行動圏内にあるわなの撤去など、検証済みの行動を実施すると、その活動が記録され、審査されました。その後、人間の受託者が種に結び付いたウォレットからの支払いを承認し、ルワンダのMTNモバイルマネーシステムを通じて、ほぼリアルタイムで送金しました。

これにより、フィードバックの循環が生まれます。負傷のリスクを減らしたり、重要な生息地を保全したりするなど、ゴリラの安全と健康を直接改善する行動には、即座に報酬が支払われます。時間の経過とともに、インセンティブをより積極的で予防的な自然保護活動へと向けられます。

この試験事業は、目の前の用途にとどまらず、経済システムのなかで自然をどのように表現できるかを再考する動きを示しています。

自然に経済的な代表性を与える

この手法は、ジョナサン・レガードが提唱した、より広範な枠組みを反映しています。「種間通貨」と表現されることもあるこの概念は、人間以外の生物種を資金の受動的な受け手として扱うことを超え、デジタル上の代理手段を通じて経済的な代表性を与えるものです。

Tehanuがルワンダ財務省およびルワンダ開発庁と共同で行った最近の調査では、マウンテンゴリラ1頭の生息地内価値は約355万ドルと推計されています。

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ルワンダに生息する約440頭の総価値は、およそ15億5,000万ドルに相当し、同国の年間GDPの約10%に当たります。この数値は、美的価値、ヘッジ価値、インパクト価値、経済価値を反映しています。動物を商品化することが目的ではなく、市場経済のなかで動物を代表させる根拠とするためのものです。

この枠組みにおいて、デジタルウォレットは象徴的なものではなく、金融システムのなかで生態系の価値を可視化し、実際の行動につなげる広範な試みの一部です。自然保護活動によって測定可能な成果が生まれ、それを受けて種に結び付いた口座から支払いが行われます。そのため資金の流れは、トップダウンの手続きだけで配分されるのではなく、生態系の状況に応じて柔軟に対応できます。

新たな手法が自然保護資金のあり方を変える

こうした手法が拡大すれば、自然保護への資金供給のあり方を根本から変える可能性があります。

資金を現場で活動する人々により直接届け、寄付者や投資家に対する透明性を高め、自然保護の成果を測定可能かつ投資可能にすることで、新たな資金源の開拓にもつながるでしょう。また、成果連動型債券やブレンデッド・ファイナンスの仕組みなど、台頭しつつある金融手段を補完する可能性もあります。

しかし、大きな課題は残っています。複雑な生態学的・社会的状況において効果的なインセンティブ制度を設計するのは難しく、支払いの設計が不適切だと、意図しない結果を招くおそれがあります。重要なガバナンス上の問いにも答える必要があります。ある種に何が「必要」かを誰が決めるのでしょうか。その種に代わって機能するシステムを誰が管理するのでしょうか。地域社会の間で恩恵をどのように分配するのでしょうか。

野生生物クレジットを含む既存モデルは、依然として規模が限られています。いま問われているのは、こうした手法を試すことだけでなく、寄付者からの資金を超えて持続的な投資を呼び込める形で拡大することです。

自然への資金供給を変える新たなモデルの兆し

これらの動きは、重要な転換を示しています。自然保護は、主に外部資金に依存するモデルから、経済的インセンティブと測定可能な成果を基盤とするモデルへと移行しつつあります。

AIが金融システムに深く組み込まれるにつれ、こうしたシステムに人間の優先事項だけでなく、生態系の優先事項も反映させる機会が生まれています。これは、自然を受動的な受益者として扱うのではなく、資金配分を担うシステムのなかで自然を代表させるという、より根本的な変化を示しています。

ゴリラの群れにデジタルウォレットを持たせるのは、風変わりに思えるかもしれません。しかし、生物多様性の保護に必要な資金が依然として大きな障壁となっている世界では、自然に独自の財布を与えることが、その生存を確かなものにするうえで不可欠になる可能性があります。

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