「真実がズボンをはく間に、嘘は世界の半分まで広がる」
この言葉が意味と出典の議論の両面でよく示すように、事実と虚構のせめぎ合いは今に始まったことではありません。ウィンストン・チャーチルやマーク・トウェインなど、さまざまな人物の言葉とされていますが、真実が「ズボンをはく」のか、「靴をはく」のか、あるいは「ブーツをはく」のかについても意見が分かれています。
嘘についての言葉の起源や性質をめぐって異論があるという皮肉は、この12か月の出来事を考える人なら誰もが気づくでしょう。2016年、重大な変化が起きました。専門知識やエリート層への不信感が鮮明になり、私たちはまさに事実が重んじられない時代に置かれています。これは、互いに影響し合ってきた4つの力が強まった結果にほかなりません。
第一の力は、制度への信頼が失われ続けていることです。世界人口の半数にも満たない人しか、メディアや政府を信頼していません。企業を信頼する人も、半数をわずかに上回る程度です。第二に、ソーシャルネットワークや検索エンジンのアルゴリズムに後押しされた偽ニュースが増え、自分の既存の偏見に合う情報を好む傾向や集団思考も広がっています。そう考えれば、スタンフォード大学の研究者が、大半の学生はオンライン情報の信頼性を判断するのに苦労していると明らかにしたのも不思議ではありません。フェイスブックが最近、外部のファクトチェック機関を起用すると決めたことは、問題の深刻さを物語っています。

第三の力はポピュリズムの台頭です。世界各地の選挙や国民投票で見られた抗議票に表れています。最後の力は、偽ニュースの増加をもたらしたもう一つの要因でもある、メディアの力が主流から離れていることです。参入障壁が大幅に下がるなか、新興メディアやブロガーのジャーナリストが、一人ひとりの読者を主流メディアから奪っています。
こうした力は、排除されているという感覚を強め、さらに煽ってきました。人々を、自分が認められていると感じる場所へと駆り立てる悪循環――ひょっとすると破滅への連鎖――を生み出しています。そうした場所はたいてい、主流の専門家の見解から大きく離れています。
これが診断だとすれば、どのような対応が必要でしょうか。今年の世界経済フォーラム年次総会のテーマは、迅速かつ責任あるリーダーシップです。ダボスでは、制度、構造、テクノロジーについて、それらが変革を可能にする側面と、混乱を引き起こす側面の両方から、多くの議論が交わされるでしょう。
しかし、これからのリーダーシップに欠かせない側面は、コミュニケーションの分野にあります。ここ数か月に話した多くの政治・経済界のリーダーは、いま直面している前例のない「事実が重んじられない現実」に衝撃を受けていました。それでも、現在彼らを信頼していない地域社会と意思疎通し、関係を再構築する方法を見つけなければなりません。
この取り組みを始めるにあたり、事実が重んじられない時代に、すべてのリーダーが検討すべき4つのコミュニケーション戦略を紹介します。
最高コミュニケーション責任者(CCO)を役員会と閣議に加える
最近の調査によると、フィナンシャル・タイムズ上位500社のうち、欧州企業の最高コミュニケーション責任者(CCO)が経営委員会のメンバーとなっているのは24%です。この割合は上昇傾向にあるものの、大多数の企業では、最高レベルにコミュニケーションの専門知識がありません。評判に関わるリスクが常に、差し迫った明白な企業の脅威とされていることを考えると、これは奇妙な状況です。2008年の金融危機以降を振り返っても、究極の経営の場である役員会にCCOがいれば改善できなかったコミュニケーション危機を見つけるのは難しいでしょう。
企業と同じことが政府にも言えます。政府全体のコミュニケーション方針を担う閣僚級の役職を設ければ、市民との対話は大きく変わる可能性があります。事実が重んじられない時代に政府の政策を推進するには、何が起きているのか、なぜ起きているのか、どのような結果をもたらすのかを説明する透明性と双方向の対話が必要です。
多額の支出より、分かりやすさ
簡潔なメッセージこそ、人々の支持を得ます。米国大統領選挙と英国のEU離脱を問う国民投票が示したように、資金力のある側が常に勝つとは限りません。英国政府は、EU残留の理由を説明するチラシを全国の全世帯に配るために900万ポンドを費やした可能性がありますが、勝ったのは、より簡潔なメッセージでした。赤いバスに国民保健サービス(NHS)への具体的な増額をうたった主張を掲げたのが、その象徴です。クリントン陣営はトランプ陣営を50%上回る資金を投じた可能性がありますが、ここでも勝ったのは、野球帽に大きく記された、きわめて簡潔なメッセージ「アメリカを再び偉大に」でした。
ほかにも例があります。ブリュッセルを拠点とするメディアへの調査では、ジャーナリストの73%が、欧州委員会のコミュニケーションは不十分だと評価しました。年間5億ユーロという潤沢なコミュニケーション予算があるにもかかわらずです。
まずソーシャルメディアから始める
数字がそれを物語っています。フェイスブックだけでも月間アクティブユーザーは18億人に上り、さらに驚くべきことに、毎日12億人が利用しています。一方、推計では、まもなく世界人口の3分の1にあたる25億人が、ネットワークの種類を問わずソーシャルメディアを利用するようになります。新たに台頭する世代に目を向けると、TCSの最近の調査では、デジタルネイティブとして成人した18~29歳の欧州の「ジェネレーション・ダイレクト」の半数が、変革を求める働きかけにソーシャルメディアを使っていることが分かりました。
これだけの証拠があるにもかかわらず、企業や政界では多くの人が、ソーシャルメディアをメディア戦略の中心ではなく、単なる一つのチャネルとして扱い続けています。明確にしておきましょう。ソーシャルメディアは単なる一つのチャネルではなく、コミュニケーションの中核そのものです。
「I.E.テスト」に合格する:鼓舞し、楽しませる
心理学では、一般に心には2つの思考システムがあるとされています。一つは速く、直感的で、感情的かつ自動的に働くシステム。もう一つは、より遅く、論理的で、意識的に働くシステムです。便宜上、前者はシステム1、後者はシステム2と呼ばれます。私たちはより論理的で意識的な自分を重視しがちですが、速く直感的に働く思考を無視すれば、危険を招きかねません。
証拠に基づく意思決定は、今も重要です。事実が重んじられない時代には、これまで以上に重要だと言う人もいるでしょう。しかし、データだけでは十分ではありません。物語も大切です。ストーリーテリングも大切です。感情的なつながりも大切です。これは特に、権利を奪われ、疎外感を抱く人々に語りかけるときに当てはまります。デジタルメディアやソーシャルメディアを構成する雑多なコンテンツの中で、人々の目を引くメッセージは、感情に訴えかけなければなりません。つまり「I.E.テスト」を受けて合格することです。情報を伝えるのはもちろん、相手を鼓舞し、楽しませることも忘れてはなりません。真実がついに嘘を追い越して世界中に広がる必要があるなら、新しい装いが必要です。600ページの専門家報告書だけではもはや足りず、テンポのよい60秒のインスタグラム動画も必要なのです。
