私たちの世界では、脅威を軸にしたナラティブがますます支配的になっており、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによってそれがさらに強まりました。
脅威にさらされていると感じると恐怖が生じ、その後、認識されたリスクのために他者を頼れなくなり、信頼が損なわれます。
機会を軸にしたナラティブは、世界が最も必要としている今、人々の間に信頼を築く助けとなります。
私たちは今、恐怖と信頼の欠如に特徴づけられる時代に生きており、こうした感情はパンデミックによってさらに強まりました。しかし、あらゆるものがつながるこの世界では、世界中の人々の間に、より深く幅広い信頼を築く機会もあります。ナラティブはその実現に役立ちます。
多くの人はストーリーとナラティブを同じものと捉えていますが、私は両者には重要な違いがあると考えています。私にとってストーリーは完結したもので、始まり、中盤、終わりがあります。一方、ナラティブには明確な終わりがありません。ナラティブはむしろ、将来にある、まだ実現していない大きな脅威や機会に焦点を当てます。
ストーリーは一般に、語り手や、実在するか想像上の他者についてのものであり、聞き手についてのものではありません。対照的に、ナラティブには受け手への明確な行動の呼びかけがあり、その結果は受け手の選択と行動によって決まります。
ストーリーにも大きな感情的な力がありますが、人々を鼓舞するナラティブにはそれ以上の力があります。恐怖がしばしば時代を特徴づける今、機会を軸にしたナラティブがこれまで以上に必要だと私は考えています。
脅威を軸にしたナラティブが恐怖をあおる
私たちの世界では、脅威を軸にしたナラティブがますます支配的になっています。将来を見通すと脅威が目に入り、その結果、恐怖がいっそう強まります。
恐怖は信頼を損なう傾向があります。リスクが大きすぎるため、他者を頼ることができません。悪循環が始まります。他者を信頼しなくなるほど孤立し、恐怖が強まり、さらに他者を信頼できなくなるのです。恐怖は世界中に広がっています。
だからこそ、人々が結束し、自分たちにとって意義のある成果を上げるよう促す、機会を軸にしたナラティブを作る方法を見つける必要があります。その機会が大きく魅力的であれば、私たちは目標に向けた取り組みに加わり、助けてくれるよう他者に働きかける意欲を持つでしょう。助けを求める姿勢は、自らの弱さを認めることであり、信頼を築きます。そして共に行動し、協力して成し遂げられることが見えてくると、信頼は深まります。
アップルが製品ではなく機会を売り込んだ方法
ナラティブは、個人から始まり、組織、地域、社会運動へと広がるなど、複数のレベルで形づくられ、影響を及ぼします。
組織が生み出した機会を軸にするナラティブの中でも、特に成功したものの一つが、アップルの1990年代のスローガン「Think different」です。人々が潜在能力を最大限に発揮する助けとなる新世代のデジタル技術に焦点を当てるとともに、その機会を生かすには考え方を変える必要があることを明確に示しました。
このナラティブは、人々の強い向上心に訴えかけ、多くのユーザーの間でアップルが宗教にも似た存在になるほどでした。単に「私の製品を買って」と訴えるのではなく、機会を軸にしたナラティブを描けば、組織はより幅広いステークホルダーと、はるかに深い関係を築けることを示す好例です。
フィレンツェ、ルネサンスの中心地となる
地理的なナラティブにも大きな力があります。例えばイタリアの都市フィレンツェは、ルネサンス発祥の地であり中心地であるという評判を背景に、14世紀から15世紀にかけて繁栄しました。
このナラティブが簡潔な形で語られることはありませんでしたが、あらゆる場所を探求し、人間性のより多くの側面を理解し、人間としての可能性をさらに発揮する機会に焦点を当てていました。それは芸術家、商人、科学者を結びつけ、創造性を高めるために互いに助け合うよう促しました。
この例は、都市、地域、国が、人々を鼓舞する機会を軸にしたナラティブによって人材を引きつける存在になり得ることを示しています。
ナラティブは社会運動を生み出す
機会を軸にしたナラティブは、世界の歴史を通じて、社会変革をもたらした最も成功した運動のいくつかに人々が参加するよう促してきました。
典型的な例は、英国統治からのインド独立を目指す運動の成功において、マハトマ・ガンディーが果たした役割です。後にマーティン・ルーサー・キング・ジュニアをはじめとする人々に影響を与えた非暴力抵抗の方針を通じて、ガンディーは、インドの人々が自ら主導権を握り、外部から干渉されることなく結束して支え合えたなら生まれ得る、並外れた機会に焦点を当て続けました。
誰にとっても意義のある機会を軸に、世界中の人々を結びつけるグローバルなナラティブを描けたら、何を成し遂げられるでしょうか。あえて言うなら、「大いなるナラティブ」でしょうか。
効果的なナラティブの主な要素
もちろん、ナラティブの効果はどれも同じではありません。私の研究に基づき、力強いナラティブを作るための4つの重要な要素を特定しました。
多くの参加者の意識を集中させ、意欲を高められる、将来に向けた長期的で人々を鼓舞する機会を描く。
その機会が実際に実現可能になりつつあることを示す傾向を見極める。
その機会の実現を妨げる障壁や課題を特定する。
人々が結束し、影響力の拡大に注力するよう促す、明確な行動の呼びかけを作る。
前向きなナラティブが人々を結びつける
私たちは、成果を上げるための圧力が高まり続ける世界に生きています。競争は激化し、変化のペースは速まり、世界的なつながりの拡大によって、新型コロナウイルス感染症のような、どこからともなく現れる極端で破壊的な事象が生じています。これが、社会で恐怖が支配的な感情になりつつある主な理由の一つです。
しかし逆説的なことに、成果を上げる圧力を高めている力は、同時に機会を飛躍的に拡大させています。これまでよりはるかに多くの価値を、はるかに速く、はるかに少ない資源で生み出せるのです。
課題は、恐怖に動かされると、そうした機会が見えなくなり、追求する意欲も持てなくなることです。
機会を軸にしたナラティブは、恐怖を乗り越えて結束し、はるかに大きな成果を上げるための強力な方法です。新型コロナウイルス感染症のパンデミックから立ち直ろうとする今、特に重要です。
その過程で、共に何を成し遂げられるかが見えてくるにつれ、他者との信頼もはるかに深まるでしょう。


