パーム油業界は森林破壊の削減で一定の進展を遂げていますが、世界の森林破壊の約10%を引き起こし続けています。
森林破壊への対処、持続可能な土地管理、メタンの回収、再生可能エネルギーの導入、炭素除去という5つの行動分野が、ネットゼロに向けた進展を加速させる可能性があります。
この転換を実現するには、サプライチェーン全体に加え、政府、市民社会、消費者との協力が不可欠です。
食料システムは、温室効果ガス排出量の約3分の1を占めており、気候変動の進行を抑える世界的な取り組みにおいて、重要な焦点となっています。
世界で最も広く使われている植物油であるパーム油は、こうした取り組みにおいて重要な役割を果たす可能性があります。生産方法の改善によって、排出量を大幅に削減できる可能性があるためです。パーム油生産は森林破壊との関係から厳しい批判を受けてきましたが、近年の動向は進展があったことを示しています。
商品取引の透明性向上を目指す取り組みであるTraseによると、インドネシアではパーム油関連の森林破壊が、ほぼ10年にわたり生産量が増加する中でも減少しています。マレーシアでも同様の傾向が見られます。この2か国は、世界のパーム油の約85%を生産しています。
国連気候変動枠組条約は、農業生産と森林減少を切り離す重要性を強調し、森林破壊の終結が、2050年までに世界全体でネットゼロ排出を達成するうえで極めて重要になると述べています。
インドネシアとマレーシアが主導する政府間機関、パーム油生産国評議会は、業界がネットゼロ達成に向けて順調に進んでいると主張しています。業界の専門家の中には、この目標を国連の目標より10年早い2040年までに達成できると考える人もいます。しかし、パーム油の生産者、企業、各国に必要な行動を検討し、この課題に取り組むという約束が確実に果たされるかを見極めることが不可欠です。
ネットゼロとは何か、企業にとってどのような意味があるのでしょうか。
2015年に採択されたパリ協定は、世界の気温上昇を産業革命前の水準から2℃を十分に下回る範囲に抑えるとともに、上昇を1.5℃に抑えるための「努力を追求する」ことを目指しています。2018年、国連の気候科学機関であるIPCCは、1.5℃目標の達成に向け、さまざまな分野で迅速な移行が必要だと強調する特別報告書を発表しました。そこには、世界のCO2純排出量を2030年までに(2010年比で)45%削減し、2050年までにネットゼロ排出を達成することが含まれます。
IPCCの定義によると、「ネットゼロ」排出とは、一定期間における人為的な温室効果ガス排出量と除去量の均衡を指します。

ビジネス界では、民間部門が科学的根拠に基づく排出削減目標を設定できるよう、2015年にScience Based Targets initiative(SBTi)が設立されました。同イニシアチブは、企業の気候目標が1.5℃または2℃の経路に沿っているか、ネットゼロのコミットメント年が適切かを検証し、気候変動対策の堅牢性、信頼性、説明責任を確保します。
批判する人々は、企業が排出削減よりも炭素除去やオフセットに重点を置くと、「ネットゼロ」目標が誤用される可能性があると指摘します。この問題に対処するには、SBTiのような枠組みが企業にとって重要です。期限を定めた目標を設定し、透明性のある報告とモニタリングを通じて進捗を示すことができます。特に、SBTiはカーボンオフセットを排出削減として認めず、オフセットと除去を分けて報告するよう求めています。
パーム油業界にはどのような気候目標があるのでしょうか。
持続可能性の課題への対応を求める圧力を受け、認証を受けた持続可能なパーム油の生産・普及や、サプライチェーンからの森林破壊と搾取の排除に向けた取り組みが進んできました。業界では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックとウクライナ戦争の影響への対応が大きな焦点となってきましたが、気候変動と排出量、特に森林破壊や泥炭地利用に関連する排出への対処も、引き続き重要性を増しています。
パーム油業界は、ネットゼロ目標の設定に向けてSBTiとの協働を始めるのが比較的遅れていましたが、マレーシア企業のSime DarbyやIOI Corporation、シンガポールに拠点を置くWilmar Internationalなど、一部の大手パーム油生産者は気候変動対策を約束しています。目標はまだSBTiの認証を受けていませんが、多くのパーム油生産者は、温室効果ガス排出データの開示を求める持続可能性の枠組みに取り組んできた経験があります。

業界を代表する持続可能性基準である持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)の認証では、排出量の報告が要件となっています。RSPOの排出量計算ツールPalmGHGは、土地利用、管理慣行、エネルギー消費に関連する排出量の評価に10年以上使われてきました。
パーム油サプライチェーンの川下に位置する消費財メーカーには、Unilever、Nestlé、Marsなどがあり、すでに科学的根拠に基づくネットゼロ目標と排出削減目標を採用しています。こうした企業の多くは、気候目標の達成に森林破壊と土地利用由来の排出の排除が重要だと認識しています。例えばNestléは、パーム油やその他の主要な商品について、2022年末までに森林破壊ゼロを達成すると約束しました。同社は現在、パーム油について95.6%を森林破壊ゼロとしており、残りの数パーセントを達成するのは、小規模農家への働きかけが難しいため最も困難だと説明しています。こうした目標の実現にパーム油生産者の協力とコミットメントが不可欠なのは、まさにこのためです。
パーム油業界では、排出量をどのように算定しているのでしょうか。
温室効果ガスプロトコルは、排出量の算定に広く使われています。世界資源研究所と持続可能な開発のための世界経済人会議が策定したこのプロトコルは、企業が排出量インベントリを作成するのに役立ちます。また、SBTiによる目標認定を求める企業にとっても遵守が要件となっています。同プロトコルは、企業の排出量を3つのスコープに分類します。
スコープ1は、ボイラーでの燃焼や車両の排出など、企業が所有・管理する発生源からの直接排出を指します。スコープ2は、企業が消費する購入エネルギーに由来する間接排出です。スコープ3には、購入した原材料の採掘・生産、輸送、販売した製品やサービスの使用など、バリューチェーン全体のその他の間接排出が含まれます。
SBTiでは、企業のスコープ3排出量が総排出量の40%未満の場合、スコープ1と2の排出量のみを報告すればよいとされています。しかし、ほとんどの業界の大半の企業では、スコープ3がカーボンフットプリントの70%超を占めます。


上流(農園と工場)と下流(精製とオレオケミカル生産)の両方で操業するパーム油企業は、サプライチェーンにおいて「垂直統合型」とみなされます。こうした企業のスコープ1と2の温室効果ガス排出量報告は、上流と下流の部門に分けられることがよくあります。しかし、サプライチェーンの複雑さとパーム油部門におけるトレーサビリティの欠如により、スコープ3排出量の算定と報告は困難です。
スコープ3排出量への対応には、サプライチェーンの集中的なリスク管理、サプライヤーやその他の関係者との連携、働きかけが必要です。SBTiは一般に、スコープ3排出量が企業の総排出量の40%以上を占める場合にのみ目標設定を求めていますが、データ収集の難しさから、パーム油業界ではスコープ3排出量が温室効果ガスインベントリから除外されることがよくあります。


独立系の工場や仲買業者、数百万人の小規模農家が関わるため、業界はトレーサビリティに関する大きな課題に直面しています。現在、温室効果ガスインベントリでスコープ3排出量を公表しているパーム油生産者は一社もいませんが、把握に着手した企業はあります。
RSPO加盟企業は、PalmGHG計算ツールを使って、土地利用変化、泥炭地管理、肥料、パーム油工場の排水などに関連する排出量を追跡できます。また、事業地内で保全された森林やアブラヤシ自体に吸収された炭素の計算も含まれています。排出された炭素から吸収された炭素を差し引き、温室効果ガスの純排出量を算定します。
こうした取り組みは効果を上げているようです。RSPO認証パーム油は、加工油1kg当たりの排出量が、非認証パーム油より約35%少ないことが分かっています。この差は、泥炭地の利用(RSPO加盟企業は泥炭地への植栽が少ない)、作物の収量(加盟企業の収量は一般に高い)、パーム油工場排水の処理(メタン回収技術で先行している)などの要因によるものです。

SBTiの森林・土地・農業(FLAG)イニシアチブと、温室効果ガスプロトコルが今後発表する土地部門と温室効果ガス除去に関するガイダンスは、土地集約型の部門が排出、炭素除去、貯留を算定するための追加的な枠組みとなります。これらの取り組みはRSPOの排出量計算ツールを補完し、企業が純排出量を推定し、科学的根拠に基づく目標を設定して、ネットゼロに向けて取り組むのに役立つと期待されています。
パーム油の排出量はどのように削減できるのでしょうか。
業界の排出量削減には、いくつかの戦略が役立ちます。第一に、熱帯泥炭地での農園開発を防ぎ、森林破壊を行わないという約束を守ることです。泥炭地管理システムを導入すれば、既存の泥炭地農園で火災や追加的な排出を防ぐこともできます。アブラヤシ農園事業地内にある原生林と二次林(主に自然の過程で再生している森林)を保全することも重要です。これらの森林は農園より多くの炭素を蓄えています。

パーム油工場の排水への対処も重要な分野です。嫌気性消化で処理すれば、メタンを回収して利用すると同時に、バイオガスの生成による経済的な利益も得られます。この方法は農園企業の間で普及しつつあり、排出量の削減とエネルギーの創出に役立っています。
排出量の緩和には、肥料の使用管理も欠かせません。温室効果の特に強いガスである亜酸化窒素を排出する化学肥料は、慎重に管理する必要があります。ヤシの葉や空の果房などの有機残渣は、炭素負荷の低い代替物として利用できます。

太陽光発電やバイオマス廃棄物などの再生可能エネルギーを生産工程に導入すれば、上流と下流の両方の操業において、エネルギー消費に由来する排出量を削減できます。工場や精製所のエネルギー効率と生産効率を高めれば、生産単位当たりの排出量をさらに削減できます。
パーム油生産者は大気中から炭素をどのように除去できるのでしょうか。
植物は光合成によって大気中のCO2を取り込み、葉、茎、根などの組織に蓄えます。この炭素は、植物の根や植物体を通じて土壌に移ることもあります。パリ協定の目標を達成し、ネットゼロ排出を実現するには、大気中の炭素を大幅に除去する必要があります。そのため、森林再生、森林管理の改善、アグロフォレストリー、土壌の再生などの自然を活用した解決策が不可欠です。
一方、他の場所での炭素除去に対価を支払うカーボンオフセットは、排出削減の取り組みを損ないかねず、透明性にも欠けるとして批判を受けています。取り組みの信頼性を確保するうえで、SBTiのような枠組みが重要となります。グリーンウォッシュや不適切な会計を防ぐため、炭素除去とオフセットについて明確で透明性のある情報開示の必要性を強調しているためです。
パーム油業界では、大気中の炭素除去は主にアブラヤシの生育と事業地内の森林保全によって算定されます。RSPOのPalmGHG計算ツールは、純排出量の算定時にこれらの要因を考慮します。
温室効果ガスプロトコルとSBTiのもとでは、炭素除去の算定はより複雑になり、排出量と除去量を別々に報告する必要があります。また、購入したオフセットを通じた除去ではなく、企業が所有または運営する土地での除去が重視されます。同プロトコルが今後発表するガイダンスは、土地部門における炭素除去の算定をさらに明確にし、業界がネットゼロに向けて進展する機会をもたらすでしょう。
パーム油の間接排出についてはどうでしょうか。
スコープ3排出量には、原材料の生産、物流、流通、製造、小売、製品の使用からライフサイクル終了まで、サプライチェーン全体の間接排出が含まれます。スコープ3の削減には、サプライチェーン内のさまざまな企業の協力が必要です。排出量算定には大きな課題がありますが、協力の機会にもなります。独立系の工場、仲買業者、小規模農家などのサプライヤーとの連携が鍵となります。しかし、トレーサビリティがなければ、持続可能性方針の遵守を確保することは難しく、まして排出量の測定や削減策の実施は困難です。進展には、協力、投資の呼びかけ、関係構築、優先調達や公正な価格などのインセンティブが不可欠です。

スコープ3の解決策となりうる分野の一つが、再生型農業です。パーム油部門ではまだ比較的新しい取り組みですが、間作やカバークロップ、マルチング、バイオ炭の施用などの慣行によって、土壌の健全性と生物多様性を高め、土壌に炭素を固定できます。こうした方法は、排出量の多い化学肥料への依存を減らし、収量を改善する可能性があります。
大規模な商業農園に再生型農業を導入するのは難しいかもしれませんが、世界のパーム油業界には推定700万人の小規模農家がおり、そこには大きな可能性があります。こうした小規模農家は収入源を多様化でき、肥料使用の削減による節約に加え、炭素市場から収入を得られる可能性もあります。
マレーシアの社会的企業Wild Asiaのエグゼクティブディレクター、Reza Azmi博士は、再生型農業の拡大、アブラヤシがもたらす気候と生物多様性の便益の最大化、投資とインセンティブを通じたトレーサビリティの向上には、商業事業者と小規模農家の協力が重要だと強調しています。また、業界とそのサプライチェーンには、小規模農家が持続可能な農法を採用できるよう支援する大きな機会があると述べています。
ネットゼロの達成
ネットゼロのパーム油を実現する道のりには、特に5つの行動分野における懸命な取り組みと協力が必要です。
第一に、森林破壊ゼロです。森林保護への支援や劣化した土地の再生を含め、森林破壊を行わないという約束と方針を守ることを意味します。
第二に、責任ある計画、アグロフォレストリー、肥料使用の削減など、持続可能な土地管理の慣行を導入することです。
第三に、パーム油工場の排水からメタンを回収し、利用することです。
第四に、バイオマス廃棄物や太陽光発電を含む再生可能エネルギーを導入することです。
第五に、自然を活用した解決策や保全のために確保した区域を通じて、炭素を除去することです。
パーム油業界は、すでに森林破壊を減らす取り組みを示してきました。しかし、ネットゼロ目標を達成するには、サプライチェーン全体に加え、政府、市民社会、消費者との協力を築く必要があります。特に、独立系の工場、仲買業者、小規模農家を含むサプライヤーとの綿密な連携が欠かせません。これは、スコープ3排出量への対処と削減の鍵となります。





