研究者らは、組織における管理職の女性比率と炭素排出量の関係を調査した。
研究によると、女性管理職の割合が高いことは、炭素排出量の低さと関連している。
研究によると、パリ協定のような気候変動対策政策の伝達も、意思決定層における女性の比率が高いほど強まる。
つまり、ジェンダーの多様性を支援する政策は、組織の排出量削減と気候変動対策に大きな影響を与え得る。
近年、気候変動とその影響は、世界の政策論議の中心となっている(Weder di Mauro 2021)。温室効果ガス(GHG)の排出削減は、持続可能な経済成長、自然災害の防止、生物多様性の保全に不可欠である。気候リスクの規模を踏まえると、2050年までのカーボンニュートラル達成は喫緊の優先課題である。
気候変動を緩和する解決策を評価する研究が増えている。対象には、炭素価格付け(van der Ploeg and Rezai 2018)、政府の介入と民間部門の緩和戦略の組み合わせ(Bolton et al. 2021)、国際協定(Altunbas et al. 2021)などがある。しかし企業レベルでは、コーポレートガバナンスの役割、とりわけ企業内のジェンダー多様性の役割は、ほとんど見過ごされている。
女性管理職と環境の関係
ジェンダー社会化理論(Chodorow 1978)および社会的役割理論(Eagly 1987)は、女性の意思決定者が環境問題にプラスの影響を与えると予測する。これは、女性が男性より環境への関心が高く、倫理的な問題全般への関心も強いためである。これらの理論では、女性はより共同体を重視し、共感、思いやり、他者への配慮といった特性を持つとされる。こうした理論は、実証研究でも幅広く支持されている。先行研究によると、取締役会に占める女性の割合が高い企業は、ガバナンスの質や情報開示の水準が高い傾向にあり(Adams and Ferreira 2009)、そのことが企業の社会的責任や環境に関する意思決定を促している(Eagly et al. 2003)。
本稿では異なる視点から、組織における管理職の女性比率と炭素排出量の関係を調査する(Altunbas et al, 2022)。取締役の決定が企業の環境問題への取り組み方を形づくる一方、実施戦略を担うのは管理職である。したがって、女性管理職が男性の同僚より環境保護に積極的であれば、女性管理職の多い企業ほど炭素排出量の削減幅が大きいと考えられる。この関係を単純に図で見ると、女性管理職の割合が高いほど炭素排出量が少ないことがうかがえ、女性管理職が企業の汚染削減に重要な役割を果たし得ることを示している(図1)。
図1企業における女性管理職の割合と炭素排出量の相関
2009~2019年の24の先進工業国における上場企業1,951社のサンプルから得られた計量経済学的証拠は、この関係を裏付けている。企業内の女性管理職比率が1パーセントポイント上昇すると、炭素排出量は0.5%減少する。この効果は、より家父長制的で階層的な文化や宗教に由来する制度上の違いを考慮するよう実証モデルを拡張した場合にも、統計的に有意である。また、組織外(政治機関や市民社会組織など)でも女性の代表性が高い場合、管理職層のジェンダー多様性が気候変動を緩和する効果はより強い。
世界経済フォーラムは職場の平等をどのように推進しているのか
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女性管理職とCO2排出量:パリ協定の前後比較
2021年11月にグラスゴーで開催された締約国会議(COP 26)は、2015年のパリ協定を受けた気候変動に関する世界的な議題を見直した。参加国は、気温上昇を1.5°C以内に抑えることを目指し、炭素排出削減に関する誓約を強化することで合意した(1.5°Cは、気候災害を防ぐために科学者が示した閾値である)。
図2は、パリ協定以前には、女性管理職の割合が中央値を上回る企業と下回る企業の双方で、炭素排出量が同様の傾向で推移していたことを示唆している。しかし、協定後には、協定前の時点で女性管理職の割合が中央値を上回っていた企業で、炭素排出量がより大きく減少したことも示している。
図2 パリ協定の前後における企業の炭素排出量の推移
内生性の問題の可能性を考慮した差の差分析の推定結果は、女性管理職の割合が高い企業ほど炭素排出量が少ないという、負の統計的に有意な関係を裏付けている。具体的には、パリ協定後、女性管理職の割合が中央値を上回る企業では、中央値を下回る企業と比べて炭素排出量が約5%減少した。この結果は、政策にとって重要な示唆をもたらす。パリ協定のような気候変動対策政策が伝わる経路は、意思決定層における女性の比率が高いほど強まる。したがって、ジェンダーの多様性を支援する政策は、企業のGHG排出量削減と気候変動対策に相乗的かつ大きな影響を与え得る。
著者注:本コラムで示された見解は著者のみのものであり、BISまたはECBの見解を必ずしも代表するものではない。
参考文献
Adams, R B, D Ferreira (2009),「取締役会における女性とガバナンスおよび業績への影響」、Journal of Financial Economics 94: 291-309.
Altunbas, Y, D Marques-Ibanez, A Reghezza, C Rodriguez d’Acri, M Spaggiari (2021),「気候変動への資金供給:国際協定と融資」、VoxEU.org、5月21日。
Altunbas Y, L Gambacorta, A Reghezza, G Velliscig (2022), 「職場のジェンダー多様性は気候変動を緩和するか?」、CEPR Discussion Paper 17159(BIS Working Paper 977およびECB Working Paper 2650としても刊行)。
Bolton, P, H Hong, M Kacperczyk, X Vives (2021),「自然災害に対する金融システムのレジリエンス」、VoxEU.org、5月25日。
Chodorow, N (1978), 母性の再生産:精神分析とジェンダーの社会学、Stanford University Press。
Eagly, A H (1987), 社会行動における性差:社会的役割による解釈、Hillsdale。
Eagly, A H, M C Johannesen-Schmidt, M L van Eugen (2003),「変革型、取引型、放任型のリーダーシップ・スタイル:女性と男性を比較するメタ分析」、Psychological Bulletin 129: 569-591.
Van der Ploeg, F and A Rezai (2018),「気候変動否定論者にどう対処するか:炭素に価格を付けよう!」、VoxEU.org、1月5日。
Weder di Mauro, B (2021),「気候変動への対処:CEPR論文集」、VoxEU.org、11月8日。




