国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」は「誰一人取り残さない」と誓約しており、国際労働機関(ILO)の「すべての人にディーセント・ワークを」という目標も同じ原則を掲げています。
この実現に向け、私たちは今、歴史の転換点に立っています。ここ数カ月の世界的な政治情勢の変化は、グローバル化の恩恵を受けていないと感じる、取り残された人々、すなわち労働者たちの反発だと私は見ています。どの世代も、職業面でも社会全体としても、前の世代より暮らしが良くなることを願い、夢見ています。多くの人にとって、その夢は逆方向へと進んでしまいました。
そして、彼らの不満や幻滅は、人々の仕事をめぐる経験から大きく生じていると思います。仕事から排除されている場合もあれば、受け入れがたい条件で労働市場に組み込まれている場合もあります。
私たちが暮らす社会では、グローバル化と経済活動の恩恵が極めて不公平に分配されています。例えば、1980年代から1990年代以降、世界の多くの国で賃金格差が拡大していることは、十分に記録されている事実です。
ILOの『世界賃金報告』「職場における賃金格差」は先月公表されました。同報告によると、ほとんどの国では賃金分布の大半で賃金が緩やかに上昇する一方、上位10%、そしてとりわけ最も高給の従業員上位1%では急激に跳ね上がります。
欧州では、賃金が最も高い従業員の上位10%が、それぞれの国で全従業員に支払われる賃金総額の平均25.5%を受け取っています。これは、賃金が最も低い下位50%の受取額(29.1%)にほぼ匹敵します。ブラジル(35%)、インド(42.7%)、南アフリカ(49.2%)など、一部の新興国では上位10%の取り分がさらに高くなっています。欧州では、上位1%の人々の時給は約90ユーロで、賃金中央値の人々の8倍、賃金が最も低い下位10%の平均賃金の22倍に達します。

世界全体の賃金上昇率は2012年以降鈍化し、2015年には2.5%から1.7%へ低下しました。これは4年間で最低の水準です。賃金上昇率が他地域より高かった中国を除くと、世界の賃金上昇率は1.6%から0.9%へ低下しました。
私たちは、世界的な経済・社会危機による損害の修復と、毎年数千万人に上る新たな労働市場参入者のための質の高い雇用の創出という、二つの課題にも直面しています。経済成長は、成長率の水準でも包摂性の度合いでも、期待を裏切り、振るわない状況が続いています。これは、世界経済と、十分な数の雇用、まして質の高い雇用を生み出す能力について、懸念すべき状況を示しています。不安定な形態の雇用が高水準で続き、雇用の質にも明らかな改善が見られないことは、総計の数値が改善している国でさえ、憂慮すべき事態です。成長の恩恵が包摂的に共有されるようにする必要があります。
ILOの予測によると、労働力の増加ペースが雇用創出を上回るため、2017年の世界の失業者数は2億100万人をわずかに超え、2018年にはさらに270万人増える見込みです。ILOの『世界の雇用及び社会の見通し―2017年の動向』 (WESO)は、そう予測しています。
私たちには、持続可能で雇用を豊富に生み出す経済成長が必要です。その成長が持続的かつ公平なものとなるには、強固で適切な労働市場制度を基盤としなければなりません。そして、その制度は、より質の高い仕事を支える、国際的に認められた原則と権利に基づく必要があります。
この点で、最低賃金と団体交渉は重要な役割を果たし得ます。ここ数年の顕著な傾向の一つは、格差の拡大を受け、多くの国が最低賃金を導入または引き上げてきたことです。最近、メキシコをはじめ複数の国が最低賃金の引き上げを決定しました。一方、南アフリカなどでは、全国一律の最低賃金の導入が検討されています。
ドイツの最低賃金委員会によるものを含む最近の証拠は、労働者とその家族のニーズに加え、経済的要因も考慮した水準に設定された適切な最低賃金が、雇用に大きな悪影響を及ぼすことなく、賃金分布の下位層に実質的な変化をもたらし得ることを示しています。
すべての人にディーセント・ワークの機会を提供することは、人々を貧困から救い、格差を縮小し、経済成長を促す最も効果的な方法です。
誰一人取り残さないためには、十分な支援制度も整備されなければなりません。そのためILOと世界銀行は、ユニバーサルな社会保障のためのグローバル・パートナーシップを立ち上げました。この取り組みは、必要なときに生涯を通じてすべての人が所得保障と支援を受けられるよう、各国が貧困層や脆弱な立場にある人々すべてに施策を届けることを支援するものです。これには、年金、出産給付、障害給付、児童手当などを誰もが利用できるようにすることが含まれ、現在、世界で保護を受けられていない数億人の格差を埋めることを目指しています。
政策立案の中心にディーセント・ワークと社会正義を据えることは、明白な事実を認めることにほかなりません。他者を包摂しなければ、私たちは誰も自分たちのより良い未来を築けないのです。その証拠を探すために、今日の見出しを見れば十分です。社会正義の基本が否定された結果、平和、安定、開発が脅かされる事例が見つかります。どの社会でも、取り残されていると感じる人があまりに多ければ、破壊的な力が成長を損ない、社会的・政治的調和を不安定化させる可能性が高まります。


