米国人の多くは、秋といえばフットボールや落ち葉かきを思い浮かべるが、北極圏ではこの季節を特徴づけるのは氷だ。北極圏の浮氷は毎年、春から夏にかけて薄くなって融け、秋から冬にかけて厚みを増し、広がる。
気候変動によって北極圏が温暖化するにつれ、海氷域は縮小している。今年、科学者らは、9月下旬の北極海氷最小面積が177万平方マイル(459万平方キロメートル)で、観測史上夏季の最小面積として6番目に小さい記録に並ぶと推定している。
海氷が減少するなか、カナダの複雑に入り組んだ北極諸島を通って大西洋と太平洋を結ぶ伝説的な航路、北西航路をはじめ、北極圏全域での海運やその他の商業活動への関心が高まっている。さらに、北極海航路はロシア北方の海域を横断する。この傾向は、北極圏の海洋生物に深刻な影響を及ぼす可能性がある。
最近の研究では、海氷域が最小となる9月の「開水面」期間に、北極海に生息する海洋哺乳類の80個体群がどの程度脆弱かを評価した。北極海の海洋哺乳類について、種、個体群、地域ごとに船舶交通がもたらす相対的なリスクを把握することが目的だった。その結果、セイウチや数種のクジラを含む個体群の半数以上(53%)が、北極海の航路を通る船舶にさらされることが分かった。衝突や騒音による妨害、動物の行動の変化につながる恐れがある。
氷が減り、船が増える
1世紀以上前、ノルウェーの探検家ロアール・アムンセンは、北西航路全域を航行した初のヨーロッパ人となった。北極圏の夏は短く、アムンセンの全長70フィートの木造帆船が航海を終えるまでに3年を要し、その間、船は冬を安全な港で過ごした。
時代を2016年の夏に進めると、乗客1,000人以上を乗せたクルーズ船が32日で北西航路を航行した。北極圏の夏の「開水面」期間は、現在では一部地域で2カ月以上長くなっている。夏季の海氷域は、衛星による定期観測が始まった1979年以降、30%超縮小した。
北極海には、地球上の他の場所には生息しない、独自に適応した海洋哺乳類が暮らしている。シロイルカ、ホッキョククジラ、イッカク、セイウチ、ワモンアザラシ、アゴヒゲアザラシ、ホッキョクグマなどだ。これらの種は北極海の生態系を支える重要な構成要素であり、北極圏各地の先住民コミュニティに伝統的な資源をもたらしている。
生態学者によると、これらの動物はすべて海氷の減少の影響を受けやすい。低緯度地域での研究では、音に頼って生活する海洋哺乳類は、船舶の騒音の影響を受けるほか、船舶との衝突による影響も受けることが示されている。これらの知見は、北極圏で船舶交通が増加することへの懸念を高めている。

感受性×曝露=脆弱性
どの種が危険にさらされる可能性があるかを見極めるため、2つの重要な要素を推定した。1つは曝露、すなわち9月に個体群の分布域が北西航路または北極海航路とどの程度重なるか。もう1つは感受性で、生物学的、生態学的要因と船舶に関する要因を組み合わせたものだ。これらの要因によって個体群がより高いリスクにさらされる可能性がある。
例として、大気汚染に対する脆弱性を算出する場面を考えてみよう。一般に、人々は農村部より都市部で大気汚染にさらされやすい。また、子どもや高齢者などの集団は、肺の機能が平均的な成人ほど強くないため、より影響を受けやすい。
開水面期間中、多くのクジラやセイウチの個体群は、船舶にさらされる度合いも影響の受けやすさも高いことが分かった。大きな螺旋状の牙を持つ中型の歯クジラ、イッカクは、総合的に最も脆弱と評価された。イッカクは北極圏の固有種で、冬から春にかけては海氷が密集する海域で過ごす時間が長い。今回の研究では、9月に船舶の影響にさらされる度合いと影響の受けやすさの両方が高いと評価された。
イッカクの生息域は比較的限られている。毎年夏になると、カナダ北極圏の最北部やグリーンランド周辺の同じ海域へ移動する。秋には群れで南下し、バフィン湾やデービス海峡の沖合に向かう。そこで冬を過ごし、厚い氷の下へ深く潜ってグリーンランドオヒョウを捕食する。多くのイッカク個体群にとって、夏と秋の主要な生息域は北西航路のほぼ中央に位置する。
脆弱な北極圏の地域と種、そして主な不確実性
北西航路の西端と北極海航路の東端は、ベーリング海峡で合流する。ロシアとアラスカを隔てる、幅50マイルの水路だ。この海域は、数千頭のシロイルカやホッキョククジラ、太平洋セイウチ、ワモンアザラシ、アゴヒゲアザラシにとっても重要な回遊ルートである。こうした地理的なボトルネックや、その他の狭い海峡では、海洋哺乳類が船舶交通の影響を特に受けやすい。
評価した種のうち、ホッキョクグマは9月の船舶交通に対する脆弱性が最も低かった。通常、海氷のない季節を陸上で過ごすためだ。もちろん、海氷のない季節が長くなることは、ホッキョクグマにとっても好ましくない。アザラシを狩る足場として海氷が必要だからだ。また、ホッキョクグマは一年を通じて原油流出の影響を受ける可能性もある。
過酷で遠隔地にある北極海での研究は非常に困難なことで知られ、知識には多くの空白がある。ロシア北極圏など、研究が比較的進んでいない地域もある。データは乏しく、特にワモンアザラシやアゴヒゲアザラシなど、多くの海洋哺乳類について不足している。こうした要因により、船舶に対する脆弱性の評価には不確実性が増した。
海氷域の縮小により船舶交通が最も多くなると予想される晩夏に焦点を当てた。しかし、耐氷船は春にも運航できるため、9月には脆弱性が比較的低いアザラシやホッキョクグマに影響が及ぶ可能性がある。海氷の融解が年の早い時期に始まり、結氷が遅くなるにつれ、航行可能な期間は長くなっている。こうした変化は、海洋哺乳類が船舶にさらされる時期や場所も変えている。
北極海は冬には浮氷に覆われるが、晩夏の海氷域は1979年以降、30%以上縮小した。数十年以内に、北極海は夏季に海氷がなくなると予測されている。
航行可能な北極圏に向けた計画
米国本土48州で近年実施された取り組みには、船舶と海洋哺乳類の相互作用を予測し、管理するための手本となるものがある。最近の研究では、モデリングを使って、船舶が重要な生息地を避けられるようカリフォルニア沿岸沖のシロナガスクジラの位置を予測できることが示された。また2008年以降、連邦規制により、絶滅の危機に瀕するタイセイヨウセミクジラへの脅威を最小限に抑えるため、北大西洋を航行する船舶に季節や速度に関する制限が課されている。こうした実践例は、今回の脆弱性評価とあわせて、北極圏の海洋哺乳類を守る同様の措置を講じる基盤となり得る。
国際海事機関はすでに、極域の海域における船舶の安全な航行を促進するために策定された極海コードを採択している。同コードは生態学的に重要な海域の特定を推奨しているが、重要な生息地を指定したり、海洋哺乳類への船舶の影響を軽減したりするための直接的な戦略は、現時点では盛り込まれていない。ただし同機関は、ベーリング海の海洋生息地を保護するための措置を講じている。
各国が気候変動の緩和に向けて厳格な措置を講じたとしても、モデルによると、9月の北極海氷は今後30年間、減少し続けると予測されている。アクセスしやすさが増し、急速に変化する北極圏に備える計画を立て、地球上の他の場所には生息しない生き物へのリスクを最小限に抑える機会が、今ある。








