地図は私たちの日常生活に欠かせないものだ。
車での道順を調べたり、レストランや店を探したり、選挙データを分析したりするのに地図を使う。スマートフォンの地図で友人の居場所を確認することもできる。友人が街へ出かけているときにも役立つ。
GoogleマップやCitymapperなどのデジタル地図ツールでは、ある通りの名前の由来や、地域にとって文化的に極めて重要な課題が何かは、通常わからない。
しかし「ストーリーマップ」は、私たちを取り巻く世界を描くインタラクティブな手法であり、地図作成の方法として人気が高まっている。こうした情報をはじめ、さらに多くのことを伝えられる。
地理学者として私たちは、ストーリーマップが人権、気候変動、難民の定住といった複雑な世界的課題への理解を深める助けにもなると考えている。
いくつか例を紹介しよう。
語られてこなかった歴史
ストーリーマップは一般に、地理地図に物語性のある文章、画像、マルチメディアコンテンツを組み合わせ、特定の場所について、より豊かで、しばしば隠されてきた物語を伝える。
ジュリアン・バー氏は、ワシントン大学の地理学者でLGBTQ史の研究者でもある。シアトルのパイオニア・スクエアを巡る印刷版のウォーキングツアーを、デジタル化されたインタラクティブなシアトルのクィア史をたどるセルフガイドツアーへと作り変えた。
パイオニア・スクエアのウォーキングツアーは、1990年代後半に初めて企画された。立ち上げたのはノースウェスト・レズビアン・アンド・ゲイ歴史博物館プロジェクトで、当初はこの地域の歴史を記念することだけを目的としていた。
「人々に、ひと目ではわからない、あるいは表面化していないクィアの歴史を知ってもらうため、年に数回開催されていました」とバー氏は説明する。
2017年、バー氏はより幅広い人々が参加できるよう、ツアーをさらにインタラクティブな形式で提供することにした。オンライン化し、新聞資料室から歴史的な写真を追加した。写真には、1978年の反レズビアン法案に対する大規模な抗議の現場となったオクシデンタル・スクエアの様子や、この地域にあったゲイバーそれぞれの背景が記録されている。

今では、散策ルートの各地点が、1890年代以降、シアトルの地域LGBTQコミュニティの形成にどう貢献してきたかを知ることができる。
「ツアーをデジタル化したことで、この重要な地域史をより多くの人にとって身近で魅力的なものにできました」と彼は語る。
一人ひとりの歩み
ストーリーマップは、難民が故郷から遠く離れた場所で新たな生活を築く過程を理解する手がかりとなる。
2017年、博士課程の研究の一環として、オーストラリアのウーロンゴン大学で、コンゴ民主共和国、イラン、イラク、リベリア、ミャンマー、シリア、ウガンダ出身の26人に聞き取り調査が行われた。対象者は、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州のイラワラ地域に定住した経験について語った。
イラワラは、難民が逃れてきた紛争地域より安全だ。しかし、季節ごとにさまざまな災害にも見舞われる。洪水、森林火災、ひょう、強風、落雷などだ。聞き取りを受けた難民26人のうち10人は、イラワラで暮らし始めて最初の数年間に、激しい悪天候に不意を突かれたと報告した。
聞き取りから生まれた詳細な手描きの図表は、難民がオーストラリアへ向かう途中で経験したことを描き、「リスク」(洪水や火災など)から、家族、隣人、地域社会がもたらす「安全」へと至る道のりを示している。

この図表は現在、デジタル形式でオンライン公開されており、難民が過去の災害を生き延びた経験をオーストラリアでの安全確保にどう生かしているかを知る手がかりとなる。
市議会、地域の緊急対応機関、コミュニティ団体は現在、元難民と直接協力し、イラワラでより地域の実情に即した、災害への備えと対応のサービスを設計している。
気候変動を地図に描く
地域社会に根付いた視覚的・口述的な地図作りの伝統を生かせば、定期的なインターネット接続がほとんど、あるいはまったくない場所でも、ストーリーマッピングを行うことができる。
2016年、ワシントン大学の教授であるジンキュ・ジュン氏は、エクアドルの自給農家と協力し、付箋を使って気候変動について地域住民が話し合う場を設けた。

「地元の人々は地図についての理解が非常に限られていました」とジュン氏は語った。「気候がどこで変化しているのかを正確に指し示すことも、なかなかできませんでした。」
そこでジュン氏は、エクアドル中部の山岳地帯にあるコトパクシ県、ティカティリン=マルカロ・グランデのコミュニティで、男女16人の農家に三つの質問をした。子どもの頃から、地域は変わりましたか。それ以来、気候はどう変わりましたか。過去に、特に大きな影響を受けた気候関連の出来事はありましたか。

農家の人々は答えを付箋に書き、地域の地図に貼り付けた。
その結果、アンデス山脈の高地に広がるこの一帯の気候変動について、きわめて個人的で、地理的な詳細を備えた物語が生まれた。
農家の人々は、地域の草地が乾燥し、家畜の餌や水を見つけにくくなっていると指摘した。それに応じて農業のやり方を変えたという人もいた。また、収穫のため畑へ向かう前に祈る人もいた。深刻な気候現象を「タイトゥイタ(父なる)神」による罰と受け止めていたのだ。
ジュン氏は、自身のストーリーマップと、それが内容に反映された学術誌掲載論文が、エクアドルの政策立案者によるアンデス地域の実情に即した気候政策の策定に役立つことを期待している。
ストーリーマップがこれから教えてくれること
ここで紹介した三つのプロジェクトは、はるかに広大なストーリーマップの世界のほんの一端にすぎない。
ストーリーマッピングは、語られる機会の少ない人々の物語に耳を傾け、コミュニティや政府が、自分たちの暮らす場所の歴史と未来について考える際の手がかりを与える、柔軟なツールだ。

ごく身近な地域の経験や、きわめて個人的な経験を可視化することで、ストーリーマップは、グローバリゼーションから移住に至るまで、今日の重要課題の一部について、より繊細で複雑な物語を伝える可能性を秘めている。
私たちの研究は、地理学者だけでなく、活動家、政策立案者、地域住民にとっても、ストーリーマップが物語を伝える手段として力を発揮することを示している。
