職場で情熱を示せば必ず成功するとは限らない。慎重に示さなければ、危険にさえなり得ると、ハーバード・ビジネス・スクールの助教ジョン・M・ヤキモヴィチは言う。
彼が主導した研究では、競争の激しい状況では情熱を示すことがふさわしくない場合があり、かえって裏目に出ることさえあると分かった。
スティーブ・ジョブズが12年の不在を経て1997年にアップルに戻ったとき、彼が共同創業した同社は士気を失い、進むべき道を見失い、倒産寸前だった。社員集会でジョブズは、苦境にあるブランドを再生させる計画を語り、そのために必要な要素の一つとして情熱に触れた。「情熱を持つ人々は、世界をより良い場所に変えられる」と彼は言った。
ジョブズの情熱と、それを伝える力が会社を救った。
ジョブズのように職場で情熱を示すビジネスリーダーは、大きな恩恵を得ることがある。同僚から十分な称賛と支援を受け、自分のアイデアを実現できるのだ。しかし新たな研究によると、情熱には暗い側面もある。従業員が情熱を示す方法やタイミングに気を配らなければ、同僚を遠ざけたり、脅威を感じさせたりすることさえある。
「情熱を示しさえすれば、すべてうまくいくと思ってはいけません。周囲を味方につける方法として、いつも有効なわけではありません。示すべき時と場所があります」と、ハーバード・ビジネス・スクールの助教、ジョン・M・ヤキモヴィチは言う。「いつ、どのように、誰に情熱を示すかに気をつけなければ、危険にさえなり得ます。」
情熱には人を夢中にさせる力がある
従業員が適切なタイミングと状況でアイデアへの情熱を示すと、その強い前向きなエネルギーは重力のように働き、ほかの従業員を引き寄せて時間と支援を注がせ、最終的にアイデアの成功に貢献することがある。「情熱は笑顔のように伝染する」と、ヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソンはかつて語った。「周囲の人に広がり、熱意ある人々を自分の輪の中に引き寄せる。」
では、情熱が効果を発揮するのはどんなときで、そうでないのはどんなときだろうか。
ヤキモヴィチと研究チームは、職場での情熱をより深く理解するため、6つの研究を設計した。その研究論文「情熱を示すことの引力:情熱の表明が他者からの地位の付与と支援を引き出すタイミングと方法」は、2019年7月に学術誌Organizational Behavior and Human Decision Processesに掲載された。
実生活の場面における情熱の効果を検証した最初の研究では、研究チームはカナダのテレビ番組『Dragons’ Den』からデータを収集した。同番組では、起業家177人が支援を求め、ドラゴンと呼ばれる5人の投資家に事業のアイデアや製品を売り込んだ。情熱を強く示すプレゼンテーションは、より多くの投資家を引きつけるのだろうか。
研究チームによると、自分のプロジェクトに情熱を持っていると受け取られた起業家は、より多くの投資の申し出を受けた。実際、起業家が示す情熱がわずかに(標準偏差1つ分)高まるだけで、資金提供を受けられる可能性は40%上昇した。

「情熱を持つ人を見ると、私たちはそれを能力や将来の成功のしるしと捉えることがよくあります。その結果、その人を支援するのです」とヤキモヴィチは言う。この論文は、ノースウェスタン大学のクリストファー・トー、コロンビア・ビジネス・スクールのアダム・D・ガリンスキー、トロント大学のシラ・アガシとステファン・コテとともに執筆した。
情熱を示すのがふさわしくない場合もある
一方で研究チームは、情熱がいつも効果を発揮するわけではないことも明らかにした。2つ目の研究では、参加者は『Dragons’ Den』の映像を見て、起業家がどれほど情熱的に話しているかを評価した。投資家が最も資金を出したいと思ったのは、売り込みに個人的なつながりを盛り込んだ起業家など、真摯な形で情熱を示した人々だった。
しかし、情熱を不自然に示していると見られた起業家は、投資家からそれほど支援を得られなかった。たとえば、起業家の一人はドラゴンたちが確認の質問をしている最中に話を遮った。また別の起業家は、ほかの4人を無視して1人のドラゴンだけに熱のこもった売り込みを行い、審査員たちを居心地悪くさせた。
「従業員は自問すべきです。ここは情熱を示すのにふさわしい状況か。そうなら、評価される形で情熱を示すにはどうすればよいか」とヤキモヴィチは言う。
職種によってはうまくいかない
情熱は、ほかの職種よりも特定の職種で裏目に出やすいこともある。3つ目の研究では、仕事への情熱を示す2種類の職業の人々、会計士とコンサルタントを比較した。参加者64人は、コンサルタントが情熱を示すのはふさわしいが、会計士にはふさわしくないと答えた。ある参加者は「会計士は冷静沈着で感情を表に出さないべきだ」と述べた。
「特定の職業に人々が期待する客観性の感覚が関係しているのかもしれません」とヤキモヴィチは言う。「教師には情熱を持ち、学ぶ意欲をかき立ててほしいと思いますが、会計士には勤勉に働いてほしい。情熱的な弁護士は望みますが、情熱的な裁判官は望みません。」
「会社やチームのリーダーである私が情熱を示しただけで、周囲が私に賛同し、成功を助けてくれるとは限りません。」
ドイツ出身のヤキモヴィチは、情熱が許容されるかどうかは職場の環境に大きく左右されることを身をもって学んだ。情熱を意味するドイツ語の「ライデンシャフト」は、文字どおりには「苦難に耐える能力」を意味する。そのためドイツの労働者は、黙々と働き、努力を続け、粘り強くあることで、静かに情熱を示す傾向があるのかもしれないと彼は言う。
しかし、その振る舞いは、ヤキモヴィチが米国に移ったときには逆効果になった。静かな決意を見せていた彼に対し、米国の同僚たちは仕事への情熱が十分にあるのか疑問を抱いた。「その経験から、状況が大切であり、情熱は他者に伝わって初めて効果を発揮するのだと気づきました。」
同僚の共感を得る必要がある
研究者によれば、もう一つ考慮すべき点がある。人々が情熱的な同僚を支援するのは、その人の大義に賛同するときに限られる。
4つ目の研究で、環境問題に情熱を傾ける労働者について参加者が読んだところ、その考えに共感する参加者だけが称賛を示した。ほかの参加者は背を向けた。
そのためヤキモヴィチはこう助言する。「会社やチームのリーダーである私が情熱を示しただけで、周囲が私に賛同し、成功を助けてくれるとは限りません。まず全員が目標に賛同するよう働きかけるべきかもしれません。」
競争の激しい状況では情熱が裏目に出る
さらに悪いことに、競争の場面では情熱が有害になり得る。「情熱は人々を結びつける接着剤にもなるが、競争心をあおるガソリンにもなり得る」と論文は述べている。
5つ目の研究では、参加者に同僚と昇進を争っている場面を想像してもらった。その結果、参加者は情熱を示す同僚を支援しないだけでなく、脅威と見なした。
「人は偽りの情熱を見抜くのがとても得意です。」
こうした摩擦を踏まえ、特にチームで協力する必要がある場合、管理職は情熱的な従業員同士を競わせることを避けるべきだ。たとえば、情熱を持つ従業員3人のうち1人だけを昇進させるのではなく、一定の基準に達した従業員全員を昇進させることができる。
「ゼロサムの状況を作った途端、情熱を示すことは職場の毒になります」とヤキモヴィチは言う。「何かをめぐって従業員2人が競争すれば、一方がもう一方の足を引っ張ろうとするかもしれません。」
取り繕ってもうまくいかない
採用面接で情熱を示せば候補者に有利に働くことがあるが、状況によっては相手を遠ざける印象になる可能性も心得ておくべきだ。「採用担当者の立場で、この人は3年後に自分の職を奪いに来るのではないかと思ったら、どうでしょう。」
ヤキモヴィチが求職者、そしてすべての働く人に勧めることの一つは、自分が感じていない情熱を決して装わないことだ。
「人は偽りの情熱を見抜くのがとても得意です」と彼は言う。「面接でここで本当に働きたいと言って一度だませたとしても、働き始めてからの6か月間、だまし続けることはできません。情熱がないと分かれば、人々はだまされたと感じます。職場で情熱を示すなら、常に心からの本物であるべきです。」
この記事はもともと、ハーバード・ビジネス・スクールの『Working Knowledge』に掲載された。


