国連の「氷河保全国際年」である2025年は、気候変動が山岳地帯の積雪や氷河の氷に及ぼす影響に注目が集まる年となります。
山岳地帯や氷河は、地域社会だけでなく、世界で取引される食料の供給にとっても重要な水源です。
より正確な水資源損失データの整備とともに、市場・政策面の重要な解決策が、こうした資源の保全に役立つ可能性があります。
しばしば第三極と呼ばれるヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域には、世界最大級の山脈が連なり、気候変動による大きな課題に直面しています。この山々で雪や氷が失われることで、農業や水力発電、日々の生活用水をこの水資源に頼る約10億人が直接影響を受けています。また、世界で取引される食料供給にとっても懸念材料です。私たちの多くは、知らないうちにヒマラヤの雪解け水で育った小麦、トウモロコシ、米、豆類、サトウキビを日常的に口にしています。
気候が温暖化すると、氷河や積雪から季節ごとに得られる融雪水が減少します。これまで融雪水は地域社会や農地を支えてきました。とりわけ干ばつの年には、水の安全保障に深刻なリスクが生じます。水をめぐる競争の激化や、強制移住、さらには水をめぐる対立当事者間の紛争につながるおそれもあります。
山岳地帯の積雪と氷河の氷が重要な理由
山岳地帯は世界の陸地面積の25%超を占めています。一般に低地より降水量が多く、重要な淡水源となっています。山岳氷河や積雪は自然の貯水池として機能し、冬に水を蓄えて、春から夏にかけて放出します。この季節的な水流の遅れにより、下流域で需要が最も高まる時期に水を供給できます。
氷河は積雪より水量は少ないものの、より安定した信頼性の高い水源となり、降水量の多い時期と少ない時期の極端な変動を和らげます。ほかの水源が枯渇する干ばつの年には、特に重要な役割を果たします。
積雪や氷河を有する流域では、それらが失われると春の河川流量が減少し、特に干ばつの夏の盛りには、水不足が最も深刻な時期の流量が低下します。アジアの主要なガンジス川、インダス川、ブラマプトラ川、アムダリヤ川、シルダリヤ川、メコン川、黄河、長江、イラワジ川の各流域は、いずれも水の供給を第三極の雪や氷に依存しています。
気候変動が第三極の水資源に及ぼす影響
第三極のすぐ下流に暮らす多くの人口集団は、山岳地帯からの水供給に大きく依存しています。例えばパキスタンでは、水力発電が電力の3分の1を占め、タジキスタンでは3分の2、ネパールでは90%を占めます。世界最大の灌漑農業システムに水を供給するインダス川は、2025年までにパキスタン、インド、アフガニスタン、中国で3億1,900万人を養うと予測されています。
人口と所得の増加に伴って水需要が高まり、こうした人々は水不足に対してさらに脆弱になっています。過去1世紀にわたり、この地域で最も甚大な被害をもたらしてきた自然災害は干ばつで、600万人以上が死亡し、11億人が影響を受けました。
アジアの水供給が、世界でも特に過小評価されている生態系サービスの一つであることも、水不足に対する脆弱性をさらに深刻化させています。氷河の融雪水が失われると、干ばつの年に水不足がピークを迎える時期の深刻さが増し、紛争や強制移住のリスクが高まります。
氷河融解の課題にどう取り組むか
こうした課題に対処するには、市場や政策を通じて、水のより良い利用とレジリエンスの強化を促すことが不可欠です。水料金と補助金を見直し、水取引を促進し、節水技術に投資することで、水の効率的な利用を促せます。例えば、マイクロ灌漑や干ばつに強い作物に切り替えれば、農業用水の使用量を大幅に削減できます。特にデータセンターをはじめとする多くの産業は、効率化策に投資し、水の安定確保が可能な地域に立地することで、水への依存を減らせるでしょう。
政府や開発機関は、水インフラとその管理への投資を促す安定した規制環境を整えることで、こうした取り組みを支援できます。例えば、革新的な保険商品であるパラメトリック型マイクロ保険は、干ばつによる不作に直面する小規模農家にとって、強力なレジリエンス強化策となります。こうした保険がなければ、農家は移住を余儀なくされる可能性があります。
より正確で網羅的なデータも必要です。水資源の予測は複雑で不確実性が高く、標高の高い山岳地帯ではほとんど観測が行われていません。この不確実性は、プロジェクトの計画担当者にとって大きなコストとなります。効果的な管理には、気象、氷河、河川流量に関する正確で網羅的なデータが欠かせません。
降雪量、氷河の体積、河川流量の測定における近年の進歩は、政策立案者、投資家、地域社会が十分な情報に基づいて意思決定するために必要な情報をもたらす可能性があります。例えば、湖水の圧力を使って降雪量を測定する新たな手法により、気象モデルの精度向上に不可欠な、偏りのない広域観測が可能になります。同様に、ヘリコプター搭載型レーダーシステムを使えば、広範囲にわたって氷河の厚さを地図化でき、氷河の後退や水の利用可能量の予測に不可欠なデータが得られます。
こうした解決策を支えるために、私たちにできることは次のとおりです。
水の真のコストを反映し、効率的な利用を促すために、水料金と補助金を見直す
農業や産業における節水技術と実践を促進する
干ばつによる不作から小規模農家を守る革新的な保険商品の普及を支援する
気象、氷河、河川流量に関する正確で網羅的なデータ収集に投資する
水インフラとその管理への投資を促す安定した規制環境を整える。
こうした措置を講じることで、気候変動に伴うリスクをより適切に管理し、第三極と、そこに依存する数億人の人々に持続可能な水の未来を確保できます。
国連が定めた「氷河保全国際年」である2025年、そして2025~2034年の「雪氷圏科学のための行動の10年」を迎える今、将来の世代のために、こうした重要な資源を守る断固たる行動を起こすことがこれまで以上に重要です。





