高い信頼性を備えた管轄区域単位の炭素市場を拡大すれば、世界的な森林資金不足を解消するための重要な架け橋となり得る。
J-REDD+の枠組みに移行することで、厳格な地理的会計と環境・社会面のセーフガードを通じてリスクを効果的に管理できる。
自然を基盤とするクレジットを優先すれば、降雨の調整など重要な生態系サービスを守りながら、工学的ソリューションの拡大を可能にする。
11月にアマゾン地域の都市ベレンで開催された国連気候会議COP30をブラジルが主催したことで、熱帯林に望ましい注目が集まった。世界的な関心が寄せられる一方で、熱帯林は容認できない速度で失われ続けている。COP30では、あらためて森林資金不足に焦点が当たり、その解消に向けてあらゆる手段を活用すべき時だということが明確になった。炭素市場もその一つだ。気候と自然のための資金調達に炭素市場を使うリスクは、森林破壊と森林劣化が続くことで生じる壊滅的な結果に比べれば小さい。
炭素蓄積量が多く、一般に生物多様性に富む原生熱帯林、すなわち老齢林の喪失は、過去最多となる2024年の670万ヘクタールに達した。この喪失により、温室効果ガスが31億メトリックトン排出された。これはおおむね、欧州連合(EU)の化石燃料由来の排出量に相当する。壊滅的な山火事により、牧畜、食料・燃料・繊維のための農業生産、その他の経済活動を目的とした森林伐採によってすでに高止まりしていた森林破壊の速度は、ほぼ倍増した。熱帯林の破壊は、世界の森林が正味の炭素吸収源として機能する力を損ない続けている。森林は年間で正味76億メトリックトンのCO2を吸収している。森林は、私たちのレジリエンスを支える最大の手段の一つでありながら、十分に評価されていない多くの炭素以外の気候面の便益ももたらす。地域の気温を調整し、大陸全体にわたる降雨を生み出して分配することで、食料・水・エネルギーのシステムをより安定的で安全なものにする。
森林破壊に代わる経済的選択肢
パリ協定の目標を達成可能な範囲に保つには、2030年までに森林の喪失を食い止め、回復させる必要がある。科学者は、炭素を豊富に蓄える熱帯林の保全を、気候変動の排出削減に向けた最も費用対効果の高い、「後悔のない」選択肢の一つとみなしている。そうすることで、森林がもたらすその他すべての便益も維持できる。
しかし、これを実現するには、世界に残る熱帯林を管理する国や地域社会に、森林破壊に代わる実行可能な経済的選択肢が必要だ。それがなければ、保全や再生の取り組みは、より収益性の高い土地利用の選択肢に太刀打ちできない。
森林への主な脅威をもたらす経済的・政治的な誘因に対処するうえで、他の戦略も役立ってきたが、それだけでは不十分だ。高い信頼性を備えた管轄区域規模の森林炭素クレジット制度は、追加的な収入源となり、政府にしかできない取り組みを進める動機となる。それは、土地の権利を認め、土地利用を規制し、法を執行し、財政的な誘因を森林保全の目標に沿わせることだ。
自主的炭素市場や義務的炭素市場を通じて、ネットゼロ達成に向けた過程で削減されずに残る排出を補うため、国や企業に炭素クレジットを販売すれば、森林保全に経済的な報酬がもたらされる。同時に、他の発生源からの排出が社会にもたらすコストを、財務上の意思決定に反映させることができる。
リスクの管理
森林保全の資金調達手段として炭素市場を利用することには、リスクがあるのだろうか。もちろんある。あらゆる炭素クレジット制度に共通するリスクとして、買い手が自ら排出量を削減する代わりにクレジットを購入する可能性がある。この結果を防ぐため、義務的市場のルールと自主的市場の規範を確実に守らせる複数の「需要側」の取り組みが進んでいる。こうした規範を順守するクレジット購入予定者には、さらなる気候変動対策を思いとどまらせるのではなく、後押しすべきだ。
供給側では、個別プロジェクトから生み出される森林炭素クレジットについて、クレジットの過剰発行や炭素権をめぐる疑問から、精査の目が向けられている。こうしたリスクは現実にあるが、管理する方法は分かっている。その大きな方法の一つが、広域でクレジットを発行することだ。環境・社会面で強固なセーフガードを備えた政府主導の制度に基づく。このアプローチは管轄区域単位のREDD+(J-REDD+)と呼ばれ、UNFCCCの交渉を経てパリ協定に盛り込まれた。広域にわたる排出削減量と吸収量を算定し、プロジェクト規模の算定値を「調整」することで、クレジットの過剰発行のリスクを低減できる。政府主導の制度は、先住民や地域社会が参加条件や炭素市場収入から得る便益の分配について交渉できる仕組みを提供し得る。
さらに、広域でクレジットを発行すれば、「リーケージ」、すなわち森林破壊が隣接する地域に移るリスクと、「反転」、すなわち火災などの不測の事態により貯蔵された炭素が大気中に放出されるリスクを低減できる。J-REDD+制度では、最も脆弱な地域に火災予防の取り組みを集中させることができる。また、保護された森林が風下や下流の地域に大気中や土壌中の水分をもたらす波及効果による「正のリーケージ」も活用できる。大規模な火災でさえ、数百万ヘクタールに及ぶ地域全体の炭素蓄積を失わせる可能性は極めて低く、管轄区域内の別の場所での森林再生によって、少なくとも一部は相殺されると考えられる。これに加え、反転による損失は、保守的なバッファープールへの拠出によって補償される。
環境・社会面の完全性に関する最高水準
管轄区域規模の森林炭素クレジットは、環境・社会面の完全性に関する最高水準を満たせることを実証している。たとえば、新たなJ-REDD+の方法論は、世界初の国際的な義務的炭素市場である国際民間航空機関(ICAO)の国際航空のためのカーボン・オフセットおよび削減制度での使用が承認された。また、適格クレジットに「コア・カーボン原則」への適合を示すラベルを付与するため、ボランタリー炭素市場インテグリティ評議会から制度レベルの承認も受けており、これも品質を保証するものだ。さらに、管轄区域規模の方法論の一つには、生物多様性、炭素以外の気候面の便益、先住民や地域社会への追加的便益を認証する新たな任意基準が、まもなく加わる予定だ。
J-REDD+クレジット市場は、年間30億~60億ドルを熱帯林を有する国々にもたらす可能性があり、これは熱帯林永久基金(TFFF)がCOP30でブラジルにより立ち上げられたことに伴う、将来的な支払いを補完するものとなる。J-REDD+とTFFFを合わせれば、森林喪失を食い止めるための有意義な誘因となり得る。しかし、炭素市場は需要に左右される。市場に出るJ-REDD+クレジットを誰も購入しなければ、熱帯林を有する国々は、保全を支える経済の重要な柱を失う。
新たな考え方が必要な時
自然を基盤とする解決策に懐疑的な気候変動活動家は、リスクに対する認識を改める時だ。管理可能なリスクに対する懸念などを理由に、森林由来のクレジットを炭素市場から排除しようとする取り組みは、森林を含めないことのリスクを考慮していない。緩和策にはポートフォリオ型のアプローチが必要だ。森林を今守ることで、工学的ソリューションを拡大するための貴重な時間を確保できる。同時に、回復に何世紀もかかる熱帯林の炭素密度、生物多様性、生態系サービスも守ることができる。
炭素市場の収益は、山火事を消し止めるための文字どおりの消防ホースの購入に充てられるとともに、そもそも火災を発生させないための行動を促すこともできる。水を出す時だ。何しろ、世界は燃えている。それに応じた行動を取らなければならない。





