私たちは、グローバル化と技術の進歩によって形づくられた多様性が現代社会の基盤をなす、複雑で相互につながった世界に生きている。こうした相互のつながりがある一方で、アイデンティティ政治やナショナリズムの理念の再興にあおられ、現実世界でもデジタル空間でも、分断が深まっている。
当然ながら、職場は私たちの仕事以外の生活にある社会文化的な力学を映し出す傾向がある。私は多国籍企業を立ち上げ、約20年にわたって成長させるなかで、職場の多様性は企業と従業員の双方にとって資産だと学んだ。均質な環境ではめったに得られない形で、イノベーション、創造性、共感を育む力があるからだ。しかし、このかけがえのない資産の真の可能性を引き出すには、丁寧に育み、意識的に調整していく必要がある。
グローバル化の時代において、ビジネス環境の多様性が意味するのは、性別、人種、民族性だけではない。宗教や政治に関する考え方、教育、社会経済的背景、性的指向、文化、さらには障害の有無も多様な従業員が含まれるようになった。企業は、多様で包摂的な職場を支援し、推進することで、見かけ上の効果を超える恩恵を得られると気づき始めている。
ビジネスには、より開かれた多様で包摂的な社会へと変化し、その実現に貢献する力がある。それを実現するには、組織の内側から始めるしかない。多様性がビジネスにとって有益だと、直感的に分かっている人は多い。組織のあらゆる階層で真に多様な人材を擁することの意義は、年々説得力を増している。道義的な理由だけでも十分に重いが、複数の調査が示す財務面の効果を見れば、迷う余地はない。
破壊的変化とイノベーション
都市や社会で、異なる経験を持つさまざまな民族の人々が出会うことは、イノベーションを促す重要な要因だ。私たちが毎日食べる料理は、文化が融合して生まれたものだ。ジャズ、ロックンロール、ヒップホップといった、最も成功した音楽ジャンルも、文化の融合から生まれている。
世界で最も革新的で、変革をもたらし、繁栄している都市、ニューヨーク、ドバイ、ロンドン、シンガポールを見てみると、共通点が一つある。いずれも移民の割合が高い、国際色豊かな人々のるつぼだ。高度な技能を持つ移民の増加と、イノベーション水準の向上および都市や地域の経済実績との間には、直接的な相関関係があることが調査で示されている。
シンガポールは格好の事例だ。人口がわずか500万人余りのこの小さな東南アジアの島国は、今や世界有数の金融センターとなっている。同国は、国際ランキングで教育やビジネスのしやすさなど幅広い分野において高い評価を受け、世界で最もテクノロジー対応が進んだ国として認められている。シンガポールは多文化社会でもあり、中国系、マレー系、インド系の人々が暮らし、仏教徒、キリスト教徒、イスラム教徒、ヒンドゥー教徒など、さまざまな宗教を信仰する人々も多い。
1965年にシンガポールが独立を果たした際、建国の父たちは、人種間の融和を成り行き任せにしないための措置を講じた。シンガポールは人種や民族の統合を積極的に推進した。重要な施策の一つが住宅政策で、すべての公営住宅団地に人種別の全国割当率を設けた。これにより、異なる民族の人々は互いに暮らすことを学ぶようになり、独立当時に広く存在した民族ごとの隔離地域は解消された。
一見すると権威主義的なこれらの措置は、小さな島国に、統合の進んだ国民を育むうえで役立った。人種や宗教よりも実力主義を重んじる人々である。シンガポールの民族的、宗教的多様性は国の資産であることが証明され、その結果、比較的高い水準の人種間融和が実現している。米国が学ぶべき点だ。
隣国であり、私の母国でもあるマレーシアでは、民族、文化、宗教の多様性が常に推進されてきた。18歳になるまでに私は5つの言語を話せるようになり、中国系、インド系、マレー系、ユーラシア系の友人ができた。友人たちはそれぞれ異なる宗教的背景を持っていた。マレーシアは世界でも特に文化的、民族的に多様な国の一つであり、地域の大半の国々を上回る実績を上げ、独立以来、高い年間GDP成長率を記録してきた。多言語を話す労働力は、マレーシア人である私たちに職場で優位性をもたらしている。
多様性とビジネスの業績
多様性が組織に数多くの利点をもたらすことを示す研究は豊富にある。収益性と創造性の向上、ガバナンスの強化、問題解決能力の改善などだ。多様な背景を持つ従業員は、それぞれの視点、アイデア、経験を持ち寄り、強靭で効果的な組織づくりに貢献する。そうした組織は、多様性に投資しない組織を上回る成果を上げる。
ボストン コンサルティング グループの調査によると、経営陣の多様性が高い企業は、イノベーションによって売上高が19%高い。この調査結果は、テクノロジー企業、スタートアップ、そしてイノベーションが成長の鍵となる業界にとって重要だ。多様性は単に目指すべき指標ではなく、収益を生み出すビジネスの成功に欠かせない要素であることを示している。

こうした調査の多くが欧米で実施されている一方、アジア諸国はそれぞれのペースで平等をめぐる議論に取り組んでいる。過去40年間の文化的変化により、現在の東南アジアでは、女性の労働参加率が42%に達し、世界平均の39%を上回っている。
「2018年ヘイズ・アジア多様性と包摂性」レポートによると、回答者が挙げた多様性の主な利点は、企業文化の改善、リーダーシップの強化、イノベーションの促進だった。しかし、能力が同等でも、年齢、障害、民族性、性別、家族への責任、婚姻状況、人種、宗教、性的指向などの要因によって、給与、仕事、キャリアの機会へのアクセスが妨げられる可能性があると、多くの参加者が認識していた。
個人、企業、国のいずれにとっても、柔軟性と多才さがこれまで以上に成功の鍵となっており、文化的に多様な環境は、こうした資質を身につける最良の方法だ。思い込みを問い直し、対話を重ね、企業文化を更新する必要がある。そうすることで、現代の職場が地域の人々を正確に反映し、支えられるようになる。
ビジネスの多様性におけるミレニアル世代の存在感
2025年までに、世界の労働人口の75%をミレニアル世代が占めることになる。つまり、今後10年間でこの世代がリーダー職の大半を担うことになる。職場文化や人々の生活に影響を与える重要な決定を下す立場になるのだ。この世代は多様性について独自の視点を持っている。上の世代が人種、人口統計、平等、代表性という観点から多様性を捉える傾向があるのに対し、ミレニアル世代はさまざまな経験、異なる背景、個々の視点が融合することだと考える。理想の職場とは、ある問題について多様な視点を受け入れる余地のある、支え合う環境だと捉えている。
2018年のデロイト・ミレニアル世代調査によると、回答者の74%は、包摂の文化がある組織ではイノベーションが促進されると考えている。企業がミレニアル世代の人材を採用し、定着させたいのであれば、多様性を企業文化の重要な一部にしなければならない。この2016年の調査によると、ミレニアル世代の47%は、就職先候補を検討する際、職場の多様性を積極的に重視している。
職場における女性
企業社会では、ジェンダー平等が依然として大きな課題だ。企業の経営幹部に女性が多いほど収益性が高いことを裏付ける研究が数多くあるにもかかわらず、依然として大多数の企業でジェンダー格差が存在する。企業の人材登用の流れにおいて、女性は依然として著しく少ない。採用される女性は初級職でも男性より少なく、その後の各段階で女性の割合はさらに低下していく。
企業には、女性を支援し、昇進を後押しする包括的な計画が必要だ。そのためには企業文化の根本的な転換が求められ、従業員研修への投資や、仕事と生活を両立しやすくする柔軟性の拡大が必要となる。
ピュー・リサーチ・センターが実施した調査では、政治とビジネスの主要分野において、女性のほうが優れているとされる点がいくつか挙げられている。回答者によると、女性は次の点で優れている。
妥協点を見いだす能力が34%高い
誠実で倫理的である可能性が34%高い
自らの信念を貫く可能性が25%高い
公正な給与と福利厚生を提供する可能性が30%高い
指導力が25%高い
先見性のある企業は、道義的な責任としてだけでなく、堅実な経営戦略としても、より多くの女性を雇用し、職場で力を発揮できるようにする方法を探るべきだ。マッキンゼーの最新レポート「ダイバーシティを通じた成果の実現」によると、経営陣のジェンダー多様性を重視する企業は、競争力が高く、平均を上回る収益性を実現する可能性が21%高かった。また、長期的な価値創出で同業他社を上回る可能性も27%高かった。顧客ニーズ、製品の改善、企業の健全性に関する多様な視点が、より良いビジネスを生み出す。
ジェンダー格差の解消により、2025年までに世界経済の価値に28兆ドルが上乗せされると推計されている。これは26%の増加にあたる。端的に言えば、女性の経済的自立が進むほど、企業や社会は成長し、繁栄しやすくなる。
ビジネスにおける多様性を支持する
企業が公の場で声を上げ、多様性と寛容を支持することが重要だ。その好例が、アメリカンフットボールのクォーターバックで権利擁護活動家のコリン・キャパニックを支持したナイキだ。単なるマーケティング施策にとどまらず、米国を代表する有名企業の一つが、人種的不公正と不寛容に立ち向かう一人の男性と共に闘う姿勢を示した。
プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の「We See Equal」キャンペーンは、ジェンダーによる偏見と闘い、すべての人の平等を目指す取り組みとして、ジェンダーの固定観念に挑む少年少女を描いた。同社はこの問題を長年推進しており、管理職の45%、取締役の3分の1を女性が占めている。自社の従業員における平等への明確な取り組みがあったため、このキャンペーンは本物らしく、変化を起こそうとする真摯な取り組みとして受け止められた。
多様性と包摂性を率先するリーダーから学べることは多いが、企業ごとに取り組みの形は異なることを忘れてはならない。多様性の意味は人それぞれであり、組織はそれぞれの定義を自社に合わせて適用する必要がある。
多様性と包摂性は、一度限りのキャンペーンや単発の取り組みで済むものではない。職場でそれらを推進することは絶えず続く取り組みであり、効果を確かなものにするには継続して育んでいかなければならない。この変革には共感力のあるリーダーシップが欠かせない。真の変化を起こすには、すべてのリーダーが、帰属意識の価値を知性と感情の両面から受け入れる必要がある。
ビジネス界は力を合わせ、多様性と寛容さを備えた社会というメッセージを広めるため、これまで以上に積極的に発言し、関与しなければならない。険しい道のりだが、平和、繁栄、進歩はそれにかかっている。



