「天才に肌の色の線引きはない」
1939年、米国内務長官ハロルド・アイクスは、著名なコントラルト歌手マリアン・アンダーソンをリンカーン記念館の階段に迎えた際にこの言葉を述べました。彼女の公演は深い感動を呼びました。アンダーソンは、白人のみの出演を認めていたコンスティテューション・ホールでの歌唱を拒まれた後、ステージに立ちました。それでも、その日彼女の才能は数千人の心を動かしました。今この公演の映像を見ると、背筋がぞくぞくします。
アンダーソンの公演とアイクスの言葉の物語は、私が折に触れて考えることを象徴しています。それはオペラ愛好家としてだけでなく、一人の人間として、また父親として、そして多様性に苦労し続けている業界のCEOとしても考えていることです。
ビジネスパーソンとして、私たちは多様な背景、視点、考え方を持ち寄ることができれば、仕事にとって有益であることを知っています。しかし、さまざまな文化、性別、宗教、性的指向を持つ同僚で人材パイプラインを埋めていく中で、私たち一人ひとりにできることはまだ数多くあります。
もう一つの言葉が思い起こされます。「多様性は現実であり、インクルージョンは選択である」。これはスティーブン・フロストの言葉とされ、彼は著書 『The Inclusion Imperative: How Real Inclusion Creates Better Business and Builds Better Societies』の中でこの言葉を記しています。
フロストが言わんとしていることは、私たち一人ひとりが毎日毎分、インクルーシブであるという決断を下せるということだと私は考えています。それは、周囲の人々が見られている、受け入れられている、価値があると感じられるようにするために、私たち一人ひとりが取れる行動なのです。
もちろん、それは必ずしも簡単ではありません。キャリアの初期に南アフリカを訪れた際、非常に聡明で成功した友人を夕食に誘ったときのことを覚えています。彼女はアパルトヘイト時代に育ち、インド系でした。私はビジネス客に人気のレストランを選びましたが、彼女からそこは自分にとって歓迎される環境ではなく、そのため食事をともにすることは心地よくないと説明され、衝撃を受けました。
私は自分の配慮不足を深く悔やみ、招待の背後にある善意を認めてくれた彼女の思いやりに感謝しました。しかし、その日私は重要な教訓を学びました。自分にとって適切だと思うことに焦点を当てるだけでは十分ではなく、真にインクルーシブであるためには、他者の立場に身を置き、その人の気持ちを誠実に考えなければならないということです。これは、黄金律(「自分がしてもらいたいように他人にもしなさい」)を、白金律(「他人にしてほしいように他人にもしなさい」)に置き換えるべきだという主張にほかなりません。
最近発表されたハーバード・ビジネス・レビューによる調査は、この乖離を明らかにしています。14か国の16,000人以上の従業員を対象に、職場における多様性とインクルージョンについて調査が行われ、その結果は示唆に富むものでした。報告書からの引用です。「多様な従業員の半数が、日々の業務経験の一部として偏見を感じていると答えた。……これに対して、リーダー層を占める傾向にある白人異性愛者男性は、日々の経験や重要な意思決定に偏見がないと答える割合が13ポイント高かった。」
では、この問題をどのように解決し、より インクルーシブな環境を育むべきでしょうか。共感を指針とする必要があります。同時に、私たちは誰もが無意識の偏見を持っていることを認識し、それを自分自身の中で直視する勇気を持たなければなりません。
このことは、黒人である子どもたちと旅行するときに特に強く感じられます。出会う人々の反応はしばしば異なります。南アフリカでの夕食の試みと同様に、こうした経験によって、ほかでは決して気づけなかったかもしれないことに目が開かれました。自分がほかに何を見落としているのだろうかと考えさせられます。
しかし、それこそが私たち全員が歩んでいる道なのかもしれません。1939年からは大きく前進してきました。しかし、まだ先は長いのです。


