天然資源に対する世界的な需要は増加し続けています。陸上の資源が減少するなか、企業や政府の関心は、これまで手の届かなかった地球上の領域、すなわち海底へとますます向かっています。「新たな資源フロンティア」と称される深海底には、海底の尾根や海山、堆積物の中に隠れた、さまざまな価値ある鉱物や金属があり、水深5,000メートルにまで及びます。
現在、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき、海底資源の開発を希望する国または深海採掘企業は、国際海底機構(ISA)から探査契約を取得する必要があります。こうした契約の申請件数は劇的に増加しています。5年前、国際水域でのプロジェクトはわずか6件でしたが、2014年末までには26件になると見込まれています。
過去3年間の関心の大半は民間部門から寄せられています。では、何が狙いなのでしょうか。世界の海底埋蔵量には、マンガン団塊が100億トン含まれると推定されています。最も有望な鉱床の平均的な組成は、マンガン約30%、ニッケル1.5%、銅1.5%、コバルト0.3%です。つまり、海底には膨大な量の有用な鉱物が存在し、これらの鉱床には少量の希土類元素も含まれています。その多くは、電子機器や風力タービン、ハイブリッド車などの「クリーンテクノロジー」の製造に使われています。これらの元素は採掘工程で技術的には副産物に当たりますが、新たな商業的関心を大きく後押ししています。日本の地質学者は、海底の2.3 km2の区域だけで、世界の需要を1年間満たすのに十分な希土類資源が含まれている可能性があると推定しています。
遠隔地へのアクセスを可能にする技術の進歩も、近年の関心の高まりを促しています。たとえば、遠隔操作無人探査機(ROV)は海底から試料を採取でき、それらは分析のために海面へ戻されます。鉱石は専用設計の採取装置で掘り出され、油圧吸引によって、長いホース状の管を通じて待機中の船舶やプラットフォームへ移送されます。対象資源をろ過して取り出した後、余分な海水や堆積物は海底へ戻されます。
深海採掘への商業的関心の高まりに伴い、環境破壊や海洋生物の潜在的な破壊、生物多様性への影響に対する深刻な懸念も強まっています。グリーンピースは、採掘によって海洋生物が金属や酸性物質にさらされ、有毒粒子が水中の食物連鎖に入り込むと指摘しています。深海トロール漁ではすでに、海底地形の破壊が魚類に大きな打撃を与えることが示されており、特にメヌケやオレンジラフィーのような繁殖の遅い種が影響を受けます。水生生態系への影響に加え、こうした問題は沿岸地域社会の生計や福祉にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。
ISAは管轄する海域の探査を規制する規則を設けていますが、目標は国際水域における海底資源の産業的採掘のあらゆる側面を網羅する法制度を整備することです。ISAの関係者との協議が行われており、現在の目標は、開発に向けた財務・税制の枠組みを2016年までに整えることです。
各国の領海における一貫したガバナンスの枠組みを作ることは、さらに困難です。各国は自国の大陸棚にある資源に対する主権的権利を有しており、経済的利益が見込まれることから、新興経済国の中には、この新産業を大きな機会と捉える国もあります。たとえばパプアニューギニア政府は、自国の領海での海底採掘を認める合意に達しており、このプロジェクトが多額の収入をもたらすと期待しています。
産業が特に注目する主要地域の一つは太平洋諸島です。ガバナンスの課題に対処するため、強力な地域組織である太平洋共同体は、各国が規制の枠組みを整えるのを支援しています。しかし他の地域ではガバナンスが欠如しており、各国の領海における深海採掘について、世界共通の基準はありません。
こうした貴重な資源を最大限に活用し、海底の繊細で多様な生態系を守るには、深海採掘産業のための適切なガバナンスとベストプラクティスを今すぐ確立しなければなりません。
これは、 『2015年版 世界の課題展望』レポートからの抜粋で、現在公開中です。
著者:マイケル・ロッジは国際海底機構の事務次長です。
画像:2013年8月19日、ガラパゴス海洋保護区のウルフ島付近を泳ぐシュモクザメ。撮影日:2013年8月19日。REUTERS/Jorge Silva


