世界保健機関(WHO)のある報告書によると、2015年には世界中で100万人以上が道路関連の事故で命を落とした。交通事故は今も15歳から29歳の若者の死因の第1位であり、世界各国の政府に毎年、国内総生産(GDP)の約3%に相当する損失をもたらしている。
「この甚大で、その大部分が防ぐことのできる人的・経済的損失にもかかわらず」とWHOは述べ、「この世界的な課題に取り組む行動は不十分だ」と指摘した。
速度制限の順守やシートベルトの着用、飲酒運転の禁止を訴える交通安全キャンペーンに頼る国もあるなか、スウェーデンはさらに一歩踏み込んだ。
ゼロを目指す
スウェーデンは1997年、2020年までに交通事故による死者をゼロにすることを目指す「ビジョン・ゼロ」政策を導入した。危険を減らすには、道路の物理的な改修と、交通法規を徹底させる新たな政策が必要だった。
現在はラウンドアバウトが増え、交差点が減り、歩行者が道路を横断する場所では車両が曲がれないようになっている。歩道橋も増設され、自転車は対向車線と分離された。また、厳格な取り締まりによって、飲酒運転の違反件数が減少した。
この取り組みが始まって以来、交通事故死者数はほぼ半減した。2016年にスウェーデンで交通事故により死亡した人は270人だった。20年前の死者数は541人だった。
これを米国と比べてみよう。41,100人が2017年に道路関連の事故で死亡したと、連邦道路管理局の統計は示している。1964年を振り返ると、交通事故による死者は45,645人だった。半世紀以上を経ても、改善はわずかだ。ただし、人口増加と道路を走る車両数の増加を考慮に入れる必要がある。
世界の手本
スウェーデンの進展は目覚ましく見えるものの、目標達成には苦戦している。死亡事故ゼロの目標年は、2020年から2050年に先送りされた。
それでも、スウェーデンの取り組みは多くの政府や州からモデルとして注目されている。カナダの一部地域、ノルウェー、米国の複数の州、欧州連合(EU)の一部の国では、「ビジョン・ゼロ」のさまざまな形が試されてきた。
世界各地でスウェーデンの進展を再現できれば、多くの命が救われるだろう。すでに一部の地域では改善の兆しが見られる。
欧州の道路が他国より安全な理由の一つとして、多くの専門家は、新たに運転免許を取得する人への試験がより厳格であることを挙げる。2017年、EU加盟国の道路での事故による死者は約25,300人だったが、米国より約15,000人少なかった。
スウェーデンで運転を習うには、1,800ドルを超える費用がかかることがあり、欧州の他の地域ではさらに高額になることもある。一方、多くの米国人は、免許を安価に取得でき、教習もあまり必要ない。
意識を変える
スウェーデンで最も大きく変わったことの一つは、交通事故による死がどう受け止められるかかもしれない。2014年のインタビューで、同国を代表する交通安全戦略家の一人、マッツ=オーケ・ベリン氏は、「ビジョン・ゼロ」に取り組む価値があると説得するのが最も難しかったのは、政治経済学者だったと語った。
「彼らにとって、『ゼロ』を受け入れるのは非常に難しい」とベリン氏は述べた。「経済モデルでは費用と便益があり、明言はしないかもしれないが、死者数には最適な水準があるという考え方がある。交通のために支払わなければならない代償だ、と」
こうした意識を変えることは、世界全体で交通事故による死者数を減らすうえで、重要な要素となるかもしれない。
