現在、アブデル・ハミード・シャララは、周囲の人々に意欲を与えるほどの決意を持つ、才能豊かな若手起業家です。しかし、法律を学ぶという見当違いの希望から出発した彼は、ビジネス教育が不足しているために多様な機会へアクセスできない地域で、秘めた可能性を発揮できずにいる人の典型でした。
同世代の多くと同様、アブデル・ハミードは周囲の人々が定めた基準に従うよう教えられました。法科大学院に進むことだけが現実的な進路だと信じて育ちました。経済界に就職できない法学部の新卒者があふれていることを知りませんでした。法律家としてのキャリアが失敗に終わる可能性さえ考えませんでした。彼にとって、ほかの選択肢はなかったからです。まさにこの認識の欠如が、今日のアラブの若者を危険にさらしています。
私はアラブの若者たちと関わる仕事を通じて、約7年前にアブデル・ハミードと知り合いました。現在、彼は、RiseUpの創業者兼マネージングディレクターです。同プラットフォームは、起業家やイノベーターを資金提供者候補、メンター、その他のリソースと結びつけ、必要な支援を提供しています。アブデル・ハミードは、この地域がイノベーションの場として評価を高めることに貢献してきた多くの人々の一人です。
ここで疑問が浮かびます。特にMENA地域には、まだ見いだされていないアブデル・ハミードが何人いるのでしょうか。さらに重要なのは、起業家教育が彼らに確実に届き、影響を与えているかということです。
国連は若者を15歳から24歳と定義しており、この年齢層は世界人口の18%超、労働力人口全体の15%超を占めます。若者はアラブ人口の非常に大きな割合を占め、MENA地域全体で2億人に上ります。同地域では65%が25歳未満です。それにもかかわらず、世界経済フォーラムによると、この地域の若者の27%が失業しています。
この隔たりは、世界の、そして何よりこの地域の変革を担う人々が、若者のコミュニティに力を与える形で対応する好機です。それを実現するための最も強力で効果的な手段が起業家精神です。
起業家精神は世界経済を動かす重要な原動力となっています。また若者に、創造性を発揮する自由を得て、自尊心を高め、自らの人生をより強くコントロールできると感じるための大切な機会をもたらします。
しかし、若者に起業家精神を身につけてもらうには、適切な教育を支援する必要があります。実践的なリソースや経験を提供すれば、起業の機会を生み出すために必要な技能と知識を若者が身につけられます。
地域における若者の雇用を妨げる主な障壁は9つあると、デロイト・アンド・トウシュの調査は指摘しています。以下のとおりです。
技能のミスマッチ。MENA地域の卒業生は、適切なソフトスキルや専門技能を十分に身につけていません。教育制度が市場のニーズに完全には沿っていないためです。
政治・経済の不安定さ。アラブの春、続く戦争や政情不安、原油価格の下落は、アラブの若者の雇用に悪影響を及ぼしてきました。
より高い資格を持つ外国人労働者との競争。より発展した経済圏から来た外国人労働者は、より高い資格を備えていると見なされ、通常は優先的に採用されます。
民間部門で働くことへの消極姿勢。アラブの若者は、労働時間が短く、給与などの待遇もよいことから、公共部門で働くことを好みます。
若者が大学で選ぶ専攻。アラブの若者は、今日必要とされている科学、技術、工学、数学よりも、経営学を専攻することを選びがちです。
女性の雇用機会の不足。MENA地域の若い女性は、雇用機会の少なさや文化的な制約により、世界で最も高い失業率に直面しています。
オンライン採用チャネルの活用不足。雇用主は、アラブの若者を対象に利用可能なオンライン採用チャネルを十分に活用していません。
自国民化プログラム。GCCで働きたいアラブの若者は、自国民化要件によるビザ取得の困難や労働上の制限に直面することがあります。
雇用の安定。GCCには雇用主が支援する永住権制度がないため、同地域で雇用の安定を望むアラブの若者にとって、働き続けることは困難です。
市場のニーズに応えるため、技能のミスマッチを解消する
起業家教育はこうした障壁を乗り越える助けになります。民間部門で必要とされる技能や能力を身につける機会を提供するからです。画一的な教育は、絶えず変化する世界市場のニーズに応えるよう設計されていません。そのため、若者が市場で仕事を探す現実に備えることができず、教わったことと実際に求められることの違いに戸惑うこともあります。
Bayt.comの調査(上記参照)では、アラブの若者が就職先として目指す業界と、継続的に採用を行っている業界との間に隔たりがあることが分かりました。一方、デロイト・アンド・トウシュの調査によると、アラブの若者の23%が銀行・金融業界でのキャリアを考えているのに対し、同業界の雇用主でアラブの若者を採用しようとしているのはわずか6%です。現在、人材プールには需要のない候補者があふれています。
教育機関を通じて起業の手法やカリキュラムを導入すれば、公共部門と民間部門の隔たりを埋める助けになります。若いアラブ人は雇用主が求めるものを理解し、就職の可能性を高められます。
起業家教育を充実させることで、アラブの若者は希望するキャリアに合う技能を主体的に身につけられるようになります。それにより、明確な行動計画を戦略的に立て、多様な機会に目を向け、最終的には市場に即した形で求職活動を進められます。
認知能力と対人スキルを身につける
起業家精神を重視し、公共部門と民間部門が慎重に連携することで、批判的思考、問題解決、目標設定、分析、リスク管理、事業計画、個人の資産管理、予算編成などの認知能力を養えます。
起業家教育は、チームワーク、協働、コミュニケーション、リーダーシップを重視することで、対人スキルの育成と習得も促します。適切なツール、支援、リソースがあれば、学校で起業を支援することにより、責任感と起業家精神を備えた人になる必要性を若者に理解してもらえます。現実に即した学習体験に身を置くことで、若者は適切なリスクを取り、結果を管理し、その成否から学べるようになります。試行錯誤する時間を得て、考えを紙に書き出し、実際の仕事に挑戦できます。
アブデル・ハミード・シャララは、自身が起業家として目覚めた経験をこう語っています。「起業家教育と意識啓発を通じて、考え方や心構え、ビジネススキルが変わり、より果敢にリスクを取れるようになりました。自分の可能性を伸ばし、スタートアップを含め、取り組むすべての活動に目的を持たせることにもつながりました。」
何千人もの若いアラブ人に働きかけられるかもしれませんが、影響を受けるのを待っている人は、さらに何百万人もいます。協働の力を通じて、効果的な起業家教育を活用すれば、混乱と不安定さに苦しむ地域の失業格差を解消できます。アブデル・ハミードが経験したのと同じ、起業家としての目覚めを広げるのです。




