気候目標を達成するには、官民が自然を活用した気候変動対策(NCS)への信頼を高める必要があります。
自然とネットゼロ世界経済フォーラムとマッキンゼーによる報告書は、排出削減を実現するためのアジェンダを示しています。
この道筋を加速させる可能性のある、今年のNCSに関する主な7つの進展を紹介します。
自然を活用した気候変動対策(NCS)は、1.5度目標の道筋を達成するために必要な排出削減量の最大3分の1を担う可能性があります。これを実現するには、官民の関係者が、NCSは地域のニーズと地球規模の課題の双方に効果的に対処できるという確信を持つ必要があります。現在、NCSの導入を制限している技術面および概念面の障壁があります。
このアジェンダは、世界経済フォーラムとマッキンゼーによる『自然とネットゼロ』最終報告書で示されています。実行は容易ではありませんが、変化は加速しています。2021年には、NCSの拡大を後押しする注目すべき進展がいくつかありました。
1. 市場メカニズムの青写真が形に
1月、自主的炭素市場拡大タスクフォース(TSVCM)は、自主的なカーボンクレジットのグローバル市場に関する青写真を発表しました。NCSプロジェクトを含む多様なプロジェクトに資金が流れるようにするには、自主的な炭素市場のグローバル化が必要です。NCSプロジェクトは、2020年に購入・償却された自主的なカーボンクレジットの約40%を占めました。9月21日、TSVCMは1月の青写真に沿って、高品質なカーボンクレジットのグローバル基準を確立し、信頼性の高い自主的炭素市場を拡大する使命を引き継ぐガバナンス機関を立ち上げました。新たなガバナンス機関の理事会では、NGOや市民社会の代表を含む独立した関係者が過半数を占める一方、世界の炭素バリューチェーンから貴重な商業的専門知識も取り入れています。
2. 自主的炭素市場の信頼性確保を求める声
勢いをさらに高めるため、自主的炭素市場の信頼性イニシアチブ(VCMI)が7月に発足しました。ネットゼロやカーボンニュートラルの主張に透明性と厳格さをもたらし、自主的炭素市場が本来の可能性を発揮できるようにすることを目指しています。企業や各国が気候目標の達成に取り組むなか、保証と信頼性について合意やコンセンサスを形成する必要性が高まっています。幅広い関係者を集めるVCMIは、企業の気候変動に関する主張を含め、カーボンクレジットの買い手向けに信頼性の高い指針を策定する予定です。VCMIは、多様な関係者との初期協議を踏まえて協議報告書の草案を作成し、2021年9月まで内容への意見を募っています。
3. 新たなカーボンクレジット取引所を発表
自主的炭素市場はまだ発展途上にあり、クレジットの取引の多くは買い手と売り手の直接取引で行われています。今年後半には、新たなグローバル炭素取引所が稼働し、組織に新たな取引の場が提供される見込みです。DBS、SGX、スタンダードチャータード、テマセクが主導し、5月に発表されたシンガポール拠点のClimate Impact Xは、炭素取引のための2つのプラットフォームを提供する構想です。大量のカーボンクレジットを扱う取引所と、特定の特徴を持つプロジェクトのクレジットを開発事業者が提示できるマーケットプレイスです。Climate Impact Xの運営者は、プロジェクトの衛星監視を含む追跡技術を用いて、クレジットの品質確保を支援するとしています。稼働後は、CBL Markets、CME、AirCarbon Exchangeなどの既存取引所に加わることになります。
自然を活用した気候変動対策について、世界経済フォーラムは何をしているのか?
世界は、自然の破壊の加速と気候変動という、複合的な環境危機に直面しています。
自然を活用した気候変動対策(NCS)とは、炭素貯留を増やし、炭素排出を減らす保全や土地管理プログラムへの投資です。2つの危機に対処する重要な手段であり、環境面・社会面の追加的な便益ももたらします。

フォーラムのために実施された調査は、『自然とネットゼロ』報告書において、NCSは2030年までに1.5度および2度目標の道筋を実現するための気候変動緩和策の3分の1を担い、他の二酸化炭素除去手法より低コストで実施できるという推計を確認しています。この報告書は、自主的炭素市場拡大タスクフォースの提言を踏まえ、企業のリーダー、政策立案者、市民社会が協力して高品質なNCSを拡大し、市場を開拓するための6つの行動を特定しています。

協力を促進するため、2019年にフォーラムと持続可能な開発のための世界経済人会議は共同で自然を活用した気候変動対策アライアンスを設立しました。NCSへの投資機会と障壁を特定するため、官民の関係者を集めています。
NCSアライアンスの加盟組織は、企業によるNCSクレジットの信頼性ある活用に関する概説書『企業のための自然を活用した気候変動対策』の作成に専門的な知見を提供しました。
お問い合わせのうえ、自然の力を解き放つ私たちの使命にご参加ください。
4. NCSへの需要シグナルが強まる
従来、NCSの供給事業者は、排出削減を検証し、クレジットを発行して収益を得るまで、何年もプロジェクトを運営しなければなりません。この状況は、プロジェクトファイナンスの不足によってさらに深刻化しています。しかし、カーボンクレジットの買い手が将来の購入意向を明確にすれば、その「需要シグナル」が供給事業者に拡大への確信をもたらします。自然を活用した気候変動対策アライアンスは、世界経済フォーラムと持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が招集したマルチステークホルダー・グループです。NCSプロジェクトの開発事業者が取り組みを拡大できるよう促す需要シグナルの形成に取り組んでいます。同アライアンスの目標は、2025年までにNCSによる排出削減と除去を年間10億トン実現するという企業のコミットメントを確保することです。

5. 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が発足
TNFDは、企業や金融機関が自然への依存と自然に与える影響を評価、管理、報告するための枠組みを提供します。自然関連リスクの評価を支援し、世界の資金の流れを自然に負の影響を与える結果から遠ざけ、自然にとってプラスとなる結果へ向けることを目指します。この市場主導のグローバルな取り組みは最近、G7財務大臣の支持を得ました。財務大臣らはG7前の共同声明で、同タスクフォースの提言を期待していると述べました。
6. 森林保護の基準が引き上げられる
森林破壊の回避は、2030年におけるNCSの排出削減ポテンシャルのほぼ半分を占めます。また、地域コミュニティの持続可能な発展、生物多様性の保全、土壌の健全性の改善など、重要なコベネフィットもあります。排出削減のこの手法はREDD+、すなわち森林減少・劣化による排出の削減として知られ、1.5℃の気温上昇経路を実現するには大幅に拡大する必要があります。2月、複数の国連機関、NGO、企業が、森林破壊の抑制によって2030年までに年間10億トンの排出を防ぐ目標を宣言しました。その取り組みであるグリーン・ギガトン・チャレンジは、森林保護の取り組みから生まれるカーボンクレジットに最低価格を設定し、時間の経過とともに段階的に引き上げることで、森林保護の強化を目指します。

7. 森林保護への資金支援が拡大
総じて、森林破壊の防止は炭素排出を削減する最も費用対効果の高い方法の一つです。しかし、他の形態のNCSと比べると、土地取得費が高い地域では二酸化炭素1トン当たり30ドルに達するなど、費用が高い部類に入ります。今年4月の気候サミットで、Amazon、AirBnB、GSK、BCG、Nestlé、McKinsey & Co、Salesforce、Unilever、Bayerと各国政府が、資金需要への対応を目的にLEAF連合を結成しました。森林保護に少なくとも10億ドルを投じることを目指しています。森林破壊を止めた森林の多い国々に報いるため、森林保護プロジェクトのカーボンクレジットの価格引き上げなどを行い、先住民族や地域コミュニティを含むすべての主要な関係者が参加するプログラムを通じて、より広大な森林地帯を保全する構想です。
『自然とネットゼロ 』が明らかにしているように、NCSは気候変動と自然喪失という複合危機への対処に貢献するとともに、国連の持続可能な開発目標に沿った持続可能な開発を実現できます。企業、政府、市民社会、先住民族のグループ、地域コミュニティが引き続き取り組みを調整すれば、高品質なNCSの市場を開拓し、その成長を加速するために必要な仕組み、指針、信頼を築くことができます。

