農業はインドの社会経済的発展の中核を担っており、人口の55%超にとって直接的な生計の源となっています。しかし、農業のあらゆる部門で大規模かつ堅調な生産が行われているにもかかわらず、インドの農家は所得の不安定さに直面しています。窮状にはさまざまな要因がありますが、主な原因は、農家が農場近隣の市場にしかアクセスできず、遠方にある需要と結びつけないことです。農家は、高い生産量と深刻な経済的困窮という矛盾に直面しています。
インドの農業従事者の福祉を向上させるには、生産物に適正な価値を提示する市場で農家が販売し、収益を得られるようにすることに重点を置いた、強固な農業戦略が必要です。昨年初め、ナレンドラ・モディ首相は、インドが独立75周年を迎えるまでに農家の所得を倍増させるという目標を掲げました。この目標の達成には、見直しと革新を伴うアプローチが必要です。その一例が、農家所得倍増に関する省庁間委員会が策定を進める包括的な戦略です。同委員会は、生産性の向上だけでは農家が直面する課題を解決できないと認識しています。市場とのつながりも併せて改善する必要があります。
2017年8月、同委員会は農家の所得倍増に向けた最初の提言を発表しました。これは、インド農業の発展に向けた戦略転換を示すものです。同委員会は、インド農業を市場主導型の事業として発展させるため、従来の生産中心の手法から所得重視の戦略へ移行するよう提唱しています。この価値重視のアプローチは、農業生産量の単純な拡大にとどまらず、既存の多層的なサプライチェーンを迂回するバリューチェーンの統合を目指します。この戦略に沿って、インドは農家を単なる耕作者から農業起業家へと変革する道を歩み始めています。
同委員会の提言は、「農場から食卓へ」の生産物の流れを、逆方向の「食卓から農場へ」の価値の流れが導く、価値重視のサプライチェーン体制を掲げています。この包括的なアプローチには、需要と生産、そして生産後の管理を統合することが必要です。将来的には、生産のあり方がより需要主導型となり、農家は行政による価格設定のもとで最低限の価値しか得られないのではなく、生産物から適正な価値を得られるようになると期待されています。

インドのように広大で多様な国で、この道のりは容易ではありません。インドは世界でも農業の生物多様性が特に豊かな国の一つであり、人口構成も同様に多様です。この取り組みを主導するには、望ましい成果を実証できるよう、システム全体に関わる活動を含む重点的なプロジェクトに力を注ぐ必要があります。そのための明確な提言の一つとして、同委員会は価値重視のサプライチェーンを推進する全国規模のプラットフォーム設立を挙げています。こうした取り組みは、農業を事業として営むあり方の変革を促す足掛かりとなり得ます。
農業価値システム・パートナーシップ・プラットフォームと呼ばれるこのプラットフォームは、政府、民間企業、農業団体、NGO、シンクタンク、学術界など、農業に関わる多様なステークホルダーの力を結集し、市場主導型の段階と形式を促進して、インド農業の次なる発展につなげることを目指しています。
このプラットフォームは、インドのフードチェーンを需要主導で統合するため、民間部門の関係者と政府機関との長期的なパートナーシップを促進することを目的としています。同委員会は、生産者、販売業者、小売業者、消費者など、独立した主体がそれぞれ行う活動を持続的に統合するとともに、これまで統合を妨げてきたボトルネックを取り除く必要があると認識しています。
このプラットフォームは、政府の信頼に足る強みと民間部門の業務効率を結びつけ、農業サプライチェーンを刷新する共同の取り組みを可能にする、またとない機会を提供します。民間部門にとっての障害の一つは、生産地で分散している農業基盤をまとめることです。政府機構は、広範な普及指導員ネットワークや、大規模な農業研究開発センター網の活用を通じて、ここで最大の価値を発揮できます。
さらに政府には、銀行融資などの制度を通じたさまざまな財政・金融支援の仕組みがあり、このプラットフォーム上のプロジェクトに活用できます。農業価値システム・パートナーシップ・プラットフォームは、作物、畜産、水産、林業を含む全分野から統合型プロジェクトを募り、生産前から生産後まで、サプライチェーンのあらゆる活動を対象とします。
このプラットフォームは、一部の州で試験導入され、良好な成果を上げたパートナーシップの拡大も支援します。2012年以来、農業省の「総合農業開発のための官民パートナーシップ(PPPIAD)」イニシアチブが3州(マハーラーシュトラ州、カルナータカ州、アーンドラ・プラデーシュ州)で実施されており、バリューチェーン事業への民間部門の共同投資によって農家の所得が着実に向上しました。この3州では、世界経済フォーラムの支援を受けて州レベルのパートナーシップ・プラットフォームが構築されました。PPPIADなどのプログラムから得られた知見は世界経済フォーラムによって活用されており、同フォーラムは全国農業価値システム・パートナーシップ・プラットフォームの開発も支援しています。
このプラットフォームは、官民連携で実施するプロジェクトを支援・促進し、農業マーケティング環境の強化に向けた政策改善の根拠となる知見を提供します。政府の包括的な支援のもとで長期プロジェクトに参加する組織は、業務上のボトルネックの緩和と、不確定要素の減少を期待できます。また、プラットフォームを通じて、州どうし、さらには海外の農業コミュニティとの間で、優れた実践例や教訓が共有されることも期待されています。
バリューシステム・プラットフォームのこの意欲的な構想を成功させるには、すべてのステークホルダーが共有するビジョンと、戦略的な協力や共創を推進できるリーダーシップが必要です。こうした協働パートナーシップは、農家の所得を増やして小規模農家に価値をもたらすだけでなく、経済面と環境面の双方で農業を真に持続可能なものにすることにも貢献します。
