アーティストやデザイナーと企業との間には、分野横断的な連携の正式な実践方法が確立されていない。
アーティストやデザイナーは、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が高まる世界で求められるスキルを教えることができる。
効果的な分野横断的連携に取り組むには、ビジネスと文化の双方が互いの違いを認識しなければならない。
企業エコシステムと文化・クリエイティブ産業(CCS)の間には、アーティストやデザイナー個人に至るまで、根本的な断絶がある。しかし、分野横断的な連携は、クリエイターがビジネスに革新的なスキルや戦略を提供する手段となり、今日の激動する世界で非常に価値あるものとなり得る。第四次産業革命、次世代経済、そしてよりネットワーク化された社会へと移行するなかで、現在の断絶によって、そうした未来の構築に活用できる価値の高い人的資本が大量に失われるおそれがある。
企業は、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が高まる世界で課題に直面している(VUCA)。存続し、成長するには、こうした課題を克服しなければならない。そのために必要なスキルと能力を備え、準備を整える必要がある。美的魅力を備えた革新的な製品・サービスを提供し、低コストで迅速にイノベーションと変革を進め、実験的なイノベーションを通じて新たな成果を生み出せるよう、差別化戦略と生産プロセスを追求する必要がある。必要とされるプロセスは、CCSで見られるものと大きく異ならない。
CCSは高い成長を遂げていたが、COVID-19パンデミックの衝撃はこれらの産業に壊滅的な影響を及ぼした。最も大きな打撃を受けた分野の一つであり、最近のユネスコの報告書は、2020年に世界全体でこれらの産業の雇用が合計1,000万人失われたと指摘した。特に大きな影響を受けたのは、舞台芸術(売上高が90%減)、音楽(同76%減)、視覚芸術(同38%減)である。したがって、ビジネスモデルのイノベーションを通じて、より良い形で、そして皆で復興することが不可欠だ。
アーティストやデザイナーと企業との間で、正式な手続きを整え、専門性を高め、連携を組織化した分野横断的な協力関係を築けば、企業セクターと文化セクター双方の課題やニーズに応えられる。それはビジネスモデルのイノベーションを促し、絶えず変化するVUCAの世界で企業が成長するために必要な新たなスキルを生み出す基盤となる。
芸術分野の職業には、こうした産業における自営業の不安定な状況や、創造的プロセスに本質的に伴うリスクテイクの性質ゆえに、VUCAが深く浸透している。芸術分野は、実験する力、システム思考、複雑な問題解決力、創造的プロセスを重視する考え方など、分野横断的なスキルを提供できる。これらは、より多面的で創造的な解決策の可能性を引き出し、VUCAの特徴を持つ状況への対処に役立つ。私たちの分析では、企業が将来も存在感を保つために必要とする労働力のスキルと、アーティストやデザイナーが提供できるスキル・能力との間に、際立った一致が見られた。
分野横断的なビジネスモデルのイノベーションには、創造的思考の力を解き放つ大きな可能性がある。しかし、異なる分野の信念、価値観、動機、言語、思考・行動様式の違いを十分に理解し、調和させることが成功には必要だ(こうした違いは、不快ではなく強みとして捉えることもできる)。これは、分野横断的な連携から生まれるイノベーション文化を確立する前提となる。この分野ではこれまでも取り組みが行われてきたが、共通基盤を築く実践を効果的に組織化する動きは大きく不足しているようだ。分野横断的な連携に関する私たちの近日公開予定の報告書では、こうした整合性を実現するうえで重要な15のテーマを特定した。

これらのテーマは、あらゆるレベルでCCSと企業セクターが、分野横断的な連携と労働力のスキル開発に向けた枠組みおよびイノベーション・エコシステムを構築するための基盤となる。
効果的な交流を促すには、企業セクター、アーティスト、デザイナーの双方において、専門的能力の育成が極めて重要だ。これには、分野間の接点を特定すること、関連する連絡先や役割を把握すること、接点形成の各段階における対話の性質を理解すること、対話に取り組む効果的な方法を用いること、そしてアーティストやデザイナーと接点を持ち交流する最適な時期を見極めることなど、基本的な要素が含まれる。こうした要素に対応した専門的能力の育成は、交流の価値を高め、連携を単なる美辞麗句や話し合いに終わらせないことにつながるだろう。
分野横断的な連携の障壁
CCSと企業セクターはともに、既存の信念体系や考え方によって、効果的な分野横断的連携を妨げられている。
自らのスキルや才能を他の場面で生かす意思のあるアーティストには、連携の理由や方法を理解し、実践してきたロールモデルからの刺激が必要だ。現在、実践コミュニティ内外で、そうした人々の存在は十分に知られていない。一方、ビジネスや産業界では、アーティストやデザイナーとの連携に関する、明確で容易に利用できる指針が不足しているようだ。
政府レベルでは、より優れた政策手段が分野横断的な連携の促進に役立つ。効果的に機能させるには、分野横断的連携の組織化を政策レベルで扱うとともに、各セクターの実践を促すマクロレベルのプログラムを通じて取り組むことが不可欠だ。これに関して17の提言を行う。

分野横断的連携が持つ可能性は非常に大きく、実践によってシステム全体の変革も実現できるが、その可能性を知る人はまだ少ない。この分野に集中的に取り組むことで、その仕事の価値を高められるほか、経済面などの実利的な側面でもCCSを強化できる。例えば、職業にハイブリッドなアプローチを取り入れたいアーティストやデザイナーに、新たな代替労働市場を生み出すことができる。また、企業が必要な人的資本を備え、VUCAの世界の課題に対応する助けにもなる。


