今日のリーダーシップには、複雑さを乗り越え、不確実性の高まりに立ち向かう能力が求められます。
停電や貿易摩擦といった大きな混乱に特徴づけられる時代に、私たちはますます不安定で複雑になる未来に備えなければなりません。
この新たな現実に対応するには、曖昧さを乗り越え、複数の真実を同時に受け止め、プレッシャーの下で決断力をもって行動できるリーダーシップが必要です。
今日のリーダーシップとは、組織を管理するだけでなく、複雑さを乗り越え、不確実性の高まりに立ち向かうことです。さまざまな混乱は、もはや孤立した出来事とは見なせません。それらは、私たちのシステムがいかに深く相互につながり、脆弱になっているかを明らかにしています。
その一例が、予期せぬ大規模停電で、数百万人に影響が及びました。4月にスペインとポルトガル全域で発生し、当初はサイバー攻撃から太陽フレアまで原因が疑われましたが、現在は技術上および計画上の誤りが原因と確認されています。また、米国が新たな関税から重要な電子機器を除外した決定も挙げられます。スマートフォンやコンピューターなどを対象外としたことで、グローバル・バリューチェーンの戦略的重要性が浮き彫りになりました。こうした出来事はいずれも、私たちが備えるべき未来が、ますます不安定で曖昧、かつ相互依存的になっているという同じ事実を示しています。
この新たな現実が求めるのは、技術の先見性や事業運営のレジリエンスだけではありません。曖昧さを乗り越え、複数の真実を同時に受け止め、プレッシャーの下で決断力をもって行動できるリーダーシップが必要です。
保護主義、地政学的緊張、気候変動、急速な技術変化が世界の生産基盤を再編するなか、こうした圧力はバリューチェーンの脆弱性と潜在的な強みの両方を明らかにしています。この二面性を踏まえ、より深く問い直す必要があります。バリューチェーンの真の価値とは何か。そして、それを持続させるのはどのようなリーダーシップでしょうか。
歴史を通じて、世界のリーダーたちの個人的な世界観や価値体系は、地政学的・地経学的な動向を形づくってきました。しかし近年、その影響力はとりわけ顕著になっています。リアルタイムの通信、デジタル面での相互依存、グローバルなサプライネットワークが意思決定の速度と範囲を拡大し、バリューチェーンの安定性に即座に影響を及ぼすためです。
同様に、産業界のリーダーも、人々と地球の長期的な幸福に沿った目的に導かれるなら、より包摂的で人間中心の変革を推進できます。
リーダーシップを考える別の枠組み
複雑さと混乱の時代に、より適応力があり、価値観に基づくリーダーシップが必要とされるなか、たとえばインナー・ディベロップメント・ゴールズ(IDGs)のような枠組みが世界的に認知されてきました。従来のモデルでは見過ごされがちな、共感、協働、倫理的な勇気といった人間的資質を育むための言葉と構造を提供しています。
IDGsは、複雑さに直面するリーダーの基盤となる5つの側面、すなわち「あり方」「考える」「関わる」「協働する」「行動する」に基づく枠組みです。これらは、持続可能な開発に必要な内面的スキルをより適切に伝える助けとなります。
このアプローチを発展させ、InEx – グローバルな持続可能性に向けた内面の成長などの取り組みが、ブラジルのインパクト系スタートアップNeoliderançaの主導と、サンタカタリーナ州研究・イノベーション支援財団(FAPESC)の支援を受け、内面の成長を実践に移そうとしています。
InExは人工知能(AI)を活用し、GPTベースのデジタルメンターを通じて、内省的で再生型のリーダーシップを支援します。このメンターは、特に産業分野において、自己探求、戦略的先見性、生態系思考を促します。IDGsを内面的変革の羅針盤として体現し、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に沿ったものです。
同時に、統合型リーダーシップは、Unlocking Eve Foundationが開発した、リーダーシップの行動、関係性、システムの側面に焦点を当てる実践的なアプローチです。現実世界の課題、特にライフサイエンスや医療分野の課題を踏まえ、リスクが高く明確な見通しが乏しい状況で、内面的な気づきを勇気ある適応的行動へと結びつける方法を体系化します。
これらの枠組みは、多くの点で互いを補完します。どちらも、予測困難な今日の世界では、リーダーシップには外部に向けた戦略と同じくらい内面的なレジリエンスが必要だと認識しています。内面の成長と、統合された現実の実践を組み合わせることで、リーダーシップは一貫性を増すだけでなく、より人間的になり、次に訪れるものへの備えも整います。
内面の成長から、より良いリーダーシップへ
IDGsが重要な概念的基盤を提供する一方、世界各地の取り組みが内面の成長を具体的な実践へと移そうとしています。InExはAI、戦略的先見性、人間の成長、システム思考を組み合わせ、再生型リーダーシップを育みます。その中心にあるのは、リーダーが自己認識、倫理的想像力、生態系的な視野を養う助けとなるデジタルの鏡です。答えを指示するのではなく、問いを深めることで支援します。
この初期段階の取り組みは、私たちの未来に必要な「内側で、相互の間で、そしてその先へ」という統合の精神を反映しています。ほかにも、U.Labなど、マサチューセッツ工科大学のPresencing Instituteによる取り組みが、内面的な取り組みと集団的な感知がどのようにシステム変革を引き起こすかを探っています。この歩みを可能にするのは、個人の勇気だけではなく、共有された目的と信頼です。
フォーラムは、リーダーが最先端技術を現実世界の課題に結びつけるためにどのような支援をしているのか
フロンティア技術・イノベーションセンターは、科学者、政策立案者、ビジネスリーダーを結集し、新興技術とその現実世界への影響を理解する場を提供します。
協働と実験を可能にすることで、同センターはパートナーが研究から生まれたイノベーションを、世界共通の課題に取り組む実用的な応用へとつなげる支援をしています。
こうした変革の核心には、重要な洞察があります。勇気は個人の内に宿るだけではなく、人と人との間から生まれるのです。統合型リーダーシップ:二人の力という枠組みは、この認識に基づき、最も効果的な変革は信頼で結ばれた二者間の関係を通じて実現すると捉えています。共同リーダー、部門横断のパートナー、官民の協力者などの関係がこれに当たります。
「二人の力」は、真実を語り、共同で責任を担い、説明責任を分かち合うための、関係性における勇気を引き出します。リーダーシップを個人の熟達から共同の舵取りへと広げ、次に何をすべきかを一人で答えなくてもよい状態をつくります。
競争力を高める人間中心のリーダーシップ
21世紀に向けてリーダーシップを再定義するには、孤高の天才という神話や、技術一辺倒の最適化を乗り越える必要があります。真の競争優位は、統合型で人間中心のリーダーシップを通じて複雑さを乗り越える力にあります。
製造業、気候変動へのレジリエンス、グローバルヘルスのいずれにおいても、部門の壁を越えて適応し、足並みをそろえ、行動する力は、もはや選択肢ではありません。パラドックスに対処し、個人としても関係性のなかでも勇気を体現できるリーダーこそ、バリューチェーンと、それが表す価値の双方を持続させるでしょう。
こうした観点から、リーダーシップへの投資は人事部門の取り組みではありません。それは、混乱する世界でレジリエンスと存在意義を支える戦略的な基盤です。
マリアン・バッド司教は著書『勇敢であることを学ぶ』のなかで、勇気とは一度きりの行為ではなく、容易さより誠実さを、安楽さより真実を、手っ取り早さより目的を選ぶ日々の実践だと述べています。
今、私たちに必要なのはこの勇気です。声をさらに大きくしたり、見出しをさらに大胆にしたりすることではありません。そうしたものにはもう十分触れてきました。未来が求めるのは、より賢明で、勇敢で、統合されたリーダーです。リーダーシップが進化すれば、私たちが頼るシステムも、ともに創る未来も進化し得るからです。
ブラジルの詩人ギマランイス・ローザは、「人生が私たちに求めるのは勇気だ」と書きました。さらに私たちはこう付け加えます。勇気を一人で抱えるのは重いことがあります。しかし、分かち合えばあふれ出し、変革をもたらす力になります。
統合型・再生型リーダーシップは、それだけで成り立つものではありません。私たちの内に築かれ、人と人との間にも築かれます。そして、この実践を共有することで、可能なことだけでなく、必要なことも実現できるのです。
アレクサンドラ・アウグスタ・ペレイラ=クレンは、世界経済フォーラムの先進製造業・バリューチェーンに関するグローバル・フューチャー・カウンシルのメンバーであり、エヴァ・マクレランはリーダーシップに関するグローバル・フューチャー・カウンシルのメンバーです。


