チリ北部にあるアタカマ砂漠は、太平洋とアンデス山脈に挟まれた、地球上で最も乾燥した場所です(極地を除く)。
それでも、草や一年生植物、多年生の低木など、数十種の植物がそこで育っています。
研究により、植物の生存に関わる遺伝子の特定が進んでいます。
気候変動が深刻化するなか、この知見は作物の耐性向上に応用できる可能性があります。
研究者らは、地球上で最も過酷な環境の一つであるチリのアタカマ砂漠で、植物の生存に関わる遺伝子を特定しました。
研究成果は、米国科学アカデミー紀要に掲載され、ますます乾燥が進む気候のなかでも生育できる、耐性の高い作物の育種に役立つ可能性があります。
「気候変動が加速する時代に、乾燥し栄養分の乏しい環境下で作物の生産性と耐性を高めるため、遺伝的基盤を解明することが極めて重要です」と、ロドリゴ・グティエレスとともに本研究を主導した、ニューヨーク大学生物学部およびゲノミクス・システム生物学センターの教授、グロリア・コルッツィ氏は述べています。
「アタカマ砂漠の植物を対象とした私たちの研究は、ますます乾燥化する世界各地の地域に直接関係しています。干ばつ、極端な気温、水や土壌中の塩分などが、世界の食料生産に重大な脅威をもたらしています」と、チリ・カトリカ大学分子遺伝学・微生物学部の教授、グティエレス氏は述べています。
地球上で最も乾燥した場所
チリ北部にあるアタカマ砂漠は、太平洋とアンデス山脈に挟まれた、地球上で最も乾燥した場所です(極地を除く)。それでも、草や一年生植物、多年生の低木など、数十種の植物がそこで育っています。水が限られているうえ、アタカマの植物は高標高、土壌中の栄養分の乏しさ、日光による極めて強い放射線にも対処しなければなりません。
チリの研究チームは10年以上にわたり、アタカマ砂漠に比類のない「自然の実験室」を設け、タラブレ=レヒア・トランセクト沿いの異なる植生域と標高(標高100メートルごと)にある22地点で、気候、土壌、植物を採取し、特徴を明らかにしました。さまざまな要因を測定した結果、昼夜で50度を超えて変動する気温、極めて高い放射線量、砂が大半を占め栄養分に乏しい土壌、そして降雨の少なさが記録されました。年間降雨の大半は数日間に集中していました。
チリの研究者らは、液体窒素で保存した植物と土壌のサンプルを1,000マイル離れた研究室に運び、アタカマに生育する優占植物32種で発現している遺伝子の配列を解読するとともに、DNA配列に基づいて植物に関連する土壌微生物を調べました。一部の植物種は根の近くに生育促進細菌を発達させていることが分かりました。これは、植物の成長に欠かせない栄養素である窒素の取り込みを最適化する適応戦略であり、窒素の乏しいアタカマの土壌で役立ちます。
アタカマ砂漠の植物とその「姉妹種」
アタカマの植物種で適応したタンパク質配列を持つ遺伝子を特定するため、ニューヨーク大学の研究者らは次に、ゲノムデータを用いて進化の歴史の再構築を目指す「系統ゲノミクス」と呼ばれる手法で分析を行いました。ニューヨーク植物園の同僚たちと相談しながら、アタカマの植物32種のゲノムを、適応していないものの遺伝的に類似する「姉妹」種32種、および複数のモデル種と比較しました。
「ゲノム配列に基づくこの進化系統樹を用いて、砂漠環境へのアタカマ植物の適応の進化を支える、遺伝子にコードされたアミノ酸配列の変化を特定することが目標でした」とコルッツィ氏は述べています。
「この計算負荷の高いゲノム解析では、70種を超える生物の1,686,950のタンパク質配列を比較しました。得られた8,599,764個のアミノ酸からなるスーパーマトリックスを用いて、アタカマ種の進化の歴史を系統ゲノミクスにより再構築しました」と、ニューヨーク大学の高性能コンピューティング・クラスターを使ってこの分析を行ったギル・エシェル氏は述べています。
本研究では、複数のアタカマ種において進化の力によって選択されたタンパク質配列の変化を持つ、265個の候補遺伝子が特定されました。こうした適応変異は、植物の砂漠環境への適応を支える可能性のある遺伝子に生じていました。そのなかには光応答や光合成に関わる遺伝子も含まれ、植物がアタカマの極めて強い光放射に適応する助けとなる可能性があります。同様に研究者らは、ストレス応答、塩分、解毒、金属イオンの調節に関わる遺伝子も見いだしました。これらは、厳しい栄養不足の環境へのアタカマ植物の適応に関連する可能性があります。
「遺伝子の宝庫」
植物のストレス応答と耐性に関する科学的知見の大半は、少数のモデル種を用いた従来型の実験室研究から得られてきました。こうした分子研究は有益ですが、植物が進化してきた生態学的背景を見落としている可能性があります。
「生態系を自然環境のなかで研究することで、共通の過酷な環境に直面する種の間にある適応遺伝子と分子過程を特定できました」と、チリ・カトリカ大学に所属し、グティエレス氏の研究室で研究を行い、ニューヨーク大学ゲノミクス・システム生物学センターの元博士研究員でもあるビビアナ・アラウス氏は述べています。
「今回の研究で特徴を明らかにした植物種の大半は、これまで研究されていませんでした。アタカマの植物のなかには、穀物、豆類、ジャガイモなどの主要作物に近縁なものがあります。したがって、私たちが特定した候補遺伝子は、より耐性の高い作物を開発するための遺伝子の宝庫です。地球の砂漠化が進むなか、それは不可欠です」とグティエレス氏は述べています。
本研究は、チリの優先分野開発基金(FONDAP)ゲノム制御センター、および米国のゼガー・ファミリー財団とエネルギー省生物・環境研究局の支援を受けました。






