過去30年間に、米国の1人当たりGDPはほぼ倍増する一方、米国の製造業が排出する汚染物質は減少した。オゾン排出量は33%、二酸化窒素は60%、二酸化硫黄は81%、一酸化炭素は84%減少している。1 一部のアナリストは、この改善を、経済成長だけで環境が自動的に良くなる証拠として挙げる。たとえば、ジョン・ティアニーは『ニューヨーク・タイムズ』で、「誰もが豊かになれば、長期的には地球はより緑豊かになる」と書いた。一方、環境の改善は所得の成長から必ず生じるわけではなく、環境政策や制度に左右されると指摘する人々もいる(Yandleほか、2004年)。
豊かな国ほど汚染が少ないという主張では、Grossman and Krueger(1993年)の先駆的な論文がよく引用される。同論文は、多くの汚染物質について、貧しい国では国民所得の増加とともに増えるように見える一方、豊かな国では国民所得の増加とともに減ることを示した。この関係を、縦軸に汚染、横軸に所得をとってグラフにすると逆U字型になり、環境クズネッツ曲線(EKC)と呼ばれるようになった。しかし、EKCが示すのは相関にすぎない。少なくとも直接的には、所得の成長が環境改善を引き起こすことを証明するものではない。豊かな国で汚染が少ないのは、より厳しい環境規制を施行しているため、あるいは汚染集約型の財の製造を海外に移しているためかもしれない。いずれも、所得の成長が世界の汚染に直接的または自動的に及ぼす影響とはいえない。
国民所得と汚染の関係を分析するため、経済学者はこれを次の3つの要素に分解する。
経済全体の規模の拡大(規模効果)、
生産の汚染集約度の変化(技術効果)、および
経済活動全体の構成の変化(構成効果)。2
近年の複数の論文は、先進国の製造業における汚染削減の大半が、生産技術の変化によるものであることを示している。しかし、残る構成変化のうち相当な割合は、豊かな国の人々が、より汚染集約度の低い財・サービスの組み合わせを選ぶことによる。3 ここでは、豊かな人々が汚染の少ない財を選ぶのか、それとも豊かな国が規制を設けて汚染を伴う財をより高価にしているのか、という問いが残る。
Levinson and O’Brien(2015年)では、環境エンゲル曲線(EEC)、すなわち所得拡張経路を用いて、豊かな国の住民がよりクリーンな財を選ぶという構成変化の2つの側面を切り分ける。
豊かな人々の選好に由来する、直接的でおそらく自動的な部分、および
豊かな国における経済全体の変化に起因する間接的な部分。
EKCとは異なり、EECは因果関係を示すことを意図している。他の条件を一定に保ったときの、人々の所得と、彼らが選ぶ財・サービスとの構造的な関係を表す。4
図1は、代表的な地域大気汚染物質の一つである10マイクロメートル未満の粒子状物質(PM10)について推定したEECを示す。まず、消費支出調査(CEX)の家計消費分類を、1997年の貿易・環境評価モデル(TEAM)における排出集約度と対応付ける。5 次に、CEXの各世帯について、その世帯が消費する財・サービスの生産過程で排出されたPM10の総量を算出する。6 さらに、CEXの世帯を所得別に50のグループに分け、各グループの財・サービスの生産に伴う汚染の平均水準を図示する。図1の上側の曲線は1984年のCEXを用い、下側の曲線は、同じ50の世帯所得グループと生産排出集約度を2002年のCEXに適用している。
図1.粒子状物質の環境エンゲル曲線、1984年と2002年

注:所得と消費は、総合CPIを用いてインフレ調整している。食料とエネルギーの消費は、それぞれ対応するCPIを用いて別々に調整している。両年の世帯当たり汚染量は、1997年の生産汚染集約度データを用いて推定している。
出典:全米経済研究所(NBER)による消費支出調査のデータ抽出(www.nber.org/data/ces_cbo.html)および貿易・環境評価モデル(Abt. Associates, Inc.)に基づく計算。
図1からは、3つの現象が見て取れる。
第一に、当然ながら、所得の高い世帯ほど多くの汚染を引き起こす。
第二に、EECは下に凸ではなく上に凸の形状を示す。つまり、所得の高い世帯ほど、より汚染集約度の低い財・サービスの組み合わせを消費する。
第三に、図1のEECは時間の経過とともに下方へ移動している。2002年の世帯は、実質所得が同程度の1984年の世帯よりも、汚染の原因となる量が少ない。この下方移動は、両年の生産汚染集約度を固定しているため、技術の改善や汚染削減によるものではない。むしろ、価格、規制、その他の経済全体に及ぶ影響の組み合わせによって消費が変化したことを反映している。
図1のようなEECを用いると、所得成長が家計消費の汚染集約度に及ぼす影響を、次の2つに切り分けることができる。
豊かな人々の選好による自動的な部分、および
豊かな国の価格や規制による間接的な部分。
下に凸ではなく上に凸のEECに沿った移動は、他の条件を一定に保った場合に、豊かな世帯が生来持つ、より汚染集約度の低い財・サービスの組み合わせへの選好による汚染の変化を表す。EECが時間の経過とともに下方へ移動することは、価格や規制など、社会全体に及ぶその他の変化を表す。私たちの推定によると、これら2つの効果はそれぞれ、より汚染集約度の低い財・サービスへの消費の移行による米国の汚染削減のおよそ半分を説明する。消費の移行に関連する変化の半分は上に凸のEECに沿った移動によるもので、残り半分はEEC自体の時間の経過に伴う下方移動による。
したがって、所得成長が汚染に直接的かつ自動的に及ぼす効果を示す証拠はあるものの、その効果が占めるのは家計消費の構成変化の半分にすぎない。また、所得成長をEECに沿った移動とEEC自体の移動に分解する方法は、経済成長が環境にもたらす影響の一側面にすぎない。米国における汚染削減の最大の部分は、生産技術の変化によるものだった。それでも、汚染における消費関連の構成変化を切り分けると、家計レベルの構成変化が、家計所得の増加による汚染の増加を上回って相殺してきたことが示唆される。その要因はおおむね同じ割合で、消費者の選好を介した所得成長の直接的な効果と、価格や環境規制など経済全体に及ぶ間接的な変化である。
本記事は、 VoxEUとの協力のもとで公開されています。記事の公開は、世界経済フォーラムによる見解の支持を意味するものではありません。
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著者:Arik Levinsonはジョージタウン大学経済学部の教授。James O’Brienはゲティスバーグ・カレッジ経済学部の助教。
画像:政府の衛生作業員がマニラ湾で、主にさまざまなプラスチック製品からなるごみを回収し、分別している。REUTERS/Romeo Ranoco

